【肴も酒も旨い店】
ひっそりと構える、日本酒の楽園『きたぽん酒』[広尾]
壁一面の冷蔵庫と店内いたるところにぎっしりと並ぶ一升瓶が圧巻。500~600本近くあり、酒販店から「うちの在庫より多い」と言われたことも。気になる銘柄を集めるうちに増えてしまったという、店主の北尾秀仁さんは、「不老泉(ふろうせん)」を醸す『上原酒造』で少し手伝いをしていたこともあり、滋賀県のお酒も豊富だ。つまみはお得な御膳セットがどんな酒も受け止めてくれるが、こだわりの生ハムも必須。職人が仕上げるパルマプロシュートレガートの30カ月熟成で、とろける脂身のおいしさに悶絶(もんぜつ)する。
『きたぽん酒』店舗詳細
発酵のおもしろさに開眼せよ『醸造科 oryzae』[錦糸町]
「オリゼー」とは日本の国菌である「麹菌」のこと。店主の渡辺竜太郎さんは東京農大醸造科学科出身で、この店で発酵を探求するうちにその世界にハマっていったそう。発酵で旨味や塩味を凝縮させた食べ物にぴったりなのが燗酒。特にお気に入りの埼玉県・『神亀酒造』の「ひこ孫」は、料理の味を引き立て、温めることでお酒自体の味わいも増していく。発酵野菜や自家製納豆ラー油、タイの発酵料理のアレンジなど、ユニークで癖になるアテを合わせたら、食べて、酒を飲んで……のループが止まらなくなる。
『醸造科 oryzae』店舗詳細
自由な発想が導く、居心地のよさ『SUGAR Sake&Coffee』[阿佐ケ谷]
中華をメインに、和風、エスニック、イタリアンと幅広く興味をそそるメニューがずらり。「エスニック料理と燗酒は旨味を引き立て合うし、日本酒に合わない料理はないんですよ」と、店主の佐藤健一さん。確かに、豆鼓(トウチ)のコクのある深い甘みやココナツと春菊の苦みも燗酒と合う! 元々食べ歩きが大好きで、休日に足を運んだ居酒屋や中華料理店からメニューのヒントを得ることもあるそう。日本酒は佐藤さんがほれ込んだものが厳選され、愛情あふれるお酒の説明を聞くとお酒がよりおいしく感じる。
『SUGAR Sake&Coffee』店舗詳細
【お燗は万能】
囲炉裏とぬる燗でほかほかに『燗アガリ』[西武新宿]
「ろばた焼きには、お燗にすると旨味が膨らむお酒が合いますね」とは、3代目女将の安岡那海さん。看板酒は、ろばた発祥の地・宮城県の「天賞(てんしょう)」だ。ほかにも「丹澤山(たんざわさん)」、「玉川(たまがわ)」など燗上がりするものが主力だが冷酒も充実するので、ツウとビギナー両方のツボを押さえたセレクトだ。カウンターでは、巨大しゃもじで料理を渡してくれたり、お造り5点盛りがお通しだったり、うれしいサービスが満載。飲み放題付きコースもあるので、仲間と集まるときの候補にもしやすい。
『燗アガリ』店舗詳細
濃厚ソースにお燗、驚きの新方程式『SAKE Scene 〼福』[大門]
店のコンセプトは「日本酒を世界に」。店主の簗塲友何里(やなばゆかり)さんは、外国人客にも酒蔵のストーリーまで英語でしっかり説明できる、グローバルな日本酒の伝道師だ。「フレンチに負けない旨味と酸味のバランスがいい日本酒を選んでいます」と、簗塲さん。発酵フレンチの複雑で濃厚なソースは燗酒の掛け算で、芳醇な風味とコクが増幅し、口の中は幸せに包まれる。燗酒が世界に通用することを実感。
『SAKE Scene 〼福』店舗詳細
生ハムと合わせて知る燗酒の本領『カントニクス』[西荻窪]
大塚にある燗酒と生ハムの名店『29(ニッキュー)ロティ』などで経験を積んだ店主の渡辺良子さん。2018年の開店以来、燗酒とエアハム(極薄に切った生ハム)という組み合わせを世に広め続けている。「燗酒は食中酒としていろんな料理に合う、食いしん坊のお酒なんです」。生ハムの上質な脂が口の中でゆっくりほどけると、日本酒の濃厚な旨味がより際立つ。燗酒の魅力が最大限に引き出される瞬間を、体感できる。
2022年7月現在イタリアからの豚肉等の一時輸入停止措置により、生ハムの提供を一部規制中。注文に際しては、生ハムだけの注文は受け付けていないので、ご注意を。
『カントニクス』店舗詳細
/定休日:火/アクセス:JR中央線西荻窪駅から徒歩2分
創作モツ料理で燗酒が止まらない『モツ酒場 kogane』[外苑前]
系列店のイタリアンで腕を磨いたマネージャーの児玉順平さんは、モツ焼きなどの定番に加え、試行錯誤を重ねた創作モツ料理も生み出している。燗酒は温度管理を徹底し「最高のポテンシャル」を目指すのがモットーだ。モツはビールやサワーに合うイメージもあるが、キレのある燗酒は脂をスッキリ流してくれ、重たさも感じない。爽やかな味付けの料理も多く、ついつい燗をつける回数が増えてしまう。
『モツ酒場 kogane』店舗詳細
タイビールよりも、燗酒が合う? 『ラコタ』[吉祥寺]
「呑めるタイ料理屋」と、うたうだけあってタイビールなども豊富だが、こちらは燗酒も“呑める”店。グリーンカレーなどスパイスの効いた料理と燗酒を楽しめる。「タイの焼酎はお米が原料のものばかりです。だから、タイ料理と燗酒が合うのは当然なんです」と店主の三浦剛さん。燗酒のマイルドさは、辛み、酸味、甘みの詰まったタイ料理を見事にまとめあげ、さらに上質なつまみに変える。
『ラコタ』店舗詳細
出汁蕎麦&燗酒、“締め”の共演『81 NOODLE BAR』[吉祥寺]
昼は『麺ハチイチ』という、高校生も訪れる今風のラーメン屋だが、夜には大人なヌードルバーに変身する。「うちは蒸してお燗します。まろやかに仕上がるような気がしますね」と店主の東野さん。燗酒とつまみで体が温まったら、昼にはない出汁蕎麦がおすすめだ。小麦粉の香りをダイレクトに感じる細麺を追い鰹(がつお)して取られたスープと共にいただくと、ついつい締めのもう一杯を頼みたくなってしまう。
『81 NOODLE BAR』店舗詳細
燗酒との出合いで、西洋料理が覚醒『おーどぶるハウス』[町屋]
フランス料理を素地に持つ2代目店主・篠原立樹さんが振る舞う西洋料理には、ナチュラルワインも当然合う。だが、篠原さんが8年ほど前に目覚めたという燗酒も試してほしい。テリーヌの鶏肉、スープの魚介、オムライスの卵やバターなど、もともと旨味のある素材を、豊かなコクで包み込む純米酒の燗は、なるほど出合うべくして出合ったものと実感。圧倒的な旨味の融合をぜひ“体燗”してほしい。
『おーどぶるハウス』店舗詳細
【気軽に飲める店ならここ!】
オーナーは伝説の日本酒営業マン『つねまつ久蔵商店』[月島]
オープンは2016年。運営するのは『辰馬(たつうま)本家酒造』(兵庫県西宮市)の「白鹿(はくしか)」を全国の飲食店に売り込んできた常松治郎氏。飲食業界では“白鹿治郎”の愛称で親しまれている。調理も担当する店主の町田直也さんは言う。「日本酒の約3分の2は、常松の実家である島根の酒屋から仕入れます。メニューにない隠し酒を狙って来る常連さんも多いですね」
飲んでよし、食べてよし。月島の名所だ。
【この店で飲みたい】
「圧倒的にこれが人気ですね」と言いながら出してくれたのはレモンサワー 770円。焼酎の代わりにフローズン日本酒が入っているのだ。グラスの縁に塗ってある塩を舐めながら、チビチビ飲むのが“つねまつ流”。
『つねまつ久蔵商店』店舗詳細
倉庫をリノベした、アートな立ち飲み『桑原商店』[五反田]
もともとは酒屋の倉庫だった場所。それを改修してレトロと近未来が同居する立ち飲み屋に変貌させたのは4代目の桑原康介さん。「多様なネットワークを活かして倉庫を店舗にしたというプロセスと、万全のコロナ対策などが評価されて、2021年、グッドデザイン賞を受賞しました」
クリエイティブな日本酒のラインナップは常時200種類以上。さらに、新潟県の十日町(とおかまち)や宮城県の石巻に住むお母さんたちが作った素朴なフードも絶品なのです。
“アート”な日本酒が30㎖、140円から楽しめる。左からビートルズを聴かせて醸した「Beau Michelle(ボー・ミッシェル)」、「サンキュー」の思いを伝える「寒菊39(かんきくサンキュー)」、パイナップルを連想させる香りが特徴の「鈴正宗Happy」。
『桑原商店』店舗詳細
元クリーニング屋の、立ち飲み割烹『田っくん商店』[南阿佐ケ谷]
白衣にネクタイでキメているのは店主の畑琢也さん。驚くことに飲食店を始める前はほとんど料理したことがなかったそう。「料理はいろんなお店に赴いて覚えました。食中酒の日本酒をおいしく飲んでいただけるよう、料理にも力を入れています」
ほとんどのお客さんが注文するのも日本酒。どんな銘柄でも一律690円なので原価割れすることもあるが、全国から仕入れた日本酒をたくさん飲んでほしいという思いひとつで提供している。
どんな銘柄も120㎖、コップの表面ピタピタで690円。厳選した3本は、微発泡でメロンのような味わいの「廣戸川(ひろとがわ)」、最近の華やかなお酒のトレンドど真ん中だという「花陽浴(はなあび)」、蔵元がある岐阜県でも手に入らない希少な「射美(いび)」。
『田っくん商店』店舗詳細
日本酒で表現する“生ハムメロン”『SAKE BAR オトナリ』[牛込神楽坂]
お酒も料理も生産者とつながることに重きを置く。例えば「天狗舞」は、店長の松岡チハルさんが自ら石川県の蔵を訪れて、異なる磨きの酒米で造ったお酒をブレンドしたもの。
ペアリングの料理にも大いにこだわっている。生ハムは特注のスライサーで極薄にカットして、ふわっふわの食感を出す。勧められた「洒落衛門(しゃれえもん)」はメロンの香りが特徴なので、そう、これで“生ハムメロン”の完成である。
笑い声が絶えない空間で日本酒をいただく至福。左から杜氏(とうじ)の名を冠した「富久長(ふくちょう)美穂のお気に入り」600円、米のふくよかさを感じる「天狗舞」蔵出し生酒700円、メロンの香りが鼻口を刺激する「洒落衛門」700円。
『SAKE BAR オトナリ』店舗詳細
週末限定営業、お子さま連れ大歓迎『へなちょこ』[西荻窪]
金・土・日のみ営業という変則スタイル。日本酒に惚れ込んでいるオーナーの篠山可南子さん曰く「日々新しい日本酒を試し、お客様に合わせたお酒を提供できるよう、幅広いラインナップを用意しています」。
オーナー自身も育児中だが、週末ぐらいは外でお酒を飲みたい。従って、コンセプトは「お子さま連れ大歓迎の日本酒バー」。
ここで、パパと来店した元気な少年がリンゴジュースを飲み干すと、「『雪(ゆき)の茅舎(ぼうしゃ)』くださーい」。一同、大爆笑でした。
オーナーが絶賛、愛してやまないという2本をご紹介。「不老泉(ふろうせん)」の中でも香りにパンチがある3年熟成ものは燗がおすすめだとか。全国でも珍しい「十旭日(じゅうじあさひ)」の生酒も常備するようにしている。共に660円。
『へなちょこ』店舗詳細
大らかに気軽に、燗酒を楽しめる場所『純米酒 三品』[渋谷]
デザイン会社を経営している坂嵜(さかざき)透さんは、燗酒好きが高じて専門店を開いたという。
「歳を取るとのんびりと燗酒を飲む時間が落ち着くんですよ。燗の温度に関してはセオリーに従うのではなく、感覚的かつ大らかにやっています。お酒自体の力をもっと信じたいので」
最近は若いお客さんも増えてきた。ちなみに、店名は「成人男子が志すべき、道徳、功名、富貴という三つの品格」から取っている。
「庭のうぐいす」700円は優しいふくよかさがあって福岡では定番の1本、「開春西田」800円は燗酒初心者にも飲みやすいバランスの良さが特徴、「玉櫻(たまざくら)」850円は飲んでいて幸せな気分になるお酒だ。
『純米酒 三品』店舗詳細
発酵を経た芳醇(ほうじゅん)な味わいが融合『Minimal The Baking 代々木上原店』[代々木上原]
Bean to Barチョコレートの『Minimal』によるガトーショコラ専門店。ペアリングを通して新しいチョコレート文化を広めようと材料や製法の異なる6~7種を揃え、「日本酒もチョコレートも製造過程に“発酵”があるんです」と新政(あらまさ)酒造の純米酒をラインナップする。ガリッと焼き上げたハードな「ハイカカオ」に貴醸酒「陽乃鳥(ひのとり)」を合わせると、酒が生地に染み込んで米の旨味、落ち着いた吟醸香
がふわり。テリーヌのような生食感の「ナッティ」なら同じ酒でも明るく若々しい甘みが生じ、カカオ豆のナッツに似た風味が立つ。
洋菓子と合わせるならこれ!
『Minimal The Baking 代々木上原店』店舗詳細
【古酒を飲みたい】
古酒談義の熱気で満ちる1.5坪『熟成古酒処』[新橋]
古くは1971年に搾ったものから熟成古酒が約80種揃い、ボトルの購入はもちろん、角打ちで飲むこともできる(食事持ち込み自由)。30年前からこの世界を探求し続ける伊藤さんの知識は深く、その熱いトークを肴に一杯やるのが楽しい。おまかせ3種飲み比べセット1000円(各15㎖)など、熟成古酒入門に最適なセットも!
『熟成古酒処』店舗詳細
試飲を重ねてお気に入りの1本を『いにしえ酒店』[北品川]
「木戸泉(きどいずみ)」の1974~2016年までのビンテージ古酒「玉響(たまゆら)」や、『藤井酒造』の「龍勢(りゅうせい)」、『小澤酒造』の「蔵守(くらもり)」など8蔵の日本酒の古酒・熟成酒が揃う。その多様性を知ってもらおうと、すべての酒が有料で試飲可能! 「まずはほどよいクセ、熟味のある『木戸泉』秘蔵古酒十年熟成を試して、自分の好みを探ってほしい」と薬師さん。
『いにしえ酒店』店舗詳細
発酵熱のように心がじんわり温まる『玉箒』[新橋]
中川さんが個人的にエイジングしたお酒をはじめ、幅広い熟成古酒を楽しめる。マディラなど海外の熟成酒と日本酒の古酒を、輪唱のようにループで飲んで余韻の重なりを楽しんだり、旨味ののった熟成古酒にあえてあっさり味の酒肴を提案したり。中川さんの穏やかな語り口にひかれ、いつの間にか古酒の深淵なる世界にどっぷり。
『玉箒』店舗詳細
取材・文=井島加恵、半澤則吉、石原たきび、信藤舞子、鈴木健太 撮影=加藤熊三、丸毛透、逢坂聡、山出高士