スローな空気が魅力の“踊り場”のような街
逗子駅からバスに乗り込む。民家の切れ間からは光る海、歩道には4月なのにタンクトップの人々。徐々に、南国へ向かうような高揚感に包まれる。
バス停のすぐ目の前、『陸の家OASIS』で迎えてくれたのは、代表の朝山正和さん。『海の家OASIS』の立ち上げに関わり、葉山芸術祭の実行委員でもある、葉山カルチャーのけん引役だ。
「葉山へ越してきて40年以上。最初は、こんなに長く住むと思っていませんでした」
朝山さんが葉山から離れられないのは「成人男性が平日昼にブラブラしてても、いぶかしがられないから」と笑って話す。
「鎌倉や逗子駅前とは地続きですが、ここだけ独立した島のように、時間の流れがゆっくりなんです」
そんなスローな空気に惹かれ、葉山に移住する人も多い。海・陸の両家でジャマイカ料理を担当するトゥイッチさんもそのひとりだ。
「彼は、いつの間にか定住してた(笑)。葉山は毎年新しい人が住み始め、住んでいた人が新天地へ越していく。人の出入りが多い“踊り場”のような街なんです」
竹とトタンのアミューズメントパーク
『海の家OASIS』が誕生したのは、朝山さんが葉山に来た2年後。逗子にある自然食品の店の常連仲間と、オーガニックにこだわる海の家を始めたのだ。
「今と同じ場所で、16坪の小ささで始めました。スタッフの半分がレゲエ好き、半分がデッドヘッズ(ロックバンドのグレイトフルデッドに惹かれ、自由な生き方を標榜した人たち)で、そういう音楽好きのたまり場でしたね」
オーガニックと音楽。OASISの軸となるものは最初から萌芽していた。毎年竹とトタンでセルフビルドするスタイルも、当初から変わらない。「竹は近所で手に入りやすいし、オーガニックな気持ちいい空間を造れますから」。
「ずっと造り続けたい、僕らの大好きな遊び場」 ジャパニーズレゲエの胎動もここから
現在も7〜8月の2カ月の開業期間に対し、6月から1カ月もかけて海の家を組み立てていく。毎年毎年この作業は、骨が折れるのでは?
「苦労よりも楽しさの方が断然大きい! 竹は軽いし、間違って切ってもまた次の竹と取り換えればいいですから。建築というより工作の感覚です」
OASISの中にはライブステージを造るのが恒例だ。約30年前にスタッフでレゲエバンドのHome Grownが結成され、PUSHIMやFIRE BALLなどのアーティストが、有名になる前からここでマイクを握った。ジャパニーズレゲエの胎動はここから始まったのだ。
熱きライブの一方で、地元の人々がビーサンで一杯飲みに来るゆるさも、また実にOASIS。未体験の人は、今夏、ぜひ訪れて、心を溶かしてほしい。砂浜の熱を足裏に感じながら、ジャークチキンとサンセットの絶景をつまみに一杯。こんなアイリー(パトワ語で“楽しい、最高、ハッピー”な時に使う言葉)な雰囲気は、他じゃなかなか味わえないのだから。
『海の家OASIS』
2022年も7・8月に営業!
森戸海岸に出現する約100坪の巨大な海の家。オーガニックや炭焼きにこだわったフード、各種お酒を堪能できる。2022年はキッチンを拡充し、料理の種類がさらに豊富に。音楽やドローイングのライブも不定期開催。
●7月1日~8月31日の11:00~22:00、不定休。☎なし
『陸の家OASIS』 [葉山]
海の家で人気の料理が通年ここで!
『海の家OASIS』の通年営業版として、2013年にオープン(開業時の店名は「カラバシ」)。
店長は日替わりで、水・土は朝山さんのスパイスカレー、日・火はジャマイカ料理、月・木・金は洋食を楽しめる。南国のお酒や地元ロースタリーの豆を使うコーヒーでまったり過ごす人も。ひょうたんで作ったスピーカーなど、セルフビルドの精神はこの店にもキラリ。
『陸の家OASIS』店舗詳細
取材・文=鈴木健太 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2022年6月号より