アクセス
鉄道:JR・地下鉄東京駅から上越・北陸新幹線、JR上越線・吾妻線で約2時間の群馬原町駅下車。在来線のみ利用の場合の所要は約3時間。
車:関越自動車道練馬ICから同道を利用し、渋川伊香保ICまで約103km。同ICから上信自動車道を一部利用し、町中心部まで約24km。
築約250年の建物を自らリノベーションして再生『朝陽堂(ちょうようどう)』
地域の歴史を見守ってきた江戸中期築の建物を、古本・雑貨・ギャラリー・喫茶の店として活用。歴史・文芸・美術・登山・絵本などの古本を多く取り揃え、群馬県の郷土関連書も充実。器や文房具を手にしたり、喫茶でくつろいだりしながら、気の向くまま過ごしたくなる空間だ。
絶え間なく湧く豊富な水量に目を奪われる「箱島(はこしま)湧水」
町域東端に位置する湧水地で、1985年には日本名水百選に選定。箱島不動尊の清水として古くより親しまれ、樹齢400~500年と伝わる御神木の大杉の根元からコンコンと水が湧き出している。1日の湧水量は約3万tで、良質な水を目当てに水汲みに訪れる人も多い。湧水地手前は未舗装路のため、訪問の際は極力歩きやすい格好で。
湧水の里ならではの釣りと食事が楽しみ『あづま養魚場』
箱島湧水手前の釣り堀&食事処。「まず釣りを楽しんでから食事される方が多いですね」と代表の池田駿介さん。貸し竿は1本200円(練り餌付)で、釣った魚は追加料金を払えば食事処で食べられる。
気鋭アーティストの作品に触れ、カフェでひと息『newroll(ニューロール)』
彫刻家・西島雄志さんと美術作家・山形敦子さんが運営するギャラリーで、県内在住の作家による個展やグループ展が中心。併設のカフェスペースを『marumaru coffee』の諸もろ角(もろずみ)容子さんが間借りし、自家焙煎のコーヒー500円やスイーツを提供。
幾多の歴史の舞台となった要害「岩櫃(いわびつ)城本丸址」
戦国時代から江戸時代にかけて利用されたと言われる、標高802.6mの岩櫃山中腹に築かれた山城の岩櫃城。かつての本丸を中心とした広大な範囲に、堀や尾根上に配された曲輪(くるわ)の痕跡が残る。武田信玄の家臣・真田幸綱が永禄6年(1563)に城を攻略したと伝わり、以後、真田氏がこの地を支配したことから「真田氏上州の拠点」とも呼ばれる。
豊かな自然に抱かれた工房で、吹きガラス体験を『グラススタジオポルカ』
地元出身の水出(みずいで)康治さんが立ち上げた手作りガラス工房。吹きガラス体験(要予約、所要30分~)では、形や色を相談し、アドバイスを受けながら、コップ4300円や花びん4000円を作れる(送料別途800円)。併設のショップでは水出さんの人柄を反映した明るい色使いの作品も展示・販売。
上質で穏やかな時間が約束された隠れ家カフェ『Serenite(セレニテ)』
「木の温もりに満ちたこの場所ならではの時空を感じ、自分を見つめ直すひとときを過ごしてもらえれば」と静かに語る店主の安田恵久(いく)さん。中煎りまたは深煎りの自家焙煎珈琲各550円のほか、地元の旬野菜や豆などを用いたプラントベースの食事やスイーツもぜひ。
吾妻峡散策の前後に立ち寄るのに便利な旅の拠点『道の駅あがつま峡』
地元や近隣の新鮮な農産物や加工品などが並ぶ「直売所てんぐ」をはじめ、ゆったりとした敷地にはオムライスやニジマス丼が評判の食事処、軽食コーナー、無料で利用できるドッグランなどが揃う。吾妻峡の玄関口に位置し、渓谷散策の拠点としても便利だ。散策後は源泉かけ流しで露天岩風呂を併設した「天狗の湯」で汗を流すのもいいだろう。真田忍者にちなんだアトラクション(手裏剣投げ5投500円ほか/営業日限定)もある。
紅葉の名所としても名高い風光明媚(めいび)な渓谷『吾妻(あがつま)峡』
町域西側にあり、吾妻川の流れが生んだ全長約2.5kmの渓谷が続く。八ッ場(やんば)ダムの建設によりその一部が失われたが、ダム直下から下流にかけて散策遊歩道やハイキングコースが整備され、四季折々の表情を楽しめる。渓谷のハイライトである全長900mの八丁暗がりでは川を挟んで両岸が迫り、神秘的なエメラルドグリーン色の川面も印象深い。
東吾妻町みやげにぴったりの和洋菓子が揃う『藤井屋政右衛門(まさえもん)』
地元住民にも広く親しまれる和洋菓子店。屋号でもある銘菓・政右衛門1枚140円は、サクサクとした食感がクセになるアーモンド入りクッキーせんべいだ。弾力ある皮が特徴のもちもちシュークリーム170円やプレミアムプリン280円など、品揃えも幅広い。
気になったスポットを巡り、東から西へ
町の中心部に近い『朝陽堂』で古本を見繕っていると、店主の山口純音さんが「前を通る道が混雑するのは、たいてい草津温泉帰りの車が集中する時間帯なんですよ」と教えてくれた。思い返すと私自身、利根川の支流・吾妻川の中流域を堰(せ)き止める八ッ場(やんば)ダムの建設前、建設の是非が世間の注目を集めた建築中、そして完成後のいずれの時期も、鉄道や車でダム建設地を通った記憶がある。おそらく草津温泉方面への旅や、近隣の山への登山が目的だったのだろう。となると、間違いなく東吾妻町(2006年の合併前は東村と吾妻町)も何度か通り過ぎているはずだが、まったく記憶になく、申し訳ない思いだ。
そこで、今さらながらで恐縮だが、町のありようをざっくり知ろうと、まずは東の端に位置する「箱島湧水」へ足を運んでみた。昼なお薄暗い杉林の根元から絶え間なく水が湧き出る様子はどこか神秘的で、手に取って口にすると、何やら御利益がありそうだ。
途中、気になった『あづま養魚場』や『newroll』に顔を出しながら西へ向かうと、次第に町の中心部が近づいてきた。その先に見える岩櫃山は標高1000mに満たない低山ながら眺望に恵まれた岩山で、険しく切り立った山容が魅力的だ。思わず頂上を目指したい誘惑に駆られたものの、時間に余裕がないため今回の旅ではやむなく断念し、中腹の「岩櫃城本丸址」までとしたが、いずれ再訪するとしよう。
コンプリートならず、改めての訪問を誓う
中心部を離れ、さらに西へと進んで訪ねたのが、人づてに教わった『グラススタジオポルカ』と『Serenite』である。それぞれ業態は異なるが、どちらも「よくぞこの場所に」と驚くほど奥まった地に工房や店を構えている。単なる通りすがりではなく、明確な目的をもってわざわざ訪れる客を迎える姿勢が垣間見え、その潔さには感服するほかない。
その後訪れた『道の駅あがつま峡』では、行楽途中の旅行者らが次から次へと姿を見せ、みやげ品を買い求め、食事を済ませると、またどこかへと消えていく。近くの吾妻峡へ足を延ばしてから道の駅併設の「天狗の湯」で汗を流していると、どうやら利用者の多くが地元客であるのに気づいた。ここは単なる観光施設ではなく、きっと地元でも親しまれている場なのだろう。
さて、駆け足ながら町内を東から西へと踏破した後は、再び中心部へ舞い戻り、評判の名菓を買って帰るとしよう。『藤井屋政右衛門』に立ち寄り、店長の上原安子さんに旅の様子を伝えたところ、「歴史に“もし”はないんだけど、真田昌幸が窮地の主君・武田勝頼を迎えるために急造した潜龍院(せんりゅういん)跡にもぜひ行ってほしかったなあ」と残念そうだ。う〜む、やはりいずれ再訪せねばなるまい。
【耳よりTOPIC】吾妻峡レールバイクアガッタン
八ッ場ダム建設に伴い付け替えとなった吾妻線の一部を活用し、自転車型トロッコで走るアトラクションで、2人から乗車可。吾妻峡を見下ろすように雁ヶ沢駅と吾妻峡八ッ場駅を結ぶ。
●3月下旬~12月上旬営業。3人乗り往復5000円、4人乗り同6000円。営業日・運行ダイヤ・予約方法などはHP参照。☎0279-26-9431(吾妻峡周辺地域振興センター=営業日のみ)
取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2025年10月号より






