この場所でしか味わえない徹底したこだわりの天然酵母パン
駅から少し距離のあるこの小さなベーカリーは、朝からとてもにぎわっている。席はほぼ満席で、ひっきりなしにパンを買いに来るお客さんがやってくる。お店に近づくとふわん……とあたたかくて香ばしい小麦の香り。オーブンから漂う焼き立ての香りを、お店中でオープンに感じてほしい、というのが店名の由来だ。
『オープンオーブン』は、2001年から営業している。「焼き立ての天然酵母パンとデリのどちらも楽しめるお店が作りたい」という思いから立ち上げたお店だ。
パンもデリもすべて毎朝手作りし、天然酵母パンは10日前から発酵・熟成が行われている。その日出す分はその日作る。そのポリシーから、パンフェスやデパートでの出店などの話もすべて断っているそう。だから、パンもデリもみんな、この市川の『オープンオーブン』でしか味わえない。徹底に徹底を重ねたその姿勢が、料理の味に現れている。
優しい味わいで天然酵母パンを引き立てるイタリアンシェフのこだわりが詰まったデリ
筆者が頼んだのは、デリ&パンのセット1050円。
デリ2種、パン、スープ、ドリンクが食べられるお得なセットだ。しかも組み合わせは全て自由。デリは季節によって内容が変わるので、季節ごとに来て選ぶのも楽しそうだ。
パンのおすすめは盛り合わせとのことだったので、盛り合わせをいただいた。この日は、ココアのパンが盛り合わせでしか味わえない限定のパンだった。
どのパンも全体的に優しいお味だ。食パンは今流行りの、生クリームや牛乳の入った甘いパンとは異なり、甘みは少ないが小麦の香りがしっかりとする。塩味もあるのでパクパク食べられてしまう。ココアのパンは意外な味。ほんのりとココアの香りはするものの、むしろ食事パンにふさわしく甘みは少ない。スープにつけてもおいしい。フォカッチャも天然酵母らしい優しい味で、油っぽすぎないのが、筆者個人的にはとてもうれしかった。かぼちゃのベーグルは、甘みとしっとり感のバランスが良く、主役級なのに食事の邪魔をせず、デザートとしても楽しむことができるという、主役でも脇役でも輝く役者のようなパンだった。歯切れも良いので、お年寄りでもおいしく食べられそうだ。
そして、スープはミネストローネ。
一口食べた瞬間に脳天にトマトや野菜のビタミンが突き抜けるのを感じる。酸味。塩味。旨味。あつあつのスープがたまらない。一口食べるごとに身体が元気になっていくような気さえしてくる。これを毎朝朝ご飯として食べたら、シャッキリと仕事に向かえそうだ。
デリはマッシュルームとパプリカのキッシュと、アボカドとサーモンのサラダをいただいた。
キッシュは切るとじゅわりと野菜のスープが出てくる。パイが全体的に柔らかめで、味も優しいのでお子さんでも安心して食べることができそうだ。
そしてものすごく具だくさん。具が多すぎて切ったら崩れてしまい、上手にすくえないといううれしい悲鳴を上げながら食べた。パプリカとマッシュルームのうまみが、優しい味わいなのに濃い。
サラダはパンのディップとしても合う。アボカドとサーモンという間違いのない王道の組み合わせだ。サーモンの塩味が、パンに載せることでいい感じのパンチになっていた。
地元の方の人生と交差していく、デイリーに食べられるお手頃なパンやデリ
パンもデリも添加物が控えられており、アレルギーがあるお子さんや妊娠中の方でも安心して食べられる。そしてデリはどれも本当にパンに合う。相乗効果で互いをおいしくしているのがよくわかる。
こんなにもおいしくてこだわりの詰まったパンやデリなのに、その値段は高くない。というか安い。ちょっと心配になるほどだ。パンとデリのセットは、量もしっかりある上飲み物もついてなんと1050円。ブランチに最適だ。朝(8~11時)はパンとスープと飲み物のセットが580円。こちらも朝ごはんとしては非常に豪華だ。
これは「おいしくて栄養のあるものをデイリーに食べられなければ意味がない」とオーナーが思っているから。毎日来て、毎日食べて、おいしく健康に生きる。その助けになりたいから「デイリーに買える価格」を意識しているそう。だからこそ、この破格のお値段なのだ。
そして、その姿勢はきちんとお客さんにも伝わっている。若い女性客がすっぴん着のみ着のままで朝パンを買いにやってくる。リモートで勤務しているサラリーマンがお昼だけ「健康にも良いものを」と食べに来る。子供が生まれたばかりのお母さんやお父さんが、子供を連れて離乳食のためにパンを買いに来る。「今日ゲストが来るから!」と添加物を使っていないほろほろ溶けやすいアイスを、お皿を持参してテイクアウトしていくお客さんもいる。子どもたちがいつも食べているパンの裏側を知りたいと社会科学習の取材でこぞってやってくる。おばあさんが久しぶりに帰ってくる孫のために、このお店のパンを用意する。
そうやって、『オープンオーブン』は人々の暮らしの中に溶け込んでいる。
世代を超え、時代を超え、めぐる人生のかたわらにこのベーカリーのパンがある。社会科学習の取材に来た小学生の男の子が、数年後に奥さんを連れてやって来たりもするそうだ。このパンの傍らに人生があり、人生の傍らにこのパンがある。
オーナーは「お客さんたちが、私達の全然知らないところで『オープンオーブン』の歴史を紡いでくれているのよ」と語る。地元に根ざし、地域の人々の心と身体を健康にするベーカリー『オープンオーブン』。あなたの日常の中にも、このお店の紡ぐ歴史を取り入れてみませんか。
取材・文・撮影=HOKU