洋上で食べるうどんが楽しみ
ジャンボフェリーには、1990年就航の「りつりん2」という船と、2022年就航した新船「あおい」の2つの船がある。今回、私は神戸港から「りつりん2」で高松港まで行き、翌日「あおい」で高松港から神戸港まで帰るというスケジュールで乗船することにした。
神戸の三ノ宮駅からフェリー乗り場までは連絡バスを利用してもいいし、徒歩でも20分ちょっとの距離である。乗り場に近づいていくと、停泊している船体の巨大さに毎度驚く。船内はプライバシー保護の観点から客室内などが撮影禁止となっているが、乗船が始まる前の時間に特別に撮影させていただくことができた。
ジャンボフェリーの企画開発担当、永井さん、平松さんに船内を案内していただきつつ、お話を伺った。就航から36周年を迎えた「りつりん2」の船内はレトロな雰囲気が漂っているが、この時代感が好きだという声もあり、あえて乗船時間を調整して乗る人も多いのだそう。たしかに、えんじ色の絨毯や照明の凝った造形、一人一枚まで自由に使えるゴザが収められたボックスなど、それぞれに味わい深く、私もこの雰囲気が大好きである。
一方の「あおい」は“瀬戸内海に浮かぶテラスリゾート”をコンセプトに、ファミリー層も含めた幅広い客層が快適に過ごせるよう、細部までこだわって設計されているそう。そもそも、「りつりん2」が造船された当時は小豆島への航路はなく、トラックのドライバーや日常の交通手段として船を利用する方々を想定して船が設計されたそうだが、その後、小豆島航路がスタートすることで観光客が大幅に増え、その需要に応える船が待望されていたのだとか。
「あおい」には男女別のお風呂や足湯、用途に合わせて利用できる様々な個室もあって喜ばれているという(「りつりん2」にもお風呂があるが、こちらは男性のみ利用可能となっている)。
永井さん、平松さんによると、ジャンボフェリーの客層はダイヤによって異なるそうで、たとえば昼間に出航する便は船旅好きの方が多く、できるだけ短時間で移動しようというよりは、あえてゆったりした移動手段を選んでいる。それが、深夜に神戸を出航する便になると、船をホテル代わりにしてそこで眠り、早朝から高松での一日を楽しみたいという層が増えるという。中には送迎バスで高松駅に着くなり電車に乗って岡山方面へ移動する方もいるそうで(公共交通機関では、それが神戸方面から岡山に一番早い時間に着ける手段らしい)。旅慣れた人たちはすごいなと思った。
出航時間となり、船が動き出した。ジャンボフェリーの楽しみとして外せないのが売店コーナーに併設された軽食スタンドで提供されるうどんである。香川県に行けばいくらでも美味(おい)しいうどんが食べられるわけだが、それとこれとは別。ジャンボフェリーのうどんはメニュー開発にこだわりが感じられ、ラインナップも多彩なのだ(うどん以外の軽食メニューも充実している)。ちなみに「りつりん2」でも「あおい」でも、ほぼ同じメニューが提供されている。
初めて食べる「“やまぢ”の海老天うどん」は、高松の老舗「山地蒲鉾」の海老天をうどんにトッピングしたもので、ふわっと柔らかな食感の海老天に出汁がしみて美味しい。高知県産の生姜がアクセントになっている。
ジャンボフェリーで提供されるうどんや軽食は、このように高松や小豆島などの食材を積極的に取り入れている。たとえば「さぬきレモンうどん」というメニューでは、香川県の西部にある仁尾町産のレモンを使い、それを一度冷凍することで甘みを引き出しているという。ノーワックス、ノー防腐剤で栽培されているレモンなので、安心して皮まで食べることができる。「オリーブうどん」は小豆島で親しまれているオリーブをトッピングし、その上からオリーブオイルをかけて仕上げている。新メニューの開発にも力を入れていて、そのようなこだわりもあってか、2025年のうどん売り上げ総数は前年より1万杯も増え、8万杯以上にもなっているという。
うどんを食べ終えてひと休みしていると船が明石海峡大橋をくぐるタイミングが近づいてくる。天気のいい日に展望デッキに出て橋を下から見上げるのもまた、この船の大きな楽しみなのである。
と、私はただ気楽に大きな橋を見上げているが、伺った話によれば、明石海峡大橋の周辺は貨物船、漁船、ジェットスキーなど、大型から小型まで様々な船が行き来しており、航路の中でも特に細心の注意を払って運航する必要がある場所なのだそう。
安心して身を預けていられることのありがたさを感じつつ、海風に吹かれたり、水面に陽光が反射するのを見たり、ゲームコーナーで遊んだり、席でパソコンを開いて少し仕事をしたりと、気ままに過ごした。
使い道が色々ありそうな「ちょっとこま」
夕方、高松港で下船した私が楽しみにしていたのが、高松港の待合所に2026年2月にオープンした「ちょっとこま」という休憩スペースである。利用時間に応じた料金を支払うと、一人一室のブースを利用することができる(ブースとは別に、飲食が可能なテーブル席が並ぶ休憩スペースも用意されている)。
ブースは入り口から男女別になっていて、仕切りの壁と遮光性の高いカーテンによってプライベート空間が確保できるようになっている。ブースは大人が足を伸ばして横になれる広さで、カーペットがふかふかしているため、仮眠を取るのにもよさそうだ。
私は専用のフリーWi-Fiを利用して急ぎの仕事を片付けた程度だったが、次回は早朝に高松に着く便でここを利用し、少し仮眠してから街に出てみようと思った。
高松市街地へ移動し、瓦町駅近くの居酒屋『時宅(じたく)』へ向かう。店主の桃さんと私は知り合いで、桃さんが大の旅好きなのでジャンボフェリーについての話も聞けるのではないかと思ったのだが、「ジャンボフェリーは好きですか?」という私の雑な質問に簡単には答えられないほど、思い入れが強いらしかった。桃さんはこれまで数え切れないほどジャンボフェリーに乗り、オリジナルグッズを買い集めるほどのファンだという(「あおい」の船内で使用されているアロマを売店で買って部屋で使っているそう)。
「あおい」の有料席である「コンフォートリクライニング席」を利用して、眼前に広がる風景を眺めるのがお気に入りで、手持ちのマイ双眼鏡で行き交う船を見るのが楽しいのだとか。
さらにこの日は、ジャンボフェリーに関係する仕事をしているというお客さんもたまたまお店に来て、それぞれがジャンボフェリー愛を語り合うひとときとなった。とにかくみんな口を揃えていたのは、「ジャンボフェリーに乗ったらお腹(なか)いっぱいでも絶対にうどんを食べる!」ということであった。
「栗林公園」の和船にも乗ってみる
楽しい夜を過ごし、翌朝は「栗林(りつりん)公園」へ行ってみることにした。栗林公園は国の特別名勝に指定されている庭園で、高松藩主・松平頼恭が延享2年(1745)に完成させたもの。ジャンボフェリーの「りつりん2」という船名もここから取られている。
昨夜行った『時宅』の桃さんによると、栗林公園の池を周遊できる和船があるとのことで、乗れる乗り物にはなんでも乗っておきたい私はここに来たのだった。
和船が目的ではあったが、東京ドーム16個分の広さだという広大な敷地を歩くだけで楽しい。丁寧に手入れされた松をはじめとした木々が美しく、季節ごとにも景色が変わるのだろうなと思う。
和船は事前予約が可能で、行楽シーズンの週末などはすぐに席が埋まってしまうそうなのだが、朝一番でチケット売り場に並び、なんとか当日券を購入することができた。
和船は、園内の「南湖」と呼ばれる広大な池を約30分かけて周遊してくれる。定員が6名の小さな船の後部に船頭さんが立ち、竹竿で漕ぎながら鑑賞ポイントを解説してくれる。
船から見る園内は、より風情があるように感じられた。水音が耳に心地いい、静かな時間。船頭さんによると、紅葉のシーズンはそれは見事な景色が広がるらしい。チケットは争奪戦になるらしいが、一度乗ってみたいと思った。
船を降り、売店で缶ビールを買って栗林公園を歩く。梅が綺麗(きれい)に咲いていて、しばし見惚(ほ)れて過ごした。その後、これも『時宅』の桃さんがおすすめしてくれた栗林公園近くのでうどんを食べる。いりこの香りが豊かなお出汁がたまらない、本当に美味しいうどんだった。
「あおい」の快適な船旅もやっぱりいい
高松駅前からフェリー乗り場までの無料送迎バスに乗り、今度は「あおい」に乗船する。行きに乗った「りつりん2」とはまた違って、「あおい」は乗客がそれぞれのスタイルに合わせて過ごし方を選べるようになっている。私はコンフォートリクライニング席で一人のんびりとくつろぐことにしたが、何人かのグループで個室を予約するのも楽しそうで、いつかやってみたいと憧れる。
展望デッキで海と空を眺め、帰りももちろんうどんを食べる。
微細な泡が気持ちいいお風呂に入り、足湯でぼーっとして、小豆島の人気店『MINORI GELATO』のジェラートを売店で買って食べ、少しうとうとして起きたら空が夕暮れの色に染まっていて……ああ、やはり素晴らしい。
船が神戸港に近づき、船内にオリジナルのテーマソング『二人を結ぶジャンボフェリー』が流れる。この歌が私は大好きで、旅を終えてもしばらく耳から離れない(もう一曲、船内BGMとして使用されているSTU48が歌う『瀬戸内の声』もいい!)。
ジャンボフェリーの素晴らしさを伝えるには私の言葉ではまだまだ足りな過ぎる気がする。乱暴なのはわかっているが、「絶対楽しいから一度乗ってみて!」と言いたい。
「ジャンボフェリー」詳細
文・写真=スズキナオ







