意気盛んな文化人や学生たちの溜まり場『ロージナ茶房』【国立】
大正以降に学園都市として開発された国立駅周辺。『ロージナ茶房』創業時の1954年はまだ街の歴史が浅く、「新しいことを始めやすい土地だったはず」と初代マスター・伊藤接さんの娘、八尋さん。画家、ジャーナリストなど多彩な顔を持つ接さんはアジアやインド、中東、ヨーロッパを仕事で旅し、店を作る際にパリのカフェを参考にした。従来の喫茶店とは違うサロンの趣で、仲間の作家や芸術家、音楽家たちの行きつけとなった。地下のフロアを一橋大学のゼミに貸し、学生の論議が白熱したことも。彼らが食べた大盛りメニューは今も健在。
『ロージナ茶房』店舗詳細
心地よい音楽と店主の優しい笑顔が目当て『名曲喫茶でんえん』【国分寺】
2年後(2027年)にはいよいよ70周年。創業者の新井熙盛さん亡き後、店を営んできた妻の富美子さんは「あと1、2年で終わりたい」と言いながらも「みなさんが『続けてください』って言ってくれるから」と今もずっと店を開けている。店名は言わずもがな、ベートーヴェンの交響曲第六番「田園」から取ったが、「昔はこの辺も牧歌的な景色でした」。大正時代の米蔵を改装した店舗は石造りのおかげで音がよく広がり、柔らかく響く。注文後に作ってくれるミルクセーキはバニラの香りがふわり。卵黄のコクと甘さ控えめのサラッとした後味にホッと癒やされる。
『名曲喫茶でんえん』店舗詳細
古いテーブルをなで、アップルパイを頬張る『ガルリカフェ』【西国分寺】
銀座の「ガルリカフェ」(現・銀座みゆき館)から暖簾(のれん)分けされ、1996年、地元で開業した村越良二さん。経年変化で色褪せた内装など、店全体が味のある骨董品に思える。「自分が食べたいから」と大きめサイズに作ったアップルパイは、生地から手作りし、なんと折り込むのも手作業。注文を受けてから焼くので提供まで時間はかかるが、サクッとしたパイの食感や熱と共に伝わるリンゴの味わいがたまらない。事前に「焼いておいて」と電話をする常連もいるそうだが、オーブンから漂う香りにわくわくしながら待つひとときはほかの何にも代えがたい。
『ガルリカフェ』店舗詳細
コーヒーが香る空間でタイムスリップ気分『一六珈琲店』【立川】
2004年の創業にもかかわらず、その倍以上続く老舗のような雰囲気。「調べるのが好き」だという店主の田中誠一さんはインテリアの細部にまでこだわり、「昭和初期の喫茶店を調べて、それをイメージして店作りをしました」。自家焙煎のコーヒー豆は、少量ずつ作業できる小型の焙煎機を用いることで常時約20種類を用意。店内ではノリタケ社のポットで出してくれ、カップ一杯半ぐらい入っているので安心してゆっくりできるのがうれしい。お菓子も手作りで、たいやきのあんこも自家製。小豆らしさを生かしたつぶあんをココアを混ぜた生地で挟む。
『一六珈琲店』店舗詳細
取材・文=信藤舞子 撮影=佐藤侑治 井上洋平(ガルリカフェ)




