ゆったりと穏やかに、ケヤキ並木と共に歩む街

うわぁ〜、すてき!
と、思わず足が止まったのは、素朴ながら品のあるカゴバッグが美しくディスプレイされた『かごや』。
「地元の建築士による街の雰囲気に合わせたデザインなんですよ」
と店長のあべさとみさん。ナチュラルでやさしい風合いや落ち着いた空間からは、中杉通りのケヤキ並木をはじめとする自然との一体感や、ゆったりとした空気が伝わってきた。

阿佐ケ谷のシンボルでもある中杉通りのケヤキ並木。青梅街道から早稲田通りまで約1.5㎞続く。
阿佐ケ谷のシンボルでもある中杉通りのケヤキ並木。青梅街道から早稲田通りまで約1.5㎞続く。
『かごや』の店内。2021年に、阿佐ケ谷の街並みをイメージした空間にリニューアルした。
『かごや』の店内。2021年に、阿佐ケ谷の街並みをイメージした空間にリニューアルした。

そんな穏やかな街並みの中で、ひそかに脚光を集めているエリアがある。松山通りと呼ばれる旧中杉通りだ。ここで『草鞋(わらじ)ベーカリー』をオープンさせた代表・鈴木伸弥さんは、
「この通りがすごく好きで、ずっとパン屋をやりたかったんです」
と笑顔。また、少し北に進んだ場所にある『BIRRA e VINO MASUYO(ビラ エ ヴィーノ マスヨウ)』は、もともと店主・塚本涼太さんの両親が酒屋を営んでいた建物を改装。
「個性的な店が増え、商店と住宅の混在に、地域密着型商店街としての新たな可能性を感じたんです。街の人々と一緒に楽しむ場所ができたらおもしろくなりそう!ってね」。

趣ある店構えの『草鞋ベーカリー』。
趣ある店構えの『草鞋ベーカリー』。
吉祥寺から始まった「ふらり赤い椅子プロジェクト」。商店街や街中で見かけたら座って休憩してみて。
吉祥寺から始まった「ふらり赤い椅子プロジェクト」。商店街や街中で見かけたら座って休憩してみて。

子供からお年寄りまで、ますます暮らしやすい街へ

さらに、通りにほど近い住宅地では手作りの幟(のぼり)が目印の『まちサロン おきやんち』がオープン。なんと御年90歳の味香興郎(あじかおきお)さんがクラウドファンディングで資金を集めてコミュニティースペースを立ち上げたのだ。

そのエネルギッシュな行動に感心しながら向かった『羊毛繊維屋ときざきR』。お店の柏崎美実さんが、
「年配の方もいれば、子育て世代から今どきの若者もいて、年齢層が幅広い。バランスのいい街ですよね」
と話していて合点がいった。時折、阿佐ケ谷出身だと話すと、
「いい街よねぇ。うらやましい!」
なんて言われ、もやもやしていた疑問がすっきり。一定の年齢層だけが目立つことのない、ほどよい感じが暮らしやすさにつながっているんだな。

移転された新施設の阿佐谷地域区民センターに行くと、小さな子供たちの笑い声が響いていた。すぐ横の館内の喫茶スペースでは、おしゃべりに夢中のマダムたち、外をぼんやり眺めているおじいさん、勉強に励んでいる大学生。さまざまな世代の人たちが集まっていて、阿佐ケ谷の縮図を垣間見た気がした。
以前ここにあったけやきプールの取り壊しにショックを受けた方も多いはず。私もその一人だったけど、屋上に設けられた公園に上がると、すがすがしい大きな空が広がり、360度の眺めが解放感抜群!
「これもありだな」
と頬が緩んだ。
「杉並区の都市計画で、ずいぶん前から決まっていたことだったんですよ」
と、管理責任者の山下新人さん。講座やイベントなど新しい取り組みも多く、すでに街になじんでいる。

開放感あふれる『阿佐谷けやき公園』の阿佐谷地域区民センター屋上庭園。
開放感あふれる『阿佐谷けやき公園』の阿佐谷地域区民センター屋上庭園。
『阿佐谷けやき公園』から北に行ったところにある、広大な屋敷林に囲まれた小道。杉並の原風景が残る屋敷林として保全地区になっている。
『阿佐谷けやき公園』から北に行ったところにある、広大な屋敷林に囲まれた小道。杉並の原風景が残る屋敷林として保全地区になっている。

同じく都市計画の一部で、駅周辺でも大きな再開発が進行中。そんななか、
「せっかく街が変わるなら、何かやろうよ!」
と阿佐ケ谷出身の仲間から声がかかり、松山通りに誕生したのがコーヒーと焼き菓子のシェアキッチン『FOOCO』。代表の宮地洋さんは、
「新たな人の流れが生まれると、街の楽しみが広がるんです」。
その言葉どおり、すでにもうじわじわと面白みが増している。

シェアキッチン『FOOCO』。
シェアキッチン『FOOCO』。

【穏やかかつ楽しみ広がる、交流育む街並みいろいろ】

カゴバッグの可能性を模索中『かごや』

山ぶどうのカゴバッグ(左)6万1600円。
山ぶどうのカゴバッグ(左)6万1600円。

ずらりと並ぶカゴバッグは、中国の自社工房で作られたもの。職人の育成から製造、販売まで一貫して行うことで価格を抑えている。カバンにオーダーで絵を描いたり、地元の店とコラボしたり、新しいことにも挑戦中。現在営業は予約制(HPを要確認)。

●☎非掲載。Instagram:@kagoya_official

雅(みやび)な刺繍の御朱印を求めて遠方から訪れる人多し『阿佐ヶ谷神明宮』

大和がさね。初穂料1000円。
大和がさね。初穂料1000円。

ジャズストリートの会場になったり、能や伝統芸能の奉納など、地域のコミュニケーションの場としても親しまれている。新しいことにも柔軟で、和紙に刺繍を施した御朱印符(大和がさね)も日本で初めて授与を開始。季節で変わる繊細な刺繍は感動の美しさ。

『阿佐ヶ谷神明宮』詳細

住所:東京都杉並区阿佐谷北1-25-5/営業時間:境内自由(開門時間は季節により異なる)、社務所は9:00~17:00/定休日:無/アクセス:JR中央線阿佐ケ谷駅から徒歩2分

店主それぞれの自慢の焼き菓子をどうぞ『FOOCO』

初めてお菓子を売る人やカフェの開業を考えている人など、気軽に自分のお店を持てる会員制シェアキッチン。現在シンガポールのお菓子やビーガンのマフィン、カナダのバターソルトなど焼き菓子13名、コーヒースタンド8名が登録中。

●営業時間は店により異なる。詳しい開店予定はInstagram(@fooco_asagaya)を要確認。☎なし

野菜の恵みを丸ごといただきます『草鞋ベーカリー』

店主・鈴木伸弥さんの念願だった松山通りに、2022年3月にオープン。三鷹の『冨澤ファーム』から収穫の翌日に届く旬野菜がドーンと使われてインパクト大! 茄子味噌バターの五穀パン290円、トマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ330円など。

●11:00~売り切れ次第終了、不定休(月1回休)。☎なし。Instagram:@waraji_bakery

友人の部屋に来たような気分でリラックス『EMU BAKEHOUSE』

海外生活でカフェにハマった店主の内田萌さん。日本にはスパイスの効いたお菓子が少なく、「だったら私が作る!」と開業を決意した。今後は世界のお菓子を紹介していく予定。クルミとレーズンがたっぷりのキャロットケーキはドリンク付きで1650円。

●11:00~19:00(キャロットケーキは要予約)、月~水・金休。☎070-7463-7678

何ができるかワクワクしながら企画中『まちサロン おきやんち』

90歳の味香興郎さん(写真右)が発起人となり、倉庫だった建物をコミュニティースペースに。クラウドファンディングを利用した現代的な発想に驚き。勿体ないコーナーのほか、落語、ヨガ、歌う会などを開催。やってみたいことがあれば、ぜひ相談を。

●10:00~12:00・13:00~17:00(17:00以降の利用は応相談)、水休。☎090-2548-5652

羊毛の手仕事を一緒に楽しみましょう!『羊毛繊維屋ときざきR』

時高久美子さん(左)と柏崎美実さんの2人で2022年8月オープン。材料を買えるほか、羊毛を紡いで糸にしたり、羊毛を染めたり、織ったり、羊毛でいろんなことができる場所。「お店で実際に見る毛糸の色や手触りも大事。なんでも相談に乗ります!」。手仕事の講習は1時間1500円。

●10:00~17:00、水・木休。☎03-6783-5549

ワインとビールを介した交流の場に『BIRRA e VINO MASUYO』

ビールメーカーに勤めていた塚本涼太さんがセレクトした国内外のクラフトビールが250種以上。ワインジャーナリストである姉の悦子さんが取材で出合ったおすすめワインは200種以上。角打ちコーナーのほか、ビールの会とワインの会も好評。

●14:00~22:00(土・日・祝は11時~)、火・水休。☎なし Instagram:@birraevino_masuyo

けやきプール跡地が生まれ変わった!『阿佐谷けやき公園』

2022年4月に移転した杉並区立阿佐谷地域区民センターと一体化。館内には児童館やカフェが併設され、誰でも気軽に立ち寄れる場所になった。元々の公園を生かした屋外のほか、屋上も公園の一部になっていて緑がいっぱい。中央線が眼下を走り抜ける電車スポットの穴場でもある。

●屋上庭園は9:00~21:00、第2火休。☎03-5356-9501

富山の自慢の食材を惜しみなくフレンチに『Bistrot33 santrois』

富山出身の高崎嗣士シェフによる「富山の魅力を伝えたい」という熱い思いがいっぱい。ワイン1杯から気軽に楽しめるほか、週3回のランチもお値打ち。おすすめは、黒部名水ポークバラ肉のロースト1980円(写真)や氷見漁港直送の魚介。

●18:00~22:00LO(日は21:00LO、金・土・日はランチも営業12:00~14:00LO)火・水休。☎03-6279-9774

取材・文=井島加恵 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2022年11月号より