アクセス
鉄道:JR・私鉄・地下鉄新宿駅から中央本線(特急・普通利用)で約1時間50分の竜王駅下車。
車:中央自動車道八王子ICから甲府昭和ICまで約88km。同ICから中心部まで約3km。八王子ICから約94kmの双葉スマートIC(SA併設)も利用可。
絶景をつまみに、ぜいたくなひととき
さて、手始めに市全域を一望したく足を運んだのは、ドラゴンパークの愛称で親しまれる赤坂台総合公園だ。展望塔から周囲の山々を見渡すと、「ヤッホー!」と思わず声を出したくなる。
次いで訪れた『サントリー登美の丘ワイナリー』では、甲府盆地の先に富士山が頭を覗(のぞ)かせ、右手には南アルプスもくっきり。見ると試飲用ワインを手にテラス席でくつろぐ見学客が、絶景をつまみに至福の表情を浮かべている。なんとぜいたくなひとときだろう。
甲斐市の地図を眺めると、南北に細長いことに気づく。比較的平坦な南部は、かつてこの地を治めた戦国武将の武田信玄が、信玄堤(づつみ)を築いて治水に尽力した釜無(かまなし)川左岸一帯に、住宅地と農地が混在。市のマスコットキャラクター「やはたいぬ」の名は、この地の特産「やはたいも」にちなんだものだ。片や北部は、奥秩父の山並みへ向けて徐々に傾斜を増し、自然豊かな森林地帯が増えるなど、南部とは対照的な表情を見せている。
ところで御嶽昇仙峡といえば甲府市の景勝地と思いきや、甲斐市の担当課いわく、「遊歩道の大半は甲府市内ですが、見える岩峰群の多くは甲斐市内なんです」とのこと。なるほど合点がいったが、市境を意識しながらの散策も案外面白い。
こんなところにも、市境にまつわる発見が
「ユニークな本屋さんがありますよ」と聞き、やってきたのは『敷島書房』だ。パッと見、ごく普通の地方書店だが、店の奥の棚には非売本がぎっしり。聞けば、幼少期から無類の本好きの3代目店主・一條宣好さんが、「自分が学んできた知識を、本を媒介に情報提供できれば」との思いで、蔵書を店の棚に並べているのだとか。博識な一條さんだが、それをむやみにひけらかすことなく、目を輝かせながら、本にまつわる思いを純粋に語る姿には、ただただ感服するほかない。
そんな様子を近くで見守る茅ヶ岳は、登山愛好家のバイブル『日本百名山』の著者・深田久弥が急逝した地として知られる。調べると山頂は甲斐市と北杜(ほくと)市にまたがり、「百の頂に百の喜びあり」との深田の言葉を刻んだ石碑がある深田記念公園はギリギリ韮崎市らしい。登山中に市境を気にしたことはないが、意外な発見に得した気分になる。
この旅の締めくくりに残しておいたのは、とっておきの『山口温泉』だ。施設こそ古めかしいが、湯の鮮度はエリア屈指だという。「ぬるすぎると言って、すぐ出てしまう客もいるけど、最低でも30分は浸からないと、ウチの温泉の魅力は伝わらない」と番頭の山口健(たけし)さん。ここは素直に教えに従い、気づけば1時間以上ユラユラ……。あまりの心地良さに抜け殻のようになり、もはや帰る気力すら消え入りそうだ。なんとも悩ましい名湯である。
赤坂台総合公園(ドラゴンパーク)
街中で気軽に360度のパノラマを満喫
高さ約33mの展望塔が目を引く市民憩いの場。7階に相当する展望フロアからは、富士山を筆頭に南アルプス、八ヶ岳、奥秩父などの山並みを見渡せ、甲府盆地の一角にいることを実感。芝生広場を取り囲むように1周850mの遊歩道が整備され、季節の花々が彩りを添える。
御嶽昇仙峡(みたけしょうせんきょう)
大迫力の自然の造形に目を奪われる
甲斐市と甲府市にまたがり奇岩と渓谷美で知られる昇仙峡。御嶽の呼称は奥秩父・金峰(きんぷ)山の五丈岩を本宮とする修験道「御嶽信仰」に由来する。長潭(ながとろ)橋から仙娥(せんが)滝にかけての荒川沿いの遊歩道は江戸後期に開削された御嶽新道の名残で、行楽客でにぎわう。甲斐市内に残る御嶽古道はハイカー向けのトレッキングコースとして整備。
●山梨県甲斐市千田ほか
サントリー登美(とみ)の丘ワイナリー
金~日・祝は無料シャトルバスが運行
恵まれた自然環境を生かし、ブドウ栽培から瓶詰め・熟成まで一貫した行程でワインづくりに取り組む。FROM FARM 登美の丘甲州2021(写真/5940円)など自園産ワインやグッズを扱うワインショップでは、有料試飲もOK。各種有料ツアー(要予約)の詳細はHPで確認を。
い~なとうぶ竜王
旬を迎えたねっとり味の「やはたいも」
JA山梨みらいが運営する農産物直売所。地元産の新鮮野菜を中心に、季節の果物や加工品、弁当、パンなどが豊富に揃う。例年10~12月には旧竜王町八幡(やはた)地区で限定生産される里芋「やはたいも」が店頭に並び、繊維がきめ細かく、粘り気の強い、とろけるような味わいが人気を博している。
いちか
自家製酵母にこだわる評判のベーグル店
いちじくクリームチーズ280円やナッツとベリーのホワイトチョコレート280円など、もっちり食感のベーグルは常時15種前後。「気になる食材を組み合わせながら、試行錯誤しています」と栗原修一さん・恵子さん夫妻。開店前から地元客の行列ができる人気店だ。
tapiiri(タピリ)
自宅の庭先に小さな店を構える雑貨屋さん
「人の手と自然から生まれたものを暮らしに」をコンセプトに、店主・有泉(ありいずみ)紗矢佳さんが厳選した日用品や雑貨が揃う。バルト三国のラトビアで作られた柳のカゴや手織り作品から国内作家の陶器・小物まで、どれも温もりを感じる品ばかりだ。
CAFE TRETAR(トレートール)
店名はスウェーデン語で「3杯目の珈琲」の意
入り口脇の大きな窓がひと際印象的な、明るく居心地のよい北欧風カフェレストラン。店名には「3杯目のコーヒーを飲みたくなるくらい、ゆっくり過ごしてほしい」との店主・水谷真也さんの思いが込められている。自家焙煎コーヒーはあえてブレンドのみで、甘みやコクのなかに、ほんのり苦味を感じるTRETARブレンドは450円。北欧ワッフル560~1220円のほか、スモークサーモンとアボカドのタルタルオープンサンドや北欧ミートボール(ともに1180円/サラダ付き)など、定番の北欧料理も気軽に味わえる(1ドリンク制)。
敷島書房
“売らない本棚”がある風変わりな書店
地元山梨の民俗研究書が多く揃う新刊書店だが、一角には非売本の棚が。店主の一條宣好さん自身造詣の深い南方熊楠(みなかた くまぐす)関連本から文芸書に至るまでジャンルは幅広く、購入はできないものの閲覧は自由。タイミングが合えば一條さんの生解説を聞けるかも。
茅(かや)ヶ岳
日本百名山ハンターの聖地的存在
市北部に横たわり、その山容から「にせ八ツ」とも呼ばれる。登山道は複数あり、深田記念公園側からのルートが一般的だ。山頂までの所要は約2時間30分で、富士山をはじめ、南・北アルプス、八ヶ岳、瑞牆(みずがき)山や金峰山などを一望。山頂手前には「深田久弥(きゅうや)先生終焉之地」と刻まれた碑が立つ。冬季の登山は凍結路に注意を。
●山梨県甲斐市上芦沢ほか
山口温泉
温泉ツウも思わずうなる極上ぬる湯
「ドボドボ!」と豪快に音を立て、惜しげもなく湯船に注ぎ込む弱アルカリ性の湯は、無加温・無加水で正真正銘の源泉完全かけ流し。空気に触れたばかりの新鮮な湯の温度は約37℃で、重曹を含むため保湿効果も大だ。心ゆくまでぬる湯に浸かれば、体の芯までポカポカ温まる。
【耳よりTOPIC】市内の特産品が並ぶ月イチ開催の朝市
建築家・安藤忠雄氏が設計を手がけたJR竜王駅。その南北駅前広場で毎月第2日曜に催されるのが「竜王駅前甲斐てき朝市」だ。新鮮野菜をはじめ総菜・菓子パン・コーヒー・手づくり雑貨など、約40店舗が集まる。
●9:00~12:00、荒天時中止。☎055-278-1708(甲斐市商工観光課内 竜王駅前甲斐てき朝市の会事務局)
取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2023年12月号より