天竜川に親しみのある店主が提供する絶品割烹
東京メトロ・清澄白河駅から徒歩3分ほどの場所に店を構える2005年創業の『愛遊割烹 天竜』は、清澄白河の古き良き下町を思わせる割烹料理屋だ。
「割烹」と聞くと少し身構えてしまう人も多いだろう。しかし『愛遊割烹 天竜』では、気さくな店主の人柄も相まって、カジュアルで家庭的な雰囲気の中で食事がいただける。
特にランチタイムは、手頃な価格帯の本格割烹が人気だ。
「うちは創業当初から通ってくれる常連さんや、地元のお客さんが多いかな。特にランチは女性客が多い。6〜9月は昼も夜も鮎料理をメインに出していて、それ以外の季節はその時期ならではの旬な食材を使った料理を振る舞っています」と語る小池さん。
20年以上和食の道を極めてきた小池さんだが、なぜ鮎料理に特化したお店を開こうと思ったのだろうか?
「実はぼくの実家は、天竜川のすぐ近くで鮎友釣り用の釣具なんかを販売する店を営んでいて。だから、天竜川と鮎は、ぼくにとってとても親しみ深い存在。和食料理人として修業しながら、いつか鮎料理に特化したお店を開きたいと思っていて。そこで一念発起して、この店を始めました」。
鮎は夏が旬なので、『愛遊割烹 天竜』で鮎料理を楽しめる時期は限定的だ。それでも常連客は、オールシーズン『愛遊割烹 天竜』に通うらしい。
「鮎の時期にはワンシーズンで2〜3回鮎料理を食べに来て、それ以外の季節にはその時期ならではの旬菜を食べに来るお客さんが多いかな。結果、お客さん達は一年中うちの料理を楽しんでくれてるみたい(笑)」。
鮎料理を前面に押しながら、鮎を提供できない季節にも絶えずお客さんが足を運ぶ人気割烹料理屋、それが『愛遊割烹 天竜』なのだ。
本格割烹をお手頃価格で!艶やかな新鮮刺し身と、サクサク衣の天ぷら
取材に伺ったのが12月だったため、非常に残念ながら今回『愛遊割烹 天竜』の鮎料理にはありつけなかった。そこでこの日は、ランチタイムで圧倒的人気という昼ご膳セット1600円をいただいた。
接客担当の奥様と2人で手際良く準備し、あっという間にテーブルにお目当てのランチが提供された。
刺し身はどのネタもツヤツヤと輝いていて、一目見てその質の高さが伺える。
マグロ特有のほのかな甘みと、程よく乗った脂のとろりとした旨味のバランスが絶妙だ。食べ終えてしまうのが思わず悲しくなる。もちろん他のネタもマグロに負けず劣らずのクオリティで、小池さんの仕入れの巧みさが実感できる。
お次は天ぷら。言うまでもなく、サクサクの衣の歯ざわりが堪らない!
甘みの強いエビの天ぷらは、天つゆに浸さずともそのおいしさがダイレクトに伝わってくる。サクッとした衣の歯応えを感じた後、すぐに訪れるエビのぷりっとした食感が楽しい。聞くと、衣の粉は小池さんこだわりの配合のものを使っているそうだ。
一般的な和食のランチセットでは箸休め的存在とされがちな味噌汁と新香も、『愛遊割烹 天竜』では決してサブ的な立ち位置ではない。出汁の旨味が存分に効いた味噌汁、程よい塩味で後引く味わいの新香。いずれも長年和食一筋でやってきた小池さんだからこそ成せる味わいだ。
見た目も味も、全てが上品かつ丁寧にまとめられた『愛遊割烹 天竜』のランチセット。これは次回、鮎の時期を見計らって再来し、ぜひとも鮎料理も堪能したい!
「粋」な店を体現し続ける店主のこだわりと想い
「仕入れで大切なのは、値段より品質。雇われ仕事をしている仕入れ先の魚は、やっぱり旨くない。個人の目利きが強い業者から仕入れることで、自分もお客さんも満足できる料理を提供できる。だから、長年付き合いがあっても、品質に納得がいかなくなったら仕入れ先を変えることだってある」。
穏やかな笑顔で語る小池さんだが、その口ぶりからは料理人としての熱い想いが感じられる。
「お店をやっていく上で、お客さんの回転とかは一切考えていないかな。とにかく、一人ひとりのお客さんを大切にして、それぞれのお客さんにしっかり喜んでいただきたい。単純だけど、お客さんの”おいしい”の声が、何よりもうれしいから」。
『愛遊割烹 天竜』では、ネットでの集客や広告を打ってのアピールなどはほとんどしていないという。それなのに絶えず客が訪れるのは、小池さんが長年真摯に目の前の客と向き合ってきたことの証なのだろう。
「何ていうか、小粋な店でありたいよね。この店を作る時も、大工さんには”粋に作って下さい”ってお願いしたんです。別に店がずっと続いて欲しいとかは思っていなくて、ぼくの代で閉めちゃっていいの。でも、今いるお客さんのことは全力で大切にしたい」。
話を聞けば聞くほど、小池さんの潔い人柄と、お客さんに対する強い想いが伝わってくる。
近年新しい店が続々と開店する清澄白河という街で、創業当初から変わらぬメニューと接客で戦い続ける小池さんご夫婦。敷居が高いと思われがちな割烹も、『愛遊割烹 天竜』であれば気軽に楽しめそうだ。
夏には店主自慢の鮎料理を、冬には旬の食材を使った贅沢御膳を味わいながら、『愛遊割烹 天竜』で、心満たされる食事時間をしっとりと楽しんでみてはいかがだろうか。
取材・文・撮影=杉井亜希