2013年3月 「銀座シネパトス」

三原橋地下街にあったマニアックな劇場

銀座晴海通りの地下に存在した「銀座シネパトス」が、老朽化と耐震強度の問題で3月に閉館、その後取り壊された。60年代後半、川を埋め立ててできた地下街に2つの映画館ができ、その後「銀座シネパトス」となった。銀座のど真ん中にありながら、どこか場末感、昭和感を感じさせる独特の佇まいで、ラインナップも個性的。B級アクション映画からピンク映画まで上映するマニアックな劇場として存在感を放っていた。最後の上映作品は、この劇場をテーマにし、ここでオールロケした『インターミッション』で、多くのファンが集まった。

この劇場のまわりは、1952(昭和27)年完成の三原橋地下街。東京でも最古の地下街の一つで、昔の日本映画に出てきそうな雰囲気があり、古い食堂や居酒屋、喫茶店などが残っていた。現在は、建物は解体、地下も埋められベンチのある小さな広場となって、かつての面影は全く無くなってしまった。

2013年3月 「同潤会上野下アパート」

最後の同潤会アパート

地下鉄銀座線稲荷町駅近くにあった「同潤会上野下アパート」。84年の歴史を刻んだ歴史的建造物が、3月に姿を消した。1929(昭和4)年に竣工され、鉄筋コンクリート4階建ての2棟、76部屋でレトロ感があり、同潤会アパートの中で最後まで残っていたアパートだった。一時は16か所に同潤会アパートがあったが、これで全て消滅。「代官山アパート」はその後『代官山アドレス』に、「青山アパート」は『表参道ヒルズ』に生まれ変わったが、『表参道ヒルズ』には一部同潤会アパートが再現されている。

2013年5月 「ホテル西洋銀座」

「テアトルシネマ」「ル・テアトル銀座」を擁したホテル

1987年開業の「ホテル西洋銀座」。セゾングループの経営悪化から東京テアトルに移り、さらに社内の事情で5月に全館閉館、そして取り壊された。規模は小さいが、品のある綺麗なラグジュアリーホテルで、懐石料理店「吉兆」などが入っていた。館内の映画館「テアトルシネマ」と劇場「ル・テアトル銀座」も同時に閉館。「テアトルシネマ」は、芸術的なヨーロッパ映画を得意としていた。「ル・テアトル銀座」も、美輪明宏や黒柳徹子の公演が行われるなど大人の劇場だった。そもそもこの場所にはそれ以前「テアトル東京」という巨大な映画館があり、シネラマの大画面と1000人以上の客席で、『ベン・ハー』『スター・ウォーズ』などの超大作を大型スクリーンで観られる大劇場だった。私も50年以上前、1200円の大枚をはたいて『2001年宇宙の旅』をここの指定席で観て、さっぱり分からないながらも圧倒された事が思い出される。現在は、「コナミクリエイティブセンター」というビルになり、eスポーツの拠点として、スタジオ、スクール、ショールームが入っている。

2013年6月 「松坂屋銀座店」

三越、松屋と並ぶ、銀座の老舗デパート

1924(大正13)年開店、銀座最古参の百貨店だったが、建物の老朽化のため88年の歴史を閉じた。三越、松屋と並ぶ、銀座の老舗らしい大人のデパートだったが、2010年にはラオックスやフォーエバー21なども出店し、客層を広げていた。屋上の小さな遊園地も懐かしい。2017年、『GINZA SIX』として生まれ変わって、新たな銀座のランドマークとなっている。

2013年8月 神保町「小学館ビル」

ゆかりの漫画家が描いた直筆の落書きも

1967(昭和42)年完成の「小学館ビル」が新社屋建設のため取り壊された。閉館前には、1階のロビーに漫画家25人の描いた落書きが公開され、多くのコミックファンが集まった。浦沢直樹、藤子不二雄A,島本和彦など、小学館にゆかりの漫画家の直筆だけに、実に壮観だった。外の道路側からも見ることができ、限定でロビーに入れるサービスもあった。特に『YAWARA』や『20世紀少年』の浦沢直樹が描いた『サイボーグ009』は貴重で人気を集めていた。

2013年9月 渋谷「たばこと塩の博物館」

見ごたえある展示の穴場スポット

渋谷、公園通りの東武ホテルの前にひっそりたたずんでいた小さな博物館「たばこと塩の博物館」が、老朽化と移転のため、35年の歴史に幕を下ろした。若者でにぎわう公園通りで、やや地味だが穴場のスポットだった。入場料1000円で展示も充実。世界のたばこや喫煙具、世界の岩塩などが展示され、浮世絵コレクションも人気があった。江戸時代から昭和の風景を再現したりと、楽しく見応えがあった。渋谷閉館後、墨田区横川に移転、2015年に再オープンした。

日々、街の表情が大きく変化する東京。2006年、私はふと思い立って、消えていく風景を写真に納めることにしました。「消えたものはもう戻らない。みんながこれを見て懐かしく感じてくれたらうれしいな」とそれぐらいの気持ちで始めた趣味でした。そんな、東京から消えていった風景を集めた短期連載「東京さよならアルバム」。今回はその第六弾として、2010年に消えていった風景を紹介します。 写真・文=齋藤 薫
日々、街の表情が大きく変化する東京。2006年、私はふと思い立って、消えていく風景を写真に納めることにしました。「消えたものはもう戻らない。みんながこれを見て懐かしく感じてくれたらうれしいな」とそれぐらいの気持ちで始めた趣味でした。そんな、東京から消えていった風景を集めた短期連載「東京さよならアルバム」。今回は第7弾として、2011~2013年に消えていった風景を紹介します。写真・文=齋藤 薫