スパイスを軸に、ジャンルを飛び越える酒場

柏駅西口からバス通りを豊四季方面に歩くこと7分。国道6号を渡るには、横断歩道よりチューブ型の地下道を通る方がワクワクする。柏の繁華街は東口がメインだが、歩いてみると西口にもうまい店の匂いが漂っている。

筆者の鼻をくすぐったのは、1杯飲みながらひとひねりある料理を楽しめる『酒場食堂 マタタビ』だ。

写真提供:『酒場食堂 マタタビ』 “天”のネオンサインが点る。ガラス張りで通りから店の様子がよく見える。
写真提供:『酒場食堂 マタタビ』 “天”のネオンサインが点る。ガラス張りで通りから店の様子がよく見える。

料理の軸になっているのはスパイスだが、いわゆる専門店ではない。エスニックや中華はもちろん、ショウガやニンニク、ユズといった日本の薬味もスパイスのひとつと捉え、酒場料理に取り入れている。

ラーメン店だった店舗を改装。シンプルで洗練された空間だが、常連は20〜70代まで幅広い。
ラーメン店だった店舗を改装。シンプルで洗練された空間だが、常連は20〜70代まで幅広い。

「日本の酒場をベースに、スパイスを通してジャンルレスな料理を出しています」。そう語るのは、オーナーの勝田隆介さん。

その言葉どおり、メニューを眺めていると、ひとつの国や料理ジャンルには収まりきらない自由さがある。

左がオーナーの勝田隆介さん、右が店長の佐藤祐己さん。ともにキッチンカーで活動してきた同志だ。
左がオーナーの勝田隆介さん、右が店長の佐藤祐己さん。ともにキッチンカーで活動してきた同志だ。

スパイスと聞くと刺激の強い味を想像するが、ここではスパイスそのものを強く主張させるというより、料理の香りや味わいを膨らませる存在。「酒と料理のペアリングも楽しんでもらえたら」と勝田さん。

割烹、商社、キッチンカー。経験が“がっちゃんこ”して生まれた店

『マタタビ』の自由な料理には、勝田さんが歩んできた道のりが映し出されている。

実家は千葉県成田市で古くから続く割烹料理店。勝田さん自身もそこで働いた経験を持つが、大学卒業後はすぐ料理一本の道へ進んだわけではない。スーパー関連の商社に約2年間勤め、食品の流通にも携わった。

アメリカで食べたチキンオーバーライスのおいしさに惹かれたことが、キッチンカーを始めるきっかけになったという。
アメリカで食べたチキンオーバーライスのおいしさに惹かれたことが、キッチンカーを始めるきっかけになったという。

その後始めたのがキッチンカーだ。スパイスをたっぷり使ったチキンオーバーライスを中心に、約3年営業。「いつか自分の店を持ちたい」という思いを抱きながら、飲み歩きも好きだった勝田さんは、居酒屋という形にも惹かれていった。

そこで、キッチンカーで培ったスパイス料理と、大好きな居酒屋を組み合わせた。

写真提供:『酒場食堂 マタタビ』 今も店の軸となっている名物のチキンオーバーライス900円(ハーフサイズ600円)。
写真提供:『酒場食堂 マタタビ』 今も店の軸となっている名物のチキンオーバーライス900円(ハーフサイズ600円)。

割烹料理を身近に見て育った経験、食品流通の仕事、キッチンカー、そして酒場好き。「いろいろなものが、がっちゃんこした感じです」と勝田さんは笑う。

写真提供:『酒場食堂 マタタビ』 その日のおすすめを5品盛り付けたマタタビの肴盛り1550円は、ほとんどの客が選ぶ。
写真提供:『酒場食堂 マタタビ』 その日のおすすめを5品盛り付けたマタタビの肴盛り1550円は、ほとんどの客が選ぶ。

現在は、勝田さんのお父様が実家の割烹を守っているが、いつか『マタタビ』で得たものを家業にもつなげたいという思いもある。「昔と同じ形のままでは店を長く続けていくのは難しい」と、勝田さん。ここで新しい方向性をつかみながら、自分の好きなものを形にし、料理人として新たな可能性を探っている。

手に入りにくいレアものも含む焼酎は常時約10本あり、それぞれ1杯600円前後。
手に入りにくいレアものも含む焼酎は常時約10本あり、それぞれ1杯600円前後。
地域限定の缶ビール600円もオススメ。写真は北海道限定販売のサッポロクラシックの数量限定ビールだ。
地域限定の缶ビール600円もオススメ。写真は北海道限定販売のサッポロクラシックの数量限定ビールだ。

キッチンカーの味を酒場仕様に。背徳のフライドチキン南蛮で乾杯

酒を片手に『マタタビ』らしい料理を味わうなら、背徳のフライドチキン南蛮800円は外せない。

原点にあるのは、キッチンカー時代からあるチキンオーバーライスだ。鶏モモ肉だけでなく、衣やソースにもそれぞれスパイスを使い、より酒場の1品へと発展させた。

衣には米粉や炭酸水を使い、カリッと軽い食感に仕上げている。
衣には米粉や炭酸水を使い、カリッと軽い食感に仕上げている。
しば漬けを刻んでマヨネーズなどと混ぜたしば漬けタルタルが、甘酸っぱく香りもさわやか。
しば漬けを刻んでマヨネーズなどと混ぜたしば漬けタルタルが、甘酸っぱく香りもさわやか。

オーダーした背徳のフライドチキン南蛮と、今日のフルーツサワー750円がテーブルに並べられ、さあ、実食だ。

とにかくカラフルなひと皿。ピンク色の見た目にドギマギしちゃう。
とにかくカラフルなひと皿。ピンク色の見た目にドギマギしちゃう。

口に入れた瞬間感じたのはパプリカパウダーの香り。鮮やかな色でも辛味はなく、食欲をそそる香りと、奥深いスパイスの味わいが広がる。カリッとした衣にジューシーな肉汁や、甘酸っぱいソースの後ろから、ほどよくスパイスが追いかけてくる。これならスパイス料理になじみがない人にも食べやすそうだ。

季節の果物が味わえる、今日のフルーツサワー。この日はキウイのサワーだった。
季節の果物が味わえる、今日のフルーツサワー。この日はキウイのサワーだった。

背徳のフライドチキン南蛮に合わせたのは、甘酸っぱいキウイのフルーツサワー。角切りにした冷凍キウイにシークワサーのシロップを加え、甘さと風味をプラスしている。キウイは氷がわりでもあり、サワーに風味を添え、そのまま食べればデザートにもなる。果実の爽やかな味わいが、コクのあるチキン南蛮を軽やかに受け止めてくれる。

おっと、甘酸っぱくて飲みやすいフルーツサワーだけど、飲み切る頃には目元がポワンと温かくなってきた。この店ならではのジャンルにとらわれない料理。そんな1皿と1杯を楽しみながら、今夜はゆっくり腰を落ち着けて飲みたい。

さあ、次のオーダーは何にしようかな。

住所:千葉県柏市明原2-2-16 野口ビル1F/営業時間:17:00〜23:00(金は〜24:00。土は16:00〜24:00)/定休日:日/アクセス:JR常磐線・東武鉄道東武アーバンパークライン柏駅から徒歩7分

 取材・文・撮影=パンチ広沢