かすかに昭和を感じる店内でノスタルジーに浸る
ランチタイムから少し外れた午後2時。店先では、昼飲みを楽しむ客でにぎわっていた。その魅惑の立ち飲みゾーンを抜け、奥にあるレストランへと進む。
レストラン内は奥行きがあり、ゆったりとしたスペース。テーブルや椅子、内装になんとなく残る昭和の余韻のような空気感が、ノスタルジックな気分にさせる。
昼時ともなれば連日満席必至の超人気店だが、その人気を支える一端はこの雰囲気が担っているに違いない。人が持つ幸せの記憶のような、ぼんやりとした心の琴線にふれるのだ。おっと、ステーキの前にしみじみとしてしまった。罪な店だ。
種類豊富な肉料理を堪能できるランチメニューは、どれも驚きの神コスパ!
さて、注文するはもちろんステーキだが、一応テーブルのメニューをチェック。ステーキ、ハンバーグ、牛と豚の生姜焼きに鶏もも唐揚げ、ミックスグリルなど自慢の肉料理がたっぷり16ページにおよぶ。定食、丼、カレーにパスタと種類も豊富で、すべてがなかなかにボリューミー。しかもそのほとんどが1000円以下だ。
さすが上野のアメ横で老舗の看板を掲げる食肉卸直営レストランと畏敬の念に打たれていると、ほどなくステーキが運ばれてきた。そして、さらに心が震える事態となる。目の前のテーブルに並んだ料理、これが990円とは信じられない景色だ!
サイドメニューには豚汁、漬物、ドリンクバーが付く。ステーキの付け合わせにはポテトサラダと生野菜に、ローストベーコン1枚が添えられている。この大盤振る舞い、かなりしびれる。
表面に焦げ目をつけて香ばしく焼かれたステーキは、切ると中はほんのりピンク色。少ししっかりめのミディアムといったところだろうか。
現在の場所で1986年にオープンした当時はレストラン、立ち飲み、肉屋の3足のワラジだった
そもそも『肉の大山』は明治40年(1907)、栃木県宇都宮市に家畜の地方集散地問屋として農場を開設し、食肉卸『大山食肉』を創業したのが始まり。「お肉の卸が母体で、平井(東京都江戸川区)に卸売りセンターと工場があります。この辺だと、精養軒にも肉を卸しています」とは、スタッフの山本歩さん。
今でこそ立ち飲みとレストランとしてにぎわうここにも、1986年のオープンから2019年までは肉のショーケースが置かれ、近所の人が肉を買いに来る肉屋も併設していたのだそう。オープン当初は店の奥が肉の売り場で手前がレストラン、外に総菜の販売と立ち飲みというスタイルだった。
「肉屋がなくなって3年近く経ちますが、今だにお肉を買いに来るお客さんもいます」と山本さん。レストランでも毎日11時の開店と同時に来て、座れば何も言わなくても注文が通るなじみ客がいるという。それほど、地元に愛されているのだ。
テーブルには、茨城県の醤油屋さんと作ったというオリジナルソースが。フルーティで、大山人気の揚げ物をさらにおいしくしてくれる。そういえば、ランチについてきた豚汁も、具がたっぷりで豚肉の味しっかりでものすごくおいしかった。生野菜の手作りドレッシングも然りだ。
リーズナブルでも手を抜かず、ひとつひとつ本気で作る。この春(2022年4月28日)、亀戸にオープンした新店『BUTCHER OHYAMA』のコンセプトは“老舗肉屋にしかできない本気の肉バル”。上野アメ横で人々を惹きつけてやまない肉の名店は、今流行りの隠れ家でもオシャレでもないけど、実にカッコイイ。そんな店だ。
取材・文・撮影=京澤洋子(アート・サプライ)