ノウハウを活かして一から作り上げた店
神田駅から徒歩2分。『高山珈琲』は、中央通りと靖国通りが交差する、交差点近くの裏路地でひっそりと営業している。たっぷりの緑に覆われた外観が目印だ。店内に足を踏み入れると、手前にテーブル席、奥にカウンター席とテーブル席が続く。日中に訪れても外からの明かりがうっすらと入る程度のほの暗さと、その空間を静かに流れるジャズが大人の雰囲気を醸している。カウンター越しに、店主の高山正秀さんが迎えてくれた。
1994年からこの場所で営業を続ける高山さんは、それ以前にも複数の喫茶店の立ち上げに携わってきた。そのノウハウを武器に、この物件との出合いがきっかけとなり、独立を決意。
高山さんの喫茶店開業ノウハウは、店内デザインにまで及ぶ。この店の内装も、デザインからリノベーションまで、すべて高山さんが手掛けた。テーブルやイスはヨーロッパのアンティークで、どれも100年以上の歴史を持つものばかり。壁のあちこちに飾られているパリの街角を切り取ったモノクロ写真は、高山さんが若い頃に趣味で集めたものだという。創業以来まったく手を加えず、そのままの状態を維持し続ける店内に、この店を数十年ぶりに訪れるお客さんが懐かしむこともしばしば。
2階は貸切席となっており、8人掛けの席が用意されている(要予約・貸切料金)。会議や大人数での茶会の席などに、よく使われているようだ。
細部にまでこだわり抜いたコーヒーメニュー
ドリンクメニューは、ブレンドやストレート、アレンジコーヒーをはじめ、紅茶やソフトドリンクまで幅広くそろう。中でも、この店の定番はブレンドのプラージュとメールだ。プラージュは、フレンチローストに仕上げた4種の豆を絶妙なバランスで配合し、マイルドさを強調した味わいが特徴。対してメールは、最も焙煎度合いが高いとされるイタリアンローストと、フレンチローストに仕上げた豆4種をブレンドし、深くコクのある味わいを追求した。メニューには、どの豆を何%の割合で使用しているかまで、細かく記載されている。今回は、焙煎度合いの異なる豆を使用した珍しいブレンドのメールをいただいた。
コーヒーに使う豆は、2~3年乾燥・熟成させたオールドビーンズ。豆の中に含まれる水分量によって煎り具合が変わるため、均一に煎るためにはオールドビーンズが最適だという。美味しいコーヒーを提供するためのこだわりは、淹れ方にも。抽出に使用するのは、高山さんお手製のネル。ブレンドとストレートによって、異なるサイズのネルを使用する。その理由を高山さんは、このように話す。
「小さいネルは、ストレートをお出しする際に使う一杯分用です。ブレンドを淹れる際は、配合の味わいをしっかりと表すために、一度に100gの豆を使用するので、大きいサイズのネルを使います」
お湯の温度も大切なポイントで、メールは87℃、プラージュは90℃と、それぞれの甘みが最もよく引き出される温度で抽出を行う。一つ一つ細部までこだわり抜かれ、丁寧に淹れられたメールは、苦みのあとに甘みが追いかけてくるようなコク深い味わいが印象的だった。
コーヒーのお供にぴったりなフードメニューも充実している。トーストやサンドイッチはランチにもちょうどいいボリュームで、サービスにりんごジュースが付いてくるのもうれしい。ケーキ類も、すべて高山さんの手作りだ。
人気ナンバーワンのシナモン・トーストは、コーヒーとの相性も◎。贅沢に生クリームをつけて頬張れば、至福の時間が訪れる。
物腰柔らかな高山さんを慕って、コロナ禍でも多くのお客さんが入れ替わり立ち替わりこの店を訪れる。時を重ねて深みを増していくお店と高山さんの姿に、リンクするものを見るような気がした。
『高山珈琲』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英