『横丁の戦後史』
横丁に生きた人々の記憶を紐解く
神田小路、立石の呑んべ横丁、野毛のハーモニカ横丁、浅草の焼肉横丁……。戦後、人々と街に活気を与えてきた日本の横丁文化。しかしその多くは、東京五輪の開催に際した再開発で絶滅の危機に瀕(ひん)している上、じつは成立過程が極めて曖昧で、あまり記録に残されていない。本書は著者がさまざまな横丁に足しげく通い、往時を知る人から聞き込みを重ね、まさに「足で稼いだ」横丁の歴史を掘り起こした一冊である。
「昭和の時代を生きた人の生き生きとした話は歴史を動かす大事件ではないが、一シーンには違いない」。そんな著者の思いと共に綴(つづ)られる往時のエピソードの数々だが、なにも人情味あふれる美談や、まして後ろ暗い物語性をはらむものばかりではない。街の印象を決めつけず、他人の生活を見世物のように消費しないこと。「見ることの暴力性」としてこれらを指摘する著者のまなざしが、戦後の混沌のなかに生まれた横丁文化を丁寧に紐解く。
横丁を形作ったのは、店のママから、テキヤと呼ばれる露天商、外国人などさまざま。彼らに話を聞きながら、路地から路地へ渡り歩くさまを著者はロールプレイングゲームに例えたが、読者にとっても心地良い追体験が味わえる。そして最後は「若者たちの横丁」として、若者の居酒屋離れと呼ばれて久しい現状を正確に捉えながらも、盛り場はなくならないと希望をもって締めくくられる。理想の再開発を語る著者の"妄想"も、本当にそうあってほしいと願うアイデアばかり。コロナ禍、密な横丁の飲み屋が恋しくなった。(吉岡)
『江戸の名所を巡る 北斎さんぽ』
『富嶽三十六景』をはじめ、北斎が描いた作品を手がかりに、日本橋、浅草、神田、上野など、都内各地を訪ね歩く東京散歩本。生涯で93回引っ越ししたという北斎が住んだのは、本所や浅草など隅田川沿いがほとんど。北斎が愛した江戸への思いも垣間見える。「北斎漫画」などにも言及し、北斎入門書としても好適。(土屋)
『ソウル25区=東京23区 似ている区を擬えることで土地柄を徹底的に理解する』
ソウルと東京の類似性をさまざまな角度から比較分析した大作。鍾路区(チョンノグ)=千代田区のように、特別区ごとにその特徴や街並みを並べて紹介している。ソウルの土地勘がなくても、たくさんの写真から高層ビル群、市場と街の雰囲気がわかり楽しめる。野球チームや郷土料理事情などに着目したコラムも興味深い。(町田)
『続 大東京 のらりくらりバス遊覧』
路線バス旅エッセイの続編。バスは鉄道以上に人々の生活に密着している場所を走っているからこそ、街の生き生きした姿に出合える。何よりバス停名を見るだけでも楽しい。なじみのない街でバスに乗るのは、ためらう事があったけど、そういう時こそあえてバスに飛び乗って、当てもなしに散歩するのも素敵かも。(高橋)
『散歩の達人』2021年4月号より