おタワーさまよりおツリーさまのほうが見ている

右を見て左を見て「よし、だれも見ていない」と思ったら大間違いだ。お天道さまが見ている。だから悪いことはできない。日が落ちたあとも「お月さまが見ている」と言ったりする。昔から太陽や月はそうやって、神さまとして交代制で私たちを見守り、戒めてきた。

だが、新月などの月のない夜はどうなんだろう。「お星さまが見ている」ではちょっと弱いし、都会の明るい夜空では星がほとんど見えない。この大問題を解決するために建設されたのが東京タワーであり、東京スカイツリーだった。

なわけないが、タワーやツリーの周辺を夜散歩していると、そう考えたくなるくらいあちこちでタワーやツリーにメッチャ見下ろされていることに気づく。実際、東京タワーの竣工以降、港区などで新月の夜の犯罪が激減したというし(ウソだが)、墨田区京島では「スカイツリーが見てますヨ」と書かれた貼り紙を見た(これはホント)。

タワーやツリーは神さまみたいなものだから、近くでガン見するのはよろしくない。神仏や貴人を御簾越しに見るように、池面に浮かぶ月を愛でるように「ちゃんと見ないで見る」のがいい。というわけで、10年ほど前に月刊『散歩の達人』で「東京タワーをちゃんと見ない系夜散歩」を提唱し、その後、この闇連載の初回でも「おタワーさまをちゃんと見ない系夜散歩」について書いた。

第一夜闇を歩く男、中野さんの連載が始まります。記念すべき第一夜のテーマは「東京タワー」。でも普通のタワーさんぽじゃありませんよ。

当時は正直、東京タワーのほうがスカイツリーより楽しめると思っていた。だが、ツリーは圧倒的に高く、しかも周りに高い建物が少ないから、見通しの利かないゴチャゴチャした街並みに入っても、ちょっとした隙間や建物の屋根の上から結構ツリーが現れる。だから、見られている感が東京タワーより強くてドキドキするし、周囲に川などの水面が豊富だから「逆さツリー」放題だし、下町風景とのコラボなど、東京タワーとは違う楽しみが結構あるのだ。

桜の樹の奥にはツリーが埋まっている! 墨田区立隅田公園。紅葉でもいけるだろう。
桜の樹の奥にはツリーが埋まっている! 墨田区立隅田公園。紅葉でもいけるだろう。

あちこちの隙間や水面におツリーさまが

スキマツリーはほんとうにそこらじゅうで楽しめる。江戸川区平井では、逆井の富士塚に登ったら頂上の石祠の小さな隙間からもツリーが見えていた。江東区平野では、墓地の卒塔婆と卒塔婆の隙間にもツリーが挟まっていた。

スキマツリー三様。左は江戸川区平井の逆井の富士塚から。真ん中は台東区花川戸。テトリスの長い棒みたいにツリーが空から下りてきて、ピッタリはまったと思われる。右は墨田区吾妻橋でうっかり脱出できなくなったツリー。
スキマツリー三様。左は江戸川区平井の逆井の富士塚から。真ん中は台東区花川戸。テトリスの長い棒みたいにツリーが空から下りてきて、ピッタリはまったと思われる。右は墨田区吾妻橋でうっかり脱出できなくなったツリー。

逆さツリーを愛でるには、JR平井駅で下車してふれあい橋の少し下流から旧中川を遡上し、江東新橋の先からは北十間川沿いを行くといい。そうすると水面がツリーに向かって一直線に続くことになり、しかも旧中川も北十間川も池のように水面が静かでツリーがきれいに映りまくり、ずっと逆さツリーを愛でながらツリーの足もとまで行ける。

水面が静かといえば墨田区立隅田公園のひょうたん池の逆さツリーもいいが、でも一番の逆さツリーは、意外にも水面がうるさめの隅田川のものだ。川面に浮かぶツリーを右岸から見ると、つねにクネクネと伸び縮みして、光る蛇という感じで見飽きない。

逆さツリーの一種、隅田川の蛇ツリー。動画の前半、半透明の大蛇の体内を赤い蛇がクネクネ通って吸収されると、カラフルな光のつぶつぶがどんどん昇っていくのがいい感じ。台東区花川戸。
逆さツリーの一種、隅田川の蛇ツリー。動画の前半、半透明の大蛇の体内を赤い蛇がクネクネ通って吸収されると、カラフルな光のつぶつぶがどんどん昇っていくのがいい感じ。台東区花川戸。

ビルのガラスなどに映る鏡ツリーも隅田川沿いがいい。アサヒグループ本社ビルを対岸のやや上流から見ると、ツリーの下半身が見事に映っている。ビルの反対側に回り込むと、今度は上半身が映っている。スーパードライホールにも、積み石みたいにカクカクしたツリーが映っていてちょっとおもしろい。

アサヒグループ本社ビルに下半身が大きく映った鏡ツリー。ビルに反射したツリーの光がさらに隅田川の川面に反射している。台東区花川戸。
アサヒグループ本社ビルに下半身が大きく映った鏡ツリー。ビルに反射したツリーの光がさらに隅田川の川面に反射している。台東区花川戸。

下町風景とのコラボで現れる異世界

向島エリアの下町風景とのコラボツリー。左は墨田区押上、木造モルタルの塔院の上に立つツリー。月もコラボ中。右は墨田区文花、狭小湿原となった空き地ををじっと見下ろすおツリーさま。逃走者をビームで攻撃しそう。
向島エリアの下町風景とのコラボツリー。左は墨田区押上、木造モルタルの塔院の上に立つツリー。月もコラボ中。右は墨田区文花、狭小湿原となった空き地ををじっと見下ろすおツリーさま。逃走者をビームで攻撃しそう。

向島エリアの下町風景とのコラボは、路地裏の闇とツリーの光の対比が強烈で、デッドテックなSF世界に迷い込んだ気分になる。中でも「スカイツリーからの緊急脱出用すべり台」と名づけた京島南公園とのコラボツリーは最高だ。もうちょっと待てば、奇妙な生命体が続々とツリーからすべって来そうでドキドキする。

スカイツリーからの緊急脱出用すべり台。墨田区の京島南公園。
スカイツリーからの緊急脱出用すべり台。墨田区の京島南公園。

ツリー独特のロケットみたいにスリムで円いシルエットも、タワーとは違うコラボを生み出す。「スカイツリーからの緊急脱出用すべり台」はツリーの発射台にも見えるし、ふれあい橋のアーチ越しにツリーを見ると、巨大な弓で天頂に向かってツリーの矢を放つところのようだ。

ライトアップされた浅草寺五重塔とのコラボも素晴らしい。西側から見ると、塔院の上に出たツリー上部の円い輪っかがグルングルンしているところが、並んだ五重塔の相輪と妙に似ていて、浅草寺の先っぽのひとつになりすましている感じなのだ。

浅草寺の先っぽになりすましツリー。台東区浅草。
浅草寺の先っぽになりすましツリー。台東区浅草。
雲の低い夜にツリーの近くで見上げると、遥か上空、てっぺんの光の周りに光環ができていて、天体感がスゴい。墨田区押上。
雲の低い夜にツリーの近くで見上げると、遥か上空、てっぺんの光の周りに光環ができていて、天体感がスゴい。墨田区押上。

天気が悪ければ近くで、良ければ超遠くから

ツリーを近くで見るなら天気の悪い夜がいい。雨の夜のおぼろツリーは幻影のようだし、雲が低い夜はツリーに雲が絡んで、間近で仰ぎ見るとてっぺんのベツレヘムの星みたいな光の周りに太陽や月と同じように光環ができたりして、天体感、おツリーさま感がますます高まる。

遠くで見るなら逆に、冬や雨上がりなどの空気の澄んだ夜がいい。ツリーはなにしろ高いので、山梨県の扇山やツリーから80km以上離れた箱根の外輪山のナイトハイクでも、山上からツリーの光が肉眼でメッチャはっきり見えた。ツリーもタワーもふつう0時消灯(違う日もある)だが、ツリーが先にフワーッと幻のように消え、少し遅れてタワーがパッといきなり消える。ツリーとタワーの消灯コラボの遠望は、まるで特別な天文現象を見るようでありながら、毎夜のように見ることができて楽しい。

スカイツリーから30km近く離れた多摩丘陵某所で見る、ツリーとタワーの消灯コラボ。偶然、走車燈もコラボした。ちょうど走車燈が消えるときに彼方でツリーがフェードアウトし、その2秒後にタワーがパッと消滅。
スカイツリーから30km近く離れた多摩丘陵某所で見る、ツリーとタワーの消灯コラボ。偶然、走車燈もコラボした。ちょうど走車燈が消えるときに彼方でツリーがフェードアウトし、その2秒後にタワーがパッと消滅。

東京スカイツリーは山形県からも見える可能性があるといわれるほど、広範囲でいろんなふうに拝める。だから、まだ見ぬ「おツリーさまをちゃんと見ない系名所」があちこちに潜んでいるに違いない。ツリーの股覗きの名所とかも見つけてみよう。

 

ではまた。闇の中で逢いましょう。

文・写真=中野 純

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