かすかに昭和を感じる店内でノスタルジーに浸る

ランチタイムから少し外れた午後2時。店先では、昼飲みを楽しむ客でにぎわっていた。その魅惑の立ち飲みゾーンを抜け、奥にあるレストランへと進む。

『肉の大山』外観。向かって右が店内への入り口。
『肉の大山』外観。向かって右が店内への入り口。
入ってすぐの立ち飲みゾーン。窓口で注文して受け取るキャッシュオンスタイル。
入ってすぐの立ち飲みゾーン。窓口で注文して受け取るキャッシュオンスタイル。

レストラン内は奥行きがあり、ゆったりとしたスペース。テーブルや椅子、内装になんとなく残る昭和の余韻のような空気感が、ノスタルジックな気分にさせる。

昼時ともなれば連日満席必至の超人気店だが、その人気を支える一端はこの雰囲気が担っているに違いない。人が持つ幸せの記憶のような、ぼんやりとした心の琴線にふれるのだ。おっと、ステーキの前にしみじみとしてしまった。罪な店だ。

ランチタイム中はテーブル51席、カウンター15席の計71席。奥右側のカウンター席からは厨房の様子が見える。
ランチタイム中はテーブル51席、カウンター15席の計71席。奥右側のカウンター席からは厨房の様子が見える。

種類豊富な肉料理を堪能できるランチメニューは、どれも驚きの神コスパ!

さて、注文するはもちろんステーキだが、一応テーブルのメニューをチェック。ステーキ、ハンバーグ、牛と豚の生姜焼きに鶏もも唐揚げ、ミックスグリルなど自慢の肉料理がたっぷり16ページにおよぶ。定食、丼、カレーにパスタと種類も豊富で、すべてがなかなかにボリューミー。しかもそのほとんどが1000円以下だ。

さすが上野のアメ横で老舗の看板を掲げる食肉卸直営レストランと畏敬の念に打たれていると、ほどなくステーキが運ばれてきた。そして、さらに心が震える事態となる。目の前のテーブルに並んだ料理、これが990円とは信じられない景色だ!

大山ステーキ定食990円。オーストラリア産のサーロインステーキ150gがこの値段で提供できるのは食肉卸直営だからこそ。
大山ステーキ定食990円。オーストラリア産のサーロインステーキ150gがこの値段で提供できるのは食肉卸直営だからこそ。

サイドメニューには豚汁、漬物、ドリンクバーが付く。ステーキの付け合わせにはポテトサラダと生野菜に、ローストベーコン1枚が添えられている。この大盤振る舞い、かなりしびれる。

弾力ある肉はジューシーで、食べ応えの厚さ。すりおろし玉ねぎが入った醤油ベースのソースをたっぷり絡ませ、ご飯とほおばる。シアワセすぎる~。
弾力ある肉はジューシーで、食べ応えの厚さ。すりおろし玉ねぎが入った醤油ベースのソースをたっぷり絡ませ、ご飯とほおばる。シアワセすぎる~。

表面に焦げ目をつけて香ばしく焼かれたステーキは、切ると中はほんのりピンク色。少ししっかりめのミディアムといったところだろうか。

ステーキを焼く厨房の様子。注文を受けてから1枚1枚丁寧に焼き上げている。
ステーキを焼く厨房の様子。注文を受けてから1枚1枚丁寧に焼き上げている。

現在の場所で1986年にオープンした当時はレストラン、立ち飲み、肉屋の3足のワラジだった

そもそも『肉の大山』は明治40年(1907)、栃木県宇都宮市に家畜の地方集散地問屋として農場を開設し、食肉卸『大山食肉』を創業したのが始まり。「お肉の卸が母体で、平井(東京都江戸川区)に卸売りセンターと工場があります。この辺だと、精養軒にも肉を卸しています」とは、スタッフの山本歩さん。

今でこそ立ち飲みとレストランとしてにぎわうここにも、1986年のオープンから2019年までは肉のショーケースが置かれ、近所の人が肉を買いに来る肉屋も併設していたのだそう。オープン当初は店の奥が肉の売り場で手前がレストラン、外に総菜の販売と立ち飲みというスタイルだった。

名物やみつきコロッケ70円、やみつきメンチ130円のほか、1日各150個売れる大山特製メンチ200円と匠の和牛メンチ400円は売り切れご免の人気商品。※価格は立ち飲みとテイクアウトでの価格
名物やみつきコロッケ70円、やみつきメンチ130円のほか、1日各150個売れる大山特製メンチ200円と匠の和牛メンチ400円は売り切れご免の人気商品。※価格は立ち飲みとテイクアウトでの価格

「肉屋がなくなって3年近く経ちますが、今だにお肉を買いに来るお客さんもいます」と山本さん。レストランでも毎日11時の開店と同時に来て、座れば何も言わなくても注文が通るなじみ客がいるという。それほど、地元に愛されているのだ。

テーブルには、茨城県の醤油屋さんと作ったというオリジナルソースが。フルーティで、大山人気の揚げ物をさらにおいしくしてくれる。そういえば、ランチについてきた豚汁も、具がたっぷりで豚肉の味しっかりでものすごくおいしかった。生野菜の手作りドレッシングも然りだ。

フルーティでマイルドな味わいの大山特製揚げ物のたれ。
フルーティでマイルドな味わいの大山特製揚げ物のたれ。

リーズナブルでも手を抜かず、ひとつひとつ本気で作る。この春(2022年4月28日)、亀戸にオープンした新店『BUTCHER OHYAMA』のコンセプトは“老舗肉屋にしかできない本気の肉バル”。上野アメ横で人々を惹きつけてやまない肉の名店は、今流行りの隠れ家でもオシャレでもないけど、実にカッコイイ。そんな店だ。

住所:東京都台東区上野6-13-2/営業時間:11:00~22:00LO(日・祝は~21:00LO。ランチタイムは平日は~15:00、土・日・祝は~14:00)/定休日:無/アクセス:JR・地下鉄上野駅から徒歩2分

取材・文・撮影=京澤洋子(アート・サプライ)

上野公園とアメ横は、東京を代表するお出かけスポット。とにかく広くて面白くて深いので、この二つだけで上野を語ることもそう間違っていないだろう。でもそれでは散歩の達人の名が廃る。ディープな上野をざっくり紹介しよう。