佃堀の水面に映る小船とタワマン
地下鉄月島駅6番出口を出て北西に進むと、佃の長屋群が見えてくる。井戸が残る路地を抜けると佃堀が広がり、凪(な)いだ水面に小船が浮かんでいた。
「江戸時代、徳川家康が当時食糧難だった江戸で漁業に目を付け、本能寺の変から逃げる際に助けてくれた大阪の摂津佃村の漁師を江戸に招きました。それが地名の由来とされています」と石川さん。佃堀には朱色の佃橋がかかり、その向こうに高層マンション群が天を差している。
「30年ほど前に大川端リバーシティ21という大規模再開発が始まり、ウォーターフロントに高層の分譲・賃貸マンションが続々と建てられました。東京湾岸エリアのタワマンブームの先駆けですね」。
「センチュリーパークタワー」からは踵(きびす)を返し、川沿いを歩く。ジョギングやウォーキングをする人も多く「こんな気持ちいい道があったら、毎日走りたくなるだろうな」と想像する。石川島灯台跡から再び陸側に入ると、佃煮屋の並ぶ路地が。甘辛い醤油の匂いに誘われ、『佃源田中屋』へ。
「うちは代々継ぎ足しの、やや甘めのたれで煮込んでいます。今もタッパーを持ってきて『これに入れて』という下町の常連さんもいますし、高層マンションに住んでる方も気軽に買いに来られますよ」とベテラン店員さん。
佃大橋通りを超えると醤油からソースの香りに?
『佃源田中屋』から1分ほど歩くと、角にあるのが『漆芸中島』。11代目の中島泰英さんは、15歳から築地の漆器問屋へ丁稚奉公に出ており、漆器に携わって60年近く!
「私なんかは、たぶん“小僧”を経験した最後の世代じゃないかな。うちの八角箸は手に馴染みがいいでしょ? いいものはスッと手に馴染むんですよ」
佃や月島の産土神(うぶすながみ)として信仰される住吉大社を参拝し、細い路地を抜けると、その先にスラリとしたマンションが。「こちらは、下町における環境共生を目指したオール電化の『ライオンズタワー月島』です。長屋群のあった場所に建てられており、かつて存在した路地を敷地内に再生しています」と石川さん。
佃大橋通りを超えると、月島エリアに突入。まずは高さ187mの「キャピタルゲートプレイス」が目に飛び込んでくる。石川さんいわく「月島で一番高い、53階建てです。敷地内のエレベーターは月島駅コンコースに直結しており、地下鉄大江戸線や有楽町線を利用しやすい。駅から銀座一丁目までは4分、六本木までは16分ほどでアクセスできますよ」。
「キャピタルゲートプレイス」の隣には同じく高層マンションの「アイ・マークタワー」が立つ。その北西側に接する通りが、有名な月島もんじゃストリートだ。通り周辺には80軒近くのもんじゃ屋があり、たぶん世界最高の“もんじゃ屋密度”。新しく整備された通りは、地元っ子や観光客がたくさん往来し、界隈で一番のにぎわいをみせる。
でも、同ストリートの左右に無数に延びる路地に入ると、しっとりとした雰囲気に。鉢植えや洗濯物が絵になる路地に、あえて迷い込むのも楽しい。
もんじゃストリートに隣接する「ミッドタワーグランド」で見つけたのは、路地裏の店舗から移転した老舗『ふるさと』。ここでハンバーガーにかぶりつくというのも、この街の味わい方のひとつだ。
若手店主による新たな飲み助憩いの場も
「もんじゃストリートの一番南側に立つのが、中層マンションの『THEパームス月島ルナガーデン』です。共用部にたくさんの竹を配し、和モダンなデザインで統一されています」と石川さん。エントランスを見ると、確かに、竹や白玉砂利で演出され、凛とした雰囲気だ。
一方、もんじゃストリートから250mほど離れた隅田川沿いの「Brillia WELLITH 月島」は、マンションから望む風景が魅力。
「各部屋の天井高は2550mmと余裕があり(一般的なマンションは2400mmほど)、開口部も広いため、窓いっぱいに隅田川の景色が眺望できますよ」。
佃・月島の路地を探訪していると、いつの間にか夕間暮れ。もんじゃのイメージが強いエリアだけど、実はいい酒場がじんわりと増加中なのだ。
「そのとき旬の食材、貴重な食材を使いたいので、豊洲市場に通いやすい月島で店を開くことにしたんです」と、2019年に立ち飲み店の『さか月』を開店した坂下俊さん。最初の一皿は、菜の花のジュレに鯛のこぶ締めをのせ、金柑味噌を添えたもの。舌で春を謳歌させる味わいに、グッと心をつかまれる。
「月島で2019年にオープンした『BAR 新井建具店』は本当に素晴らしいカクテルを出されてますし、佃には2020年開店の人気店『ategatte(あてがって)』もある。これからもどんどん新たな店が増えてくると思いますよ」。
こんないい住環境で、いい酒場もある。ズルイゾ、月島人&佃人。
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取材・文・撮影=鈴木健太 イラスト=さとうみゆき