東口を出るとムサコの新ランドマークが
2006年に地下化された、武蔵小山駅のエスカレーターを上る。東口に出ると、天をさす巨大なタワマンが見えた。東口再開発の象徴ともいえる、「パークシティ武蔵小山」だ。
「再開発事業の街区は高層住宅棟と低層の商業棟・住宅棟、広場で構成されています。マンションと同時に造られたのが、隣にある『ザ プラザ(広場)』。積極的に緑化を行うとともに、ベンチやイベントスペースを設け、街の活動・交流の拠点となっています。マンション3 階の『ザ テラス(屋上庭園)』からは、この広場を見渡せますよ。隣接するアーケード商店街の賑わいをさらに強化しましたね」と石川さん。その北東側には新築の「シティタワー武蔵小山」もあり、ムサコのマンション需要の高さが伺える。
いったん西口側へ方向転換し、ムサコ民憩いの場・林試の森公園へ。もとは国の林業試験場だったため、約12ヘクタールもの敷地内にさまざまな植物が見られ、自然豊か。広大な芝生広場や池もあり、散策路を人々が行き交う。園内を歩いていると、おばさんが「あら、マーブルちゃん久しぶり。元気?」と、おじさんの犬に話しかけている。ご近所さん同士なのだろうか。
物欲と食欲誘う、にぎやかアーケード
駅前に戻ったら、ムサコのシンボル・武蔵小山商店街パルムに突入。都内最長の全長800メートルを誇るアーケードには、衣料品店やドラッグストア、八百屋に本屋、100円ショップなどが並び、ここを歩けば日用品が大体そろう。
そのアーケードから20メートルほど歩いたところ、パルム一番通り沿いにあるパン屋さんが『セルオブレ』。店主の吉川さんは「おばあちゃんが買って、お孫さんと一緒に食べられるような味・価格帯のパンが理想。タワマンが増えましたけど、住んでいる人たちの下町っぽい雰囲気は変わらない気がします」。
『セルオブレ』からパルム一番通りを北東へ100メートルほど歩くと現れるのが「パークホームズ武蔵小山」。「武蔵小山駅徒歩3分という好立地に建つ、19階建ての中層レジデンスです。アーストーンのレンガ調タイルを使用し、落ち着きのあるモダンな印象を与えています。ガラスとメタルでシンボリックな演出を施したエントランスも特徴的です。1階から地下への吹き抜けに設けられた『サンクンガーデン』は、木端積みの石壁の表面を流れ落ちる滝が癒やしてくれる空間です。これに面して『洋』と『和』の2つのゲストルームが設けられ、親族や友人など大切なお客様も、癒やしの水景でおもてなしすることができます」。
「パークホームズ武蔵小山」の真ん前には、内装仕上げの施工会社が営む、壁紙の専門店『wall paper store あんの木』が。最近は、壁の一面を変えただけで部屋の雰囲気が変わるアクセントクロスのほか、リモートワークの背景、フリマサイトで出品する際の下敷きとしても、壁紙は人気なのだそう。スタッフの千葉麻記子さん曰く「ムサコは最近、子育て世代がすごく増えました。ケーキ屋さん・フルーツ屋さんなどおしゃれな店も続々オープンしていると感じています」。
再びパルムに戻り、買い物客の喧騒の中を歩く。時折、カレーやパンの香りが食欲を誘い、お腹がグ~ッ。アーケードが途切れるところまで来ると、レトロな茶色いマンションが見えた。
「『武蔵小山グランドハイツ』です。定期的に大規模修繕されており、築43年の古さを感じさせません。当時では珍しいスキップフロア(同じ空間の中に少し段差をつけたり、中二階を設ける手法)を採用し、縦方向に広がりのある空間を設けています。快適性を追求した、手が込んだ贅沢な設計ですね。広いルーフバルコニーを持つ住戸が多いことが特徴で、バルコニーから商店街へと道行く人に気軽に声を掛けられそうな雰囲気を感じます」。
すぐ北側にある「アデニウム武蔵小山」も個性的なマンションだ。特徴的な形状のバルコニーはスカイデッキと称され、上下左右を交互に設置。頭上に2層分の高い空間を得ることで、圧倒的な開放感と、そこだけがふわりと空に浮いたような感覚を味わうことができる。広い大空間のエントランスの向こう側にはパティオが広がり、憩いのスペースが設けられているほか、奥に丸い形状の建物「コミュニティプラザ」と呼ぶ集会場があり、コミュニティ作りにも配慮された設計だ。
銭湯にやきとり。帰り道が楽しいムサコLIFE
さらに南へ進み、大通りの中原街道を超えた先にあるのが「グリーンプリズムタワー」。こちらも外壁の淡い緑色が、個性を放つ。「下層階に通常の約3倍の高強度コンクリートと鉄筋を使用してるほか、柱と梁には高強度の太径鉄筋を使用し建物自体の強度を高めることで、上層階の負荷を軽減しました。この技術で、これまで不可能だと思われていた厚みを抑えた板状のタワーを実現しました。つまり、タワマンでありながら、全戸日当たりのいい南東向きという板状マンションの利点も取り入れているんです」。
お目当てのマンションを巡り終えたら、散歩の汗を流すため、『清水湯』でひとっ風呂。こちらは異なる地層から湧く黒湯と黄金の湯の2種の温泉を堪能できるとあり、オープンと同時に常連が一番風呂を求めてやってくる。空を見上げて浸かれる露天風呂は、品川区にいるとは思えないほど開放的!
湯上り後は、焼き鳥をテイクアウトできるほか、その場で立ち食い出来る『鳥勇 本店』へ。ステンレスの保温台には焼き鳥が並び、中央には「たれ」を入れたトレイが。客がこのたれに串をチャポンとつけて味変(あじへん)できるのがこの店の楽しいところ。おやつとして食べる子供、買い物の帰りに1本食べていく主婦、軽く一杯のおじさんと客層は幅広い。焼き台に立つムサコ生まれの篠塚雄一郎さん曰く「駅前が変わって、チェーン店も増えたけど、個人商店は健在。庶民的な雰囲気は変わらないですね」。
夜空に輪郭を主張するタワマンの光と、ぼんやりと灯りを点す赤提灯と——。高層マンションと下町商店街が絶妙に共存するムサコは、1日歩いただけで「楽しい暮らし」が想像できた。