お話を聞いたのは……

LEATHER TOWNSOKA Project team広報・コーディネーターの河合泉さん。

革の新たな可能性を追求する試み

2022年、歌手としても活躍した篠原ともえさんがデザインしたエゾシカ革の着物「THE LEATHER SCRAP KIMONO」が日本タンナーズ協会の広告作品として発表され、世界的な広告賞を受賞し話題になったのは記憶に新しい。実は、この着物、そうか革職人会の職人たちの卓越した技術を結集して制作されたものである。篠原さんの快挙は、100年受け継がれてきた草加レザーの技術が、世界的に通用することをも証明した。

革のまち草加の始まりは、昭和10年(1935)、太鼓の皮を製造する日東皮革の工場が草加に置かれたのがきっかけだ。「皮革の製造に必要な水資源が豊富で、東京に近く交通の便がよかったため、三河島方面から続々と工場が移転してきました」と、LEATHER TOWNSOKA Project teamの河合さん。最盛期の昭和30~40年代にはタンナー(なめし業者)だけでも50社以上あったという。

現在、草加近郊には約150社の皮革関連業者がある。原皮卸、タンナー、染色加工業者、商社、メーカーと、革の製造・流通に関わるすべての業者が揃っており、「革のことなら一気通貫、すべて草加で完結できます。リレーのように連携して仕事をすることもよくあります」と河合さん。爬虫類専門のタンナー、野球用グローブの革を作るメーカー、ハイブランドの革製品修理業者、ゼラチン製造など、専門分野に特化した高い技術力をもつ会社も数多い。

伝統産業展示室「ぱりっせ」に展示されている「THE LEATHER SCRAP KIMONO」。
伝統産業展示室「ぱりっせ」に展示されている「THE LEATHER SCRAP KIMONO」。
通常破棄される革の縁がデザインに生かされている。
通常破棄される革の縁がデザインに生かされている。

そんな、産地・草加の特徴を生かしながら、外部クリエイティブチームと連携し、革の新たな可能性を追求しているのがLEATHERTOWN SOKA Project。始動のきっかけは、2018年に立ち上げたプロダクトブランド『HIKER(ハイカー)』。チェア、薪台、カトラリーなど、インドアでもアウトドアでも使えるプロダクトを提案する。「開発過程でSOKA LEATHERという言葉が自然発生的に生まれました」と河合さん。

そこから、革製品ブランドだけでなく、“これぞSOKA LEATHER”という、オリジナルの革素材も作ろうということになり、米ぬかなめしというエコロジーレザーの開発がスタート。「太鼓の革をなめす伝統技法、米ぬか脱毛に着想を得ました」。国産の米ぬか油を主成分にしたなめし剤を用い、仕上げ加脂にも米ぬか油を使うことでしっとり優しい肌触りに。使い込むほどに、自然なシボの風合が得られるという。

伊藤産業の工場。ズラリ干されているのは、なめしたあと、染色加工した鹿革(右上)と羊革(左下)。
伊藤産業の工場。ズラリ干されているのは、なめしたあと、染色加工した鹿革(右上)と羊革(左下)。
HIKERのボトルホルダー1万9250円、テーブルティッシュ8360円、カトラリー各3960円、インセンスホルダー小6380円、蚊取り線香ホルダー9460円。
HIKERのボトルホルダー1万9250円、テーブルティッシュ8360円、カトラリー各3960円、インセンスホルダー小6380円、蚊取り線香ホルダー9460円。

いただいた命をできるだけ活用する

この道60年以上の革職人・鈴木功さん。『HIKER』の製作も担当。
この道60年以上の革職人・鈴木功さん。『HIKER』の製作も担当。

昨今、獣害が社会問題になっているが、草加では、10年ほど前から利活用の取り組みを始めている。野生動物(主にシカ)の原皮を受け入れ、なめし加工を請け負うU-taaaNPROJECTだ。加工するだけでなく、バッグや小物などに製品化して、その地域の特産品として還すことで、地域経済の活性化にも貢献している。

契機となったのは、2016年、シカによる農作物・森林への害に悩まされていた西秩父商工会からの相談だった。駆除した肉は加工して特産物として販売できるようになったが、皮もなんとか利活用したいということ。「命をいただいているので、できるだけ廃棄を少なくしたいという双方の思いで連携することに」。なめし、染色、加工まで、各社連携プレーで、シカのセーム革のめがね拭き、革ポーチ、小銭入れなどを製作。「この時、初めてシカの害について詳細を知り、私たちが役に立てるのではないかとチームで話し合いました」。

2019年には、エゾシカの肉を扱う北海道北見市の事業者、岡山の事業者から声がかかり、原皮を預かり、加工して還すという事業をチームとして請け負うことに。「皮革は大昔から実践してきたリサイクルシステム。有効活用し、廃棄が減れば、環境負荷も軽減されます」。

米ぬかなめしの革。
米ぬかなめしの革。

始まったばかりのLEATHER TOWN SOKA Projectだが、次々と新しいことに挑戦し続けている。「チームで集まれば、アイデアが飛び交い、話が尽きません。SOKA LEATHERを盛り上げて、『革といえば、草加だね』といわれるように認知度を上げていきたい。地域の方へも、革の魅力をもっと伝えていきたいですね」。

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伝統産業展示室「ぱりっせ」

「ぱりっせ」に展示されている道具の数々。
「ぱりっせ」に展示されている道具の数々。

草加市の伝統産業製品である「せんべい」「皮革製品」のアンテナショップ。物品販売のほか、産業資料の展示も行っている。

東武鉄道東武スカイツリーライン獨協大学駅から徒歩5分。
10:00~17:00、第1水曜休(臨時休あり)。
無料。

取材・文=瀬戸口ゆうこ 撮影=井上洋平
『散歩の達人』2026年3月号より