雑居ビルに潜む隠れ家カフェ『MOON FACTORY COFFEE』
京都の『ELEPHANT FACTORY COFFEE』の姉妹店として2011年にオープン。三角地帯から路地に入った雑居ビルの急な階段をのぼると、モルタルを基調とした洗練された空間が広がる。盛り場の喧騒(けんそう)を忘れてこだわりのコーヒーを堪能できる、三軒茶屋のエアポケット的存在だ。深夜1時までの営業もうれしい。
13:00~翌1:00、木休。
☎03-3487-4192
日々の生活を豊かにする音楽を『Kankyo Records』
「住環境でのリスニング」をテーマに、アンビエントなどの環境音楽を中心としたレコード・CD・カセットテープを扱う。生まれも育ちも三軒茶屋の店主・H.Takahashiさんは、ミュージシャンで建築家でもあるという2つの顔を持つ。空間作りと音作りのプロが提案する「住環境」に合う音楽、これ以上ない説得力だ。お香などの癒やしアイテムも販売。
13:00~18:00、不定休。
☎03-6875-3181
昼と夜、どっちに行く?『食堂かど。』
『マルコ』『ニューマルコ』『コマル』に続く、三茶界隈(かいわい)を盛り上げるマルコ系列の4店舗目は、昼は食堂、夜は酒場として日々大にぎわい。平日ランチ限定の名物、銀鮭のいくらおろし定食1800円は、鮭の切り身3枚分ほどという大きさ。とはいえ、濃いめに味付けされたイクラもあいまって白米が進み、あっという間に平らげてしまう。
11:00~14:30(土・日は12:00~15:00)・17:30~22:00、無休。
☎03-6450-9280
三茶コーヒー界隈のトップランナー『OBSCURA COFFEE ROASTERS Home』
南口から徒歩30秒。世界各地の珈琲農園を訪れて買い付けた高品質なコーヒー(450円~)を提供する、三軒茶屋を代表するコーヒーショップ。店内ではテイクアウトドリンクのほか、豆や切り花も販売している。カフェ、スタンド、ロースタリーが乱立する激戦区で16年。茶沢通り、世田谷通りには系列店もあり、今ではすっかり街の景色の一つとなっている。開放感のある窓も気持ちいい。
9:00~19:00、無休。
☎なし
番長の名物カレーパンをご賞味あれ『ブーランジュリー シマ』
三軒茶屋の隅っこにある地元密着型の町パン屋で、名物はなんといっても作りたてのカレーパン430円。何を隠そう店主の島さんは出張料理ユニット・東京カリ~番長のパン主任なのだ。開発に2年を費やした10種スパイスのチキンカレーが、ザクザクな生地と良くマッチする。カレーの話ばかりになってしまったが、作りたてのチーズパンやクロワッサンなども絶品なので、こちらもお試しあれ。
9:00~19:00、月・火・水休。
☎03-3422-4040
暮らし×デザインの交流拠点『生活工房』
所属の学芸員が企画する年3、4回の展示は、公共施設とは思えないほどにエッジが効いていて、ユニークなものばかりだ。取材時は「山下陽光のおもしろ金儲け実験室」の展示期間中(~2024年12月26日)だった。おや、ちょうど会場に山下さんの姿が。一心不乱に創作と向き合う姿に、勇気をもらえる。
9:00~22:00(施設により異なる。展示は~21:00)、月休(祝は開館)。
☎03-5432-1543
使い道は買ってから考えればいい!『PUEBCO』
国道246号沿いの雑貨店には、男心をくすぐる武骨な雑貨が博物館のごとく並ぶ。9割がオリジナルで、残りの1割はビンテージもの。取材後に、チャパティの生地を練る木台を手に取りレジへ行ってみた。するとスタッフから「何に使うんですか?」と聞かれ決めていなかったため、「あとで考えます」と白状したら「それが正解!」と言ってもらえた。なんか、うれしい。
11:00~19:00、無休。
☎050-3452-6766
プロのフローリストが優しくお出迎え『北中植物商店 三軒茶屋店』
アトリエを兼ねた本店を三鷹市に構える植物店が、2024年9月に茶沢通りの裏路地に新店をオープン。ウエディング、店舗装飾のスタイリングを行うプロのフローリストとしての顔も持つ店主の小野木さんは、草花に関する書籍も多数上梓している。軒先のブランコと黒板は、近隣の子供たちの放課後の寄り道スポット。
11:00~18:00、火・水休。
☎050-1721-8728
クラフトビール片手に憩うならここ『SANITY』
クラフトビールを専門とするボトルショップ&タップスタンド。国内外400種以上のクラフトビールをカン、ビンで取り揃えるほか、その場で飲める樽生も10タップ用意。スタッフたちもクルー感があっていい雰囲気だ。種類が多く迷うが、相談すれば好みに合ったクラフトビールを丁寧に教えてくれる。
16:00~23:00(土・日は14:00~)、無休。
☎080-3356-0671
三軒茶屋ソロドリンカーたちの聖地『居酒屋 HACHI MITSU』
店主のルーツでもあるイタリアンをベースに和食、アジアンと多彩な一品料理を展開するバースタイルの居酒屋。連日常連たちでにぎわっており、どのメニューも独創性あふれる。もしや隠し味にハチミツが? 「元はおばんざい屋で、鉢が3つでHACHIMITSUです」と店主の柳さん。なんだ、ダジャレか。超粗挽き焼売580円、海老の焼き茄子トマトソース1200円。
18:00~翌2:00、水休(不定休あり)。
☎なし
地元民に聞く“らしさ”の正体
「三茶らしさってなんだと思いますか?」
取材を通して、すべてのお店の、すべての人に投げた質問だ。さまざまな回答が返ってきたが、まずは「二面性のある街」と総括しておこう。「昼と夜で全然違う街みたいなんですよ」と話していたのは『北中植物商店』の小野木さん。国道246号を川に見立ててあっち岸とこっち岸と言っている人もいた。
昼の三軒茶屋には、ゆるやかな空気が流れる。『生活工房』の広報・石山さんの話が印象に残っている。「長ネギが入った買い物袋を持ったまま作品を見られる、数少ないギャラリーです」。確かに。結局のところは、住む街なのか。
そうかと思えば、夜になると大分様子が変わって、赤ら顔をした老若男女が闊歩する。「街全体が飲み屋」と表現したのは『SANITY』店長の佐々木さん。『MOON FACTORY COFFEE』店長の森さんから聞いた「23時すぎになると、締めとしてコーヒーを飲みに来られる方もいます」も、らしい。やっぱり酒飲みファーストな部分も、改めて確信。
平日の16時ごろに、顔を真っ赤にした千鳥足の若者とすれ違ったときは「早すぎないか?」と独り言が漏れ出てしまった。「ここは日本で一番テキーラのボトルが空く街でーす!」と怖すぎる逸話を話してくれたのは、どの店の、どの酔っ払いだっただろうか。
三茶の個人店の多くは、生活と仕事がフラットになった人たちによって営まれている。「ずっと三茶に住んでいて、三茶が好きだからここで商売を始めました」。今回、何度も聞いた言葉だ。「友人が三茶で店を始めたら、しばらくはそこに通うんです」。これも何度も聞いた。商人たちのつながりの強さも「三茶らしさ」の一つである。
『居酒屋 HACHI MITSU』の柳さんは「しばらくは飲み屋で知り合った人たちに支えられていました」と開店当初を振り返る。「友人が友人を呼んで、その人がまた友人を呼んでくれて……そうして今があります」。いい話だなぁ、と聞きながら名物の焼売に舌鼓を打つ。
柳さんは、カウンターを埋めて盛り上がる常連の会話に入ることも相槌(あいづち)を打つこともせず、オーダーが入ればテキパキと対応する。「みんなが自由にしているのを見ているのがラクだし、好きなんですよね」。なんだか、誰一人肩肘を張っていなくていい感じだな。これも三茶……え? 結局「三茶らしさ」って何かって? ちょっと酔ってしまっていて……。
取材・文=重竹伸之 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2025年1月号より