昔々のお寺には除夜の鐘がなかった

福岡県「多福寺」の梵鐘。
福岡県「多福寺」の梵鐘。

大晦日の夜、おごそかで静謐(せいひつ)な音が耳にも心地いい除夜の鐘。たっぷりと間隔を開けて打たれることで、1年のことを振り返るのに最適な雰囲気を作り出してくれます。

しかし除夜の鐘はいつからあるのでしょう?

そして、誰もが「108回鳴らされる」「108は煩悩の数」であることは知っているけど、さらにその深い意味とはなんでしょうか?

まず、日本での除夜の鐘のはじまりについて。

日本に仏教がやって来たのは西暦500年代ですが、除夜の鐘が打たれるようになるのはそれからずっとあと、600~700年後の鎌倉時代です。

除夜の鐘はもともと、中国のお寺にあった風習。それを鎌倉時代に中国のお坊さんが日本に持ち込んで始まったとされています。

身体や心にまとわりついた1年の煩悩を、清浄な鐘の音でお掃除するのが狙いです。

除夜の鐘はなんで108回打つの?

愛知県「九国寺」にある岡本太郎作の梵鐘。
愛知県「九国寺」にある岡本太郎作の梵鐘。

除夜の鐘は煩悩の数に合わせて108回打たれることはご存じの通りですが、ではなぜ、煩悩は108あるとされているのでしょうか?

人間には「味覚・嗅覚・視覚・聴覚・触覚」の五感がありますね。仏教ではこれに「意識」を加えたものを「六根(ろっこん)」と呼んで煩悩が生まれる元だと考えます。

鋭い方はすでにお気づきかと思いますが、108は6で割れますね。

お察しの通り、この六根で「好き・普通・嫌い」と「きれい・汚い」を判断するので6×3×2=36となります。

そこに「過去・現在・未来」の時間の概念が加わって36×3=108となるわけです。

他にも、仏教から生まれた言葉「四苦八苦」から4×9+8×9=108など諸説あります。

六根を知ると、自分が感じているモヤモヤしたストレスが何から来ているかに気づくきっかけにもなりますよ!

これまで、仏像を中心に神社仏閣にまつわる情報をお届けして来たこの連載。前回は「数字から見る仏教」【前編】と題し、「お釈迦さまは、生まれてすぐ“7”歩あるいた!」など、1~10の数字について解説しました。後編の今回は、10以上の数字にまつわる話。とてつもない大きな数字も出てきますよ!お楽しみに!
日本人は無宗教だと言われます。しかし、大晦日にはお寺の除夜の鐘を聞き、年が明ければ神社に初詣。受験や出産など、人生の大きなイベントの際には、多くの人が祈願のために神社仏閣を訪れたりするように、宗教の中でも仏教と神道は私たちの生活の近くにあります。今回は、それ以上に私たちの生活に浸透した、仏教由来の言葉をご紹介。当たり前に使っていた名前や言葉が、仏教に関係していたことに、新たな気づきをお楽しみください。

初詣っていつ行けばいいの?(その1)

年を越したら初詣です。元日の夜明け前に行く人もいれば、三が日のうちに出かける人もいるでしょう。

「初詣には、いつ行けばいいの?」という疑問を持ったことはないでしょうか?

初詣のタイミングについては、「誰に(何に)」お参りしているかによって正解が変わります。

年神様を迎える門松(港区「増上寺」)。
年神様を迎える門松(港区「増上寺」)。

1つは、元日(1月1日の朝)から7日までのパターン。

「松の内」という言葉がありますが、これは家に門松や鏡餅を飾っておく期間を表します。

こうした飾りものは、元旦にやって来て新年の福をもたらし7日に帰って行く「年神様(としがみさま)」という神様に向けたもの。

つまり、年神様にお参りする人ならば元日から7日までに初詣に行くべきなのです(関西では1月15日までが松の内です)。

ちなみに、年神様は元日の日の出とともにやってくるとされるので、年神様にお参りするなら、元日の未明は早過ぎるということになりますね。

初詣っていつ行けばいいの?(その2)

縁結びの御利益で知られる千代田区の「神田明神」。
縁結びの御利益で知られる千代田区の「神田明神」。

2つ目は、いつでもOKのパターン。シンプルに初詣という言葉は「その年の初めの参詣」となり、こう考えると松の内を過ぎていても、あなたがその年初めて寺社に行った時が初詣ですね。

松の内が過ぎると、年神様は帰ってしまいますが神社には御祭神が祀られています。自分の住んでいる地域を守る「氏神様(うじがみさま)」に、旧年中の感謝とともに「今年もよろしくお願いします」を伝えに行くならばこちらでいいわけです。

また、神社仏閣には恋愛成就や合格祈願などの御利益がありますが、あなたが受けたい御利益があるならば、それに見合った寺社に行くはず。その場合も、年神様のように帰ってしまう存在ではないため、いつでもOKということになります。

とはいえ、新しい年の変わり目。世間的にも新年の雰囲気があるうちに初詣に行っておくと、あなたの気持ち的にも整理がつきやすいはずですよ!

初詣の歴史はたった100年くらい!?

大田区「池上本門寺」では初詣時期に厄除け祈祷も。
大田区「池上本門寺」では初詣時期に厄除け祈祷も。

では、初詣はいつからはじまったものなのでしょう?

寺社の風習なので、伝統的なものかと思いきや、実は今からたった100年ほど前の明治時代です。

それまで、一般の人々は「正月にお参り」よりも「その年最初の縁日」を大事にしていました。例えば、弘法大師の縁日が毎月21日なので、1月21日の「初大師」にお参りに行くような感じです。

そこから、参拝者が多く訪れていた川崎大師周辺に路線を通した鉄道会社が、集客を狙って元日や三が日に臨時列車を出すなどキャンペーンを行なったことで、現在の初詣の形ができたのです。

初詣の元になっている風習と歴史上の偉人

初詣の時期には多くの人でにぎわう杉並区「神明宮」。
初詣の時期には多くの人でにぎわう杉並区「神明宮」。

伝統のものだと思っていた初詣が、歴史が浅く商業的狙いがあると知ると、なんだか冷めません?

そんな方に朗報です!

現在のスタイルになったのはごく最近ですが、初詣につながるような風習はずっと古い時代から続いています。

元になっているのは、今から2000年近く前の平安時代に「年籠り(としごもり)」という名前で存在していました。

ただ、これは家々の家長や地域の最年長者が、大晦日から元日にかけて地域の神社に籠り、年神様を迎えるもので、今とはずいぶん様子が違います。

それが大きく変化したのは、今から約800年前の平安時代の終わりのこと。

数年後に鎌倉幕府を開くことになる源頼朝が、元旦に鎌倉の「鶴岡八幡宮」に参詣しました。

その後、頼朝は元日を「鶴岡八幡宮へ奉幣奉るの日」と定めます。これが、現代の初詣の一つのルーツになっているとも考えられます。

 

ルーティンのように行われている除夜の鐘や初詣。この記事を読めば、きっと違った感覚で過ごせるはずです。

みなさま、よいお年をお迎えください!

写真・文=Mr.tsubaking