コーヒーハンターが厳選した珠玉の一杯を気軽に体験『ミカフェート アトレ吉祥寺店』【吉祥寺】
日本のコーヒー界の第一人者で「コーヒーハンター」の異名を取るJosé.(ホセ) 川島良彰さん率いる『ミカフェート』の実店舗のひとつ。吉祥寺の駅ビル1階東側、北口バスターミナルが目の前で家電量販店も目と鼻の先。
『ミカフェート』では焙煎豆の大半を、鮮度を保つ、特殊なハイバリアペットボトルやシャンパンボトルに封入している。農家との関係を築き、技術指導などをして完熟豆だけを丁寧に収穫して作った一品を、吉祥寺店では気軽に選べる。店内ではもちろん、熟練のスタッフによる抽出でおいしいコーヒーが味わえる。
店長の山口京子さん曰く、「周辺は住宅地で朝は年配の方、夕方は会社帰りの方など、常連さんが多くいらっしゃいます」。業界内では高品質で有名な『ミカフェート』だが、それを知らずに来る人もいて「こんなにおいしいコーヒーが!」と驚かれることもあるそうだ。筋金入りの農業技術指導者が世界の農家と作る「本当においしいコーヒー」。それを身近なものにする、貴重な一軒だ。
『ミカフェート アトレ吉祥寺店』店舗詳細
のんびり過ごしながらフレーバーの変化を楽しみたい『LIGHT UP COFFEE 吉祥寺店』【吉祥寺】
吉祥寺西公園の緑を前に扉が開け放たれて開放的。焙煎所を備えた三鷹店が2023年に開店したが、こぢんまりした吉祥寺店こそが1号店。常時5〜8種のシングルオリジンを置き、毎月数種、新豆に入れ替え。産地や品種ごとに異なる個性を引き出し、「日常になじむ明るい味を」と、マネージャーの後藤純菜さん。
浅煎りを基本に年間60〜90種を扱い、クリスマスにはベリーのような華やかさ、夏はフレッシュ感など、折々の味を求める人も少なくない。「最初は華やかな果実の香りで、冷めていくと甘さが出ます」とすすめられ、ハンドドリップコーヒーをのんびり味わうと、フレーバーがゆっくり表情を変える。
カウンターに並ぶ季節のスイーツも出番を待つ。なかでもカヌレは通年ある「吉祥寺店の定番」で、表面カリッ、中はしっとりもちもち。やさしい甘みが、浅煎りの軽やかなコーヒーとお互いの風味を引き立て合うよう。しかも、相乗効果でコーヒーの果実感がくっきり立ってくるから不思議だ。ゆるり、長居したくなる。
『LIGHT UP COFFEE 吉祥寺店』店舗詳細
毎日でも飲み飽きないすっきりした後味の一杯を『NORIZ COFFEE』【武蔵境】
カウンターに並ぶのはシングルオリジン5種に、ブレンド2種。「いつ来ても変わらず同じ味がある、安心感のある喫茶にしたくて」と、シンプルに揃えるのは店主の田中宣彦さんだ。
定休日に焙煎する豆は、開店当初こそ浅・中煎りだったが、「お客さんの要望で」中・深煎りのブレンドを用意したら、たちまち店の顔に。豆の量を多めに用いてハンドドリップした味は、甘みと深みがじんわり染み入るよう。だが、意外にも後味はすっきり。
この味に欠かせないのが、妻の遥さんが作るスイーツだ。エスプレッソキャラメルロールケーキは、たらりとかかるキャラメルシロップに加えたエチオピアとグアテマラの浅煎りエスプレッソが名脇役。「苦い後味が得意じゃなくて」と笑うが、きめ細かな舌触りとシンプルな甘みに、ほろ苦さがいいアクセント。「プリンと並ぶ2トップです」。また、エスプレッソ自体、砂糖なしで飲んでも苦味柔らかく、ラテにすればまろやかさに心とろける。遠方からこの店を目指す人がいるというのも納得だ。
『NORIZ COFFEE』店舗詳細
巨大な70kg釜を借景にした人気の猿田彦珈琲の焙煎拠点『猿田彦珈琲 調布焙煎ホール』【調布】
恵比寿の小さな本店で代表取締役の大塚朝之さんが始めた『猿田彦珈琲』。サードウェーブの流行を牽引し、名前はあっという間に全国に知れ渡った。その焙煎拠点兼カフェが、この調布焙煎ホール。
全国の店舗や取引先に送る豆を一手に焙煎するだけに、何より印象的なのはガラスの向こうの焙煎機。ローリング70kg釜を筆頭に大小4台を置く。スタッフの背丈をはるかに超える巨大な機械が動いているのに、来店客が気にも留めずに談笑しているのも面白い。こんな風景が日常だとは、何と贅沢なことか。巨大さゆえの苦労を聞くと、「大型車を慎重に運転している気分ですね。たくさん焼く分だけ、責任も大きくて」とのこと。
取材時に味わったのは、定番の猿田彦フレンチ。スペシャルティコーヒーの専門店で浅煎りかと思いきや、意外にも深め。広報の平岡佐智男さん曰く、「スペシャルティだからこそ出せる深煎りの味」を突き詰めたそう。幅広い客層に支持される店ゆえの、飽きのこない一杯だ。
『猿田彦珈琲 調布焙煎ホール』店舗詳細
コーヒーの未来も担うレジェンドの一翼『堀口珈琲 狛江店』【狛江】
店に入ると約20種の焙煎豆が出迎える。2週間ごとに3、4種入れ替わるシングルオリジンも充実するが、まず試したいのが1〜9までナンバリングされたブレンドだ。人気は7番。飲めば深煎りらしいコクと苦味、後から甘みが広がる。
「一年を通してブレンドの風味を維持するために、年間100種以上の豆を用いています」と、店長の佐藤雄太さん。『堀口珈琲』といえば、1990年代より生豆の産地や品質を重視し、コーヒー界を牽引してきたレジェンドのひとつ。狛江店は千歳船橋の世田谷店に次いで99年に開店、その後、生豆が到着する横浜港近くにロースタリーを移転させてリニューアル。2023年、“Comae Coffee Civic Center”をコンセプトに掲げ、コーヒーを学ぶ場にもなった。
また、抽出後に廃棄される粉や規格外の豆が内装に取り入れられた店内は丸みを帯び、日本空間デザイン賞「サステナブル空間賞」も受賞。奥に仙川の人気ベーカリー『AOSAN』も入居し、買ったパンをコーヒーとともに味わえるのもうれしい。
『堀口珈琲 狛江店』店舗詳細
古刹の隣の穏やかなカフェで親しみやすいスペシャルティを『CONZEN COFFEE(コンゼン コーヒー)』【町田】
意外な場所のスペシャルティコーヒー店は?と聞かれたら、緑豊かな丘陵地にあるここは筆頭。高台の森を背にした地域の名刹・簗田寺(りょうでんじ)に隣接し、ほぼ一体となって木々に囲まれている。
穏やかな笑みを浮かべてコーヒーを淹れるのは店主の小井土雄太さん。スペシャルティの名店や保育園での仕事を経たあとに、縁あってここにカフェを開いた。
「もとは副住職が地域に開かれたスペースとして作った部屋で、内装もカウンターもそのままです」
半プライベート空間だった場所だけに、寛ぎ感が素晴らしい。取材で来たのに早々に常連客との雑談に花が咲き、肝心な話はどこへやら……。そんな間も、小井土さんは静かに手を動かしてコーヒーを淹れている。
焙煎豆は親しみやすさ優先で、今はエチオピア、エルサルバドル、グアテマラの定番3種。「数年内に徐々に増やして、スペシャルティの魅力をいっそう地域の人に知ってもらいたい」とのこと。誰もがリラックスして楽しめる雰囲気抜群の郊外店だ。
『CONZEN COFFEE』店舗詳細
文=高橋敦史、林さゆり 撮影=高橋敦史、元家健吾
MOOK『散歩の達人 東京スペシャルティ珈琲時間』より