地域で愛される焼き肉店ゆえ、親子3代で通う常連客も

川崎区浜町にある、大島四ツ角交差点付近から産業道路までを結ぶセメント通り。その周辺は大正時代からコリアタウンとしてにぎわっていた。いまも韓国料理店やキムチ専門店、焼き肉店などが点在するディープなエリアだ。

川崎駅東口からバスに乗り、新川通り(県道101号)沿いの「四ツ角」バス停で下車したら、すぐ近くのセメント通りへ。真っ直ぐ進むと、道の右側に『焼肉 東天閣 川崎本店』の広い駐車場が。さらに進めば、お目当ての店舗が見えてくる。

入り口の上には、ひらがなで「とうてんかく」の文字が。「て」の字に遊び心が感じられる。
入り口の上には、ひらがなで「とうてんかく」の文字が。「て」の字に遊び心が感じられる。

クリーム色の外壁が目を引く立派な建物からは、どこかモダンな雰囲気が漂う。ひらがなとローマ字で記された店名を含め、1972 年創業の老舗焼き肉店というイメージとは一線を画している。天井が高めで広々とした明るい店内もまたしかり。

ソファ席がメインの1階は明るく親しみやすい雰囲気。2階は座敷の宴会場になっている。
ソファ席がメインの1階は明るく親しみやすい雰囲気。2階は座敷の宴会場になっている。

「もともとは川崎内の別の場所で、いまよりも小規模なところから始めて、しばらくしてこちらへ移ってきたと聞いています」。そう話すのは、店長の田中豊さん。川崎出身の田中さんは、アルバイト時代からずっと『東天閣』で働いているベテランだ。

「常連のお客さまの中には『小っちゃい頃から来ている』とか『親に連れてきてもらって、いまは子どもを連れてくる』みたいな方が結構いらっしゃいます。親子3代で焼き肉を食べてもらっているっていうのは、ありがたいですよね」。

1階の奥には座敷もある。こちらは靴を脱いでゆったり座れる掘りごたつタイプの席。
1階の奥には座敷もある。こちらは靴を脱いでゆったり座れる掘りごたつタイプの席。

店内の清潔感やカジュアルな印象が、家族で気軽に来店できる居心地のよさを生んでいるのだろう。ちなみに8名以上の予約の場合、送迎バスを利用できる(条件あり)。親族が集まる機会や会社の宴会などで重宝するはず。

高級銘柄豚を含むスペシャルな焼き肉ランチの虜に

子どもの頃から常連だというお客さんが多い『東天閣』。このようにリピーターを獲得している焼き肉店には、オリジナルのタレが必ず存在する。当然、同店も例外ではない。つ けダレも、もみダレも、創業当時からずっと変わらない味を守り続けているそう。

ランチメニューのイチオシを尋ねると、スーパー得盛ランチ 2400 円とのこと。さっそく卓上のタッチパネルでオーダーする。「スーパー得盛」という豪勢な名称を聞いただけで、無性にお腹が空いてきた。

注文は卓上に備え付けてあるタッチパネルで。セルフオーダー形式なので混雑時でも注文がスムーズ。
注文は卓上に備え付けてあるタッチパネルで。セルフオーダー形式なので混雑時でも注文がスムーズ。

平日のランチタイムは、いわば時間との勝負だ。その点、焼き肉は食べるのにちょっと時間がかかるため、ランチには不向きと思いがち。ところが、ファストフード並みの早さでスーパー得盛ランチが運ばれてきた。これなら平日のランチでも慌てずに済みそう。

スーパー得盛ランチのセット内容。お肉が豪華なだけでなく、野菜をしっかり食べられるラインナップだ。
スーパー得盛ランチのセット内容。お肉が豪華なだけでなく、野菜をしっかり食べられるラインナップだ。

お肉はカルビ、ロース、ハラミ、岩中豚の4種類。付け合わせにはキムチ、ナムル、サラダ、わかめスープ、韓国のりが並ぶ。またライスは大盛り無料で、ソフトドリンクも付く。まず注目すべきは4種類のお肉ということで、田中さんはタレを揉み込む前のものを用意してくれた。

左から、岩中豚、カルビ、ロース、ハラミ。赤身のあいだに 、きれいなサシが入っている。
左から、岩中豚、カルビ、ロース、ハラミ。赤身のあいだに 、きれいなサシが入っている。

カルビ、ロース、ハラミという牛肉3種盛り合わせの時点でお得感はある。そこに岩手県産の高級ブランド豚・岩中豚が加わることで、スーパーな得盛にグレードアップ!

「岩中豚の特徴は、脂がのっていて、旨味が脂にしっかり入っているところ。お客さまから『脂がおいしい』とよく言われますね」。これら4種のお肉に、自家製のもみダレを絡めていく。

秘伝のもみダレを見せてもらった。このタレにお肉を漬け込むことで、柔らかい肉質に仕上がる。
秘伝のもみダレを見せてもらった。このタレにお肉を漬け込むことで、柔らかい肉質に仕上がる。

「タレは醬油ベースで、ゴマ油をたっぷり、果物も入れています。あとは青森県産のニンニクにこだわっていますね。結構ニンニクが効いているので、ニオイはするんですけど、食後にニオイが残りにくいんですよ」。

田中さんと話しているあいだに何度もお腹が鳴った。はやる気持ちを抑えつつ、まずは岩中豚から焼き始める。

岩中豚を無煙ロースターで焼く。脂身があっさりしていて重たくない一方、旨味はしっかりと感じられる一品。
岩中豚を無煙ロースターで焼く。脂身があっさりしていて重たくない一方、旨味はしっかりと感じられる一品。

焼き上がった岩中豚を頬張ると、適度に締まりがある食感。かんでいるうちに脂身がとろけ、まろやかな旨味があふれてくる。焼くことで余分な脂が落ちるからなのか、後味があっさりしているのも印象的だ。

続けて、濃厚な旨味が楽しめるカルビ、さっぱりとした上品な味わいのロース、弾力のある食感がたまらないハラミを食す。各3枚セットになっているので、食べる順番に悩むところだが、その前に自家製のキムチやナムルに移りたい。

自家製の白菜キムチは酸味控えめ。平日のランチはキムチのおかわり自由というのがうれしい。
自家製の白菜キムチは酸味控えめ。平日のランチはキムチのおかわり自由というのがうれしい。

「日本の方でも食べやすいようにアレンジしている」という白菜キムチは、口に入れた瞬間はほんのり甘く、あとからじわじわと辛さが広がる。辛すぎず、酸味はほとんどない万人受けするテイストで、ライスとの相性抜群。

モヤシ、ほうれん草、大根のナムルも自家製だ。毎朝仕込んでいるため鮮度がよく食感もいい。
モヤシ、ほうれん草、大根のナムルも自家製だ。毎朝仕込んでいるため鮮度がよく食感もいい。

ナムルはモヤシ、ほうれん草、大根の3種類で、その日に使う分だけ仕込む。いずれも、みずみずしい食感に仕上がっており、箸休めにぴったりだ。また、ほどよく塩味の効いたわかめスープも、焼き肉によく合う名脇役といえる。

各種付け合わせを食べていると再び焼き肉がほしくなり、焼き肉を食べればライスがほしくなる。ニンニクでパンチを効かせた甘めのつけダレを焼き肉に絡め、ライスと一緒に口へ運ぶと、田中さんのひと言が脳裏に浮かんだ。「お酒よりもご飯に合う気がするんだよな」。まさしく、おっしゃるとおりです。

つけダレ、もみダレなど、自家製のタレは店頭で購入できる。タレを買うため来店する人がいるほど人気。
つけダレ、もみダレなど、自家製のタレは店頭で購入できる。タレを買うため来店する人がいるほど人気。

ランチとはいえ、やはり焼き肉のタレにニンニクは欠かせない。食欲をどこまでも加速させる、ご飯が進む味付けだ。

スローガンは「食べる喜びとまた会う喜び」

前述したように『東天閣』のタレの味は、創業当時から変わらない。「ウチの味が好きで来てくれているお客さまが多いので、レシピは変えず、その味を守っています」。

一度味わえば、また食べたくなること必至のスーパー得盛ランチ。ちょっとしたお祝いや自分へのご褒美に。
一度味わえば、また食べたくなること必至のスーパー得盛ランチ。ちょっとしたお祝いや自分へのご褒美に。

伝統の味を守る一方、『東天閣』には便利なものを柔軟に取り入れていく一面も。たとえば、スマートフォンで混雑状況の確認や順番待ち、ネット予約などができるサービスが導入されている。

「いま何組待っていますよ、っていう情報がリアルタイムで表示されるんです。お客さまご自身で混雑状況を確認してもらえるので、店側としても助かっています」。

おみやげコーナーを兼ねたレジ。施設予約サービス『EPARK』の端末には、店内の混雑状況がリアルタイムで表示されている。
おみやげコーナーを兼ねたレジ。施設予約サービス『EPARK』の端末には、店内の混雑状況がリアルタイムで表示されている。

ほかにも、各席のタッチパネルで注文を取ったり、配膳ロボットを活用したり……店内には、業務をより効率的に進めるための工夫が凝らされていた。これらはスタッフに働きやすい環境を提供するためのものでもある。

「従業員に楽しく働いてもらう、っていうところは心掛けています。仕事がつまらなかったら、笑顔で接客なんかできないですからね」。

たしかに『東天閣』のスタッフたちは終始、和気あいあいとしていた。その和やかなムードが、お店全体に漂っているように思える。同店のスローガン「食べる喜びとまた会う喜び」とは、食を通して家族や友人と親交を深める、という意味だ。これからも、きっと『東天閣』の常連客は、この店で親交を深めるのだろう。

住所:神奈川県川崎市川崎区浜町 4-12-5/営業時間:11:00~21:30LO/定休日:水曜/アクセス:JR川崎駅から臨港バス15分「四ツ角」バス停下車徒歩5分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=上原純