スパイスを軸に、ジャンルを飛び越える酒場
柏駅西口からバス通りを豊四季方面に歩くこと7分。国道6号を渡るには、横断歩道よりチューブ型の地下道を通る方がワクワクする。柏の繁華街は東口がメインだが、歩いてみると西口にもうまい店の匂いが漂っている。
筆者の鼻をくすぐったのは、1杯飲みながらひとひねりある料理を楽しめる『酒場食堂 マタタビ』だ。
料理の軸になっているのはスパイスだが、いわゆる専門店ではない。エスニックや中華はもちろん、ショウガやニンニク、ユズといった日本の薬味もスパイスのひとつと捉え、酒場料理に取り入れている。
「日本の酒場をベースに、スパイスを通してジャンルレスな料理を出しています」。そう語るのは、オーナーの勝田隆介さん。
その言葉どおり、メニューを眺めていると、ひとつの国や料理ジャンルには収まりきらない自由さがある。
スパイスと聞くと刺激の強い味を想像するが、ここではスパイスそのものを強く主張させるというより、料理の香りや味わいを膨らませる存在。「酒と料理のペアリングも楽しんでもらえたら」と勝田さん。
割烹、商社、キッチンカー。経験が“がっちゃんこ”して生まれた店
『マタタビ』の自由な料理には、勝田さんが歩んできた道のりが映し出されている。
実家は千葉県成田市で古くから続く割烹料理店。勝田さん自身もそこで働いた経験を持つが、大学卒業後はすぐ料理一本の道へ進んだわけではない。スーパー関連の商社に約2年間勤め、食品の流通にも携わった。
その後始めたのがキッチンカーだ。スパイスをたっぷり使ったチキンオーバーライスを中心に、約3年営業。「いつか自分の店を持ちたい」という思いを抱きながら、飲み歩きも好きだった勝田さんは、居酒屋という形にも惹かれていった。
そこで、キッチンカーで培ったスパイス料理と、大好きな居酒屋を組み合わせた。
割烹料理を身近に見て育った経験、食品流通の仕事、キッチンカー、そして酒場好き。「いろいろなものが、がっちゃんこした感じです」と勝田さんは笑う。
現在は、勝田さんのお父様が実家の割烹を守っているが、いつか『マタタビ』で得たものを家業にもつなげたいという思いもある。「昔と同じ形のままでは店を長く続けていくのは難しい」と、勝田さん。ここで新しい方向性をつかみながら、自分の好きなものを形にし、料理人として新たな可能性を探っている。
キッチンカーの味を酒場仕様に。背徳のフライドチキン南蛮で乾杯
酒を片手に『マタタビ』らしい料理を味わうなら、背徳のフライドチキン南蛮800円は外せない。
原点にあるのは、キッチンカー時代からあるチキンオーバーライスだ。鶏モモ肉だけでなく、衣やソースにもそれぞれスパイスを使い、より酒場の1品へと発展させた。
オーダーした背徳のフライドチキン南蛮と、今日のフルーツサワー750円がテーブルに並べられ、さあ、実食だ。
口に入れた瞬間感じたのはパプリカパウダーの香り。鮮やかな色でも辛味はなく、食欲をそそる香りと、奥深いスパイスの味わいが広がる。カリッとした衣にジューシーな肉汁や、甘酸っぱいソースの後ろから、ほどよくスパイスが追いかけてくる。これならスパイス料理になじみがない人にも食べやすそうだ。
背徳のフライドチキン南蛮に合わせたのは、甘酸っぱいキウイのフルーツサワー。角切りにした冷凍キウイにシークワサーのシロップを加え、甘さと風味をプラスしている。キウイは氷がわりでもあり、サワーに風味を添え、そのまま食べればデザートにもなる。果実の爽やかな味わいが、コクのあるチキン南蛮を軽やかに受け止めてくれる。
おっと、甘酸っぱくて飲みやすいフルーツサワーだけど、飲み切る頃には目元がポワンと温かくなってきた。この店ならではのジャンルにとらわれない料理。そんな1皿と1杯を楽しみながら、今夜はゆっくり腰を落ち着けて飲みたい。
さあ、次のオーダーは何にしようかな。
取材・文・撮影=パンチ広沢






