椎名町の日常に浸れる、海外にも人気の宿『シーナと一平』
築50年のとんかつ屋だった建物を宿にリノベ。風呂は銭湯、夕食は近くの飲食店で済ませてもらうことで、街で暮らすように宿泊する「まちやど」スタイルが評価され、日本グッドデザイン賞を受賞。1階は日替わりシェアキッチン「お菓子工房」で、昼時はさまざまなお菓子・料理の作り手がカフェやテイクアウトショップを営業。
湯質と地縁を重んじるこだわりの湯『妙法湯』
昭和初期に創業、2019年にリニューアルした老舗銭湯。明るく清潔な店内は工夫でいっぱい。日本初の軟水炭酸シルキー風呂、ミクロバイブラ風呂、ジェット座風呂、電気風呂、乾式サウナを有し、浴場ごしに大型TVが眺められる。さらにご近所の店とコラボした妙法湯オリジナルビールやTシャツなどで湯上がり対策も万全。心地よい工夫が光る名銭湯。
立教通りの果てに潜むクラフトビールの楽園『CYCAD BREWING』
『NishiikeMart』に店を構えるクラフトビール醸造所。店内で造られるクラフトビールが常時8〜10種類味わえる。品種が多い植物のソテツ=CYCADに由来する店名をもつだけに味は多彩。同居する『Phat Q』のバーベキューと一緒に味わえる至福といったらない。
12:00〜15:00・16:00〜23:00(土・日・祝は通し営業)、無休。
飾り気なしの直球勝負、ガツンとくるBBQ『Phat Q』
本場テキサススタイルのバーベキュー店。米国産牛肉を薪でじっくり焼いて仕上げる。自家製ビーフソーセージ、リブ、ブリスケット(肩ばら肉)はいずれも濃厚な肉の旨味に圧倒される。在日米国大使館公認のチーズハンバーガーも、肉そのもので喰(く)わせるさすがのうまさ。
12:00~15:00・17:00〜22:30(土・日・祝は通し営業)、無休。
午後の部は台湾茶メインでまったり『TSUMUGU CAFE(台湾早餐天国)』
ベジタリアン料理が日常食として定着している台湾。そんな台湾のベジな朝食を味わえる『台湾早餐天国タイワンザオツァンテンゴク)』は、今や行列の人気店だが、13時以降は『TSUMUGU CAFE』として、台湾茶メインの店となる。メニューも変わるが、ベジ仕立てであることは変わらない。スイーツ類もあり、のんびりするにももってこい。
混じりけ気取りなしの銘紅茶を満喫『Tea Shop Parvati(パールヴァティ)』
インド・ダージリン地方の純正な茶葉の魅力を伝える希有な紅茶店。日本の水にマッチした茶葉を厳選している点も高ポイント。テイスティング用カップに淹れて1杯ずつ供されるダージリンティーは、年度や収穫期でも味変するワインのごとき繊細なおいしさ。風通しのいいシンプルな空間で、肩肘張らずに堪能できる。インド菓子ラドゥなど自家製スイーツも相性抜群。
10:00〜18:00、水・第3木休。
☎03-5926-7078
亡き祖母に捧げる傑作ナポリタン・カフェ『地球ドラゴン』
友人に好評の自作ナポリタンに賭け店開きしたSAYAさんのカフェ。ゴージャスな店内で供するナポリタンは、ソースとハンバーグの旨味が合わさり絶妙の味。固めのパンケーキや、お茶やコーヒー類も実に良い。不思議な店名は大好きだった祖母が辰年だったことに由来。ボイストレーナーのご主人・角田紘之さんのライブもしばしば開催。
11:30〜20:00、火、第1・3・5木休。
☎03-6625-0151
触覚感の癒やしがつなぐ異色コラボ『うなぎの寝床 池袋千川店』
野良着のモンペを久留米絣を使い、今の生活向きにアレンジした『うなぎの寝床』の東京2号店。千川店は心理学の箱庭療法用具『メルコム』のメーカーの経営。良質な衣類も箱庭も“触る”事で癒やし効果があると一緒に展示販売。箱庭は実際に体験可能。シリコン素材含有の砂は手触りがよく、触れただけで確かに心落ち着くものがある。
11:30〜17:00、水・木・金休。
☎03-3974-5807
要町・千川・椎名町、エリアごとの個性
要町・千川・椎名町エリアは、徒歩でも行ける近さにある池袋の喧噪(けんそう)と一線を画す、おだやかな住宅地である。
住宅地に『豊島区立熊谷守一美術館』を有し、公園や緑道に彫刻が数多く設置されているのも特徴。多くの芸術家が暮らした池袋モンパルナス時代の面影を感じさせる。
加えて千早フラワー公園に設置された2両の都営地下鉄12号線試作車両の違和感や、谷端川(やはたがわ)を暗渠(あんきょ)にした谷端川南緑道の南端が、線路でぶった切られ、先っちょだけ孤立している様は、もはや現代アートである。実は方々に名店が潜んでいるのも魅力だ。
エリアごとの個性も見られる。西武線の椎名町駅は大正13年(1924)開業。メトロの要町駅・千川駅は1984年開業で、まずこの60年の時間差が街の形成に影響している。同時期開業の要町駅・千川駅エリアも山手通りを境にざっくり二分され、要町が池袋のにぎやかな色合いを残しているのに対し、千川は抜けのいい郊外感が漂う。
見た目は地味でも面白ポイントがざくざく見つかる
3つのエリアを概観してみるなら椎名町駅スタートがいい。駅前のすずらん通り商店街を筆頭に、渋い商店街が密集。商店街ごとに街灯が異なり、さながら街灯博物館だ。
レトロな商店街の魅力を生かして宿泊客を呼び込み、街の活性化に一役買う宿、『シーナと一平』の1階「お菓子工房」は、散歩の憩いにももってこい。間借り店が日替わりで軽食とスイーツを供している。取材日は『Micol』の好評なジビエカレーを賞味できた。
オーナーの日神山さんいわく「銭湯や町の電気屋も多いのも特徴ですよ」。確かに電気店が多く、銭湯もタダモノではない攻めの『妙法湯』を筆頭に、3軒がしっかり健在で、昔ながらの生活が息づいている。
商店街から住宅地へひたすら真っすぐ延びる直線道路が数本あって、こちらもちょっとした絶景ポイントだ。
渋い谷端川南緑道に入って要町エリアへ。立教通りの西端の飲食店地帯へ出る。まず目に付くのは元マーケットをリノベした『NishiikeMart』。味な建物の中でクラフトビール『CYCAD BREWING』とバーベキュー『Phat Q』の2軒が営業中。間近には台湾ベジカフェの名店『TSUMUGU CAFE』。他にもディープな店が、自然発生的に軒を並べている謎スポットだ。
山手通りを渡り、千早フラワー公園を経て千川駅へ。年季の入った老舗は見当たらないが、ダージリン紅茶専門の『Tea Shop Parvati』、スタイリッシュな野良着と箱庭療法の道具が店内に共存する『うなぎの寝床 池袋千川店』。ハンバーグのせナポリタンが思わぬうまさのカフェ『地球ドラゴン』といった、個性派がのびのびと店を営んでいる。
昨今の都心部、インバウンドの影響もあってどこもかしこも混んでいるけど、このあたりは別。のんびり味な散歩が楽しめるよ。
取材・文=奥谷道草 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2025年11月号より






