のん

俳優・アーティスト。音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。2022年には主演映画『さかなのこ』で、第46回日本アカデミー賞「優秀主演女優賞」を受賞。近年の主な出演作品に『幸せカナコの殺し屋生活』『新幹線大爆破』『MISS KING / ミス・キング』ほか。2026年7月期TVドラマ『Tokyo middle 30』に出演中。

Instagram:@non_kamo_ne

最新映画『平行と垂直』でのんさんが演じるのは、自閉スペクトラム症(ASD)の大貴(安田章大)を兄にもつ希。子どもの頃に母を亡くし、自分勝手な父は頼りにならず、二人の兄妹は支え合いながら生きてきた。

大人になった大貴は清掃の仕事に就いて一人暮らしをし、希はカウンセラーの仕事をしながら、大貴のサポートをしている。そんなある日、希が恋人からプロポーズをされたことで、二人に転機が訪れて——というストーリーだ。

本作は、山野海(うみ)さんのオリジナル脚本に安田さんが強く心を動かされ、旧知のプロデューサーにもちかけたことが始まり。企画に共鳴した小林聖太郎監督が加わり、ASD専門家の監修を受けながら、約2年をかけて脚本を練り上げた。

安田さん自身も大貴を理解するため、専門家のレクチャーを重ね、ASDの特性をもつ人々が通う教育機関を訪れて交流をもつなど、製作陣が当事者の葛藤や家族の苦悩に向き合ったうえで、兄妹の心温まる関係性をやさしく描く。

言葉にせずとも想い合える、わかり合える

——脚本を読まれた感想は?

のん 大貴と希、二人の家族の物語だなと。希は気持ちを言葉にしてくれない大貴という家族に対し、どう会話していけばいいんだろう? どんなふうに受け止めたらいいんだろう?と葛藤しながらも、言葉にしなくてもわかり合えるかもしれないという希望を描いた作品だと思いました。

——希の人物像をどのように捉えましたか?

のん 大貴を大事に思いながらも、どうしても振り回される部分があって、「ちゃんとしてよ」という気持ちもある。

手がかかる兄だとずっと思い続けている一方で、希は大貴がいるから仕事を頑張れたり、一生懸命生きることができたりする側面もあると感じたので、その点を軸に解釈していきました。

——希と同じように、障がいのあるきょうだいがいる心理カウンセラーの方に話を聞かれたとか?

のん はい。その方が「相手が実際どう思っているかはわからなくて、きっとこんなふうに感じてくれているんだろうなって思うことしかできない」とおっしゃっていたのが印象的でした。

希も「大貴だったらこんなふうに思ってくれているはず」という期待をもって、会話をしていると思うんですね。他人なら違うのかもしれませんが、家族とそういうコミュニケーションを取るのは、なかなか大変なことだと感じます。

そうやってある程度、自己完結でコミュニケーションを取るしかない状況が日常だけど、ときどき本当はどう思っているのかな?という疑問が湧いてくるんだろうなと。考えさせられました。

仕事に向かう大貴が乗るのは、“チンチン電車”の愛称で親しまれる阪堺(はんかい)電車。(C)2026「平行と垂直」製作委員会
仕事に向かう大貴が乗るのは、“チンチン電車”の愛称で親しまれる阪堺(はんかい)電車。(C)2026「平行と垂直」製作委員会

安田さん演じる大貴にグッとくる

——伝えるのが難しい。その感情の部分を、安田さんはさまざまな表情やしぐさで表現されていましたね。

のん 安田さんが演じる大貴はすごく繊細で、かつチャーミングな瞬間もあって、大貴の感情がこんなふうに動いたのかなと想像してグッとくる場面もたくさんあり、胸が締めつけられました。

先日、私のラジオ番組に出演された山野さんが、いつも「どんなに苦しくても、笑っておけばなんとかなる」を大事にしていると話してくださいました。それは、ご自身が生きていくうえでも、脚本を書くうえでも大事にしていることだそうです。

作品の中で二人が、ちょける(ふざける)場面があるんですが、あれは大変なことも多いけど、明るさで乗りきっているんですよね。それってすごく大事なことだと思いました。

——のんさんと安田さんが生み出す空気感に、子どもの頃から積み重ねた時の長さも感じられます。

のん 安田さんはとても細かくコミュニケーションをとってくださるんです。「大貴はこう動こうと思ってるけど、監督はどうなん?」というふうに、たくさん話をしながら演技を定めていく姿を見ていたのと、「のんちゃん、不安なことある?」と、逐一聞いてくださったことが助けに。

自分が準備していくこともありながら、そうやって安田さんの考えも聞くことができ、毎シーン発見がありました。

——大阪・堺市でのロケは?

のん 映画にも出てきますが、路面電車(阪堺電車)が商店街の間を横断するみたいに走っているのがおもしろかったです。

その(綾之町東)商店街も、キュッとミニマムな通りの中に、むかしながらの八百屋さんやお肉屋さんが並んでいて、風情があり、とっても素敵でしたね。

綾之町東商店街は、レトロな雰囲気が映画にマッチ。大貴の自宅近くの場所として登場する。(C)2026「平行と垂直」製作委員会
綾之町東商店街は、レトロな雰囲気が映画にマッチ。大貴の自宅近くの場所として登場する。(C)2026「平行と垂直」製作委員会

——のんさんの関西弁も新鮮でした。

のん 兵庫県出身なんですけど、舞台が南大阪のディープな場所だったので、自分の地元ともまた違う言い回しだったり、イントネーションだったりして、すごく難しかったです。

関西弁って、ガラが悪く聞こえることがあると思うんです。だから関西の人に納得してもらいつつ、全国の人にも受け入れてもらえるように……と、少し抑えめにやりました(笑)。

——のんさんが希と似ているところはありますか?

のん うーん、あんまり見つからなかったですけど、希は妹でありながらお姉ちゃんみたいに育った人なので、そこは、妹がいる私の“お姉ちゃん気質”が使えるかなと思いながら演じました。

——最後に読者へメッセージを。

のん 大貴と希の物語は日常の中に困難も降りかかってきますが、二人が一生懸命生きていく姿にきっと希望をもらえます。ぜひ映画館にお越しください!

この続きはぜひ本誌で
インタビューの続きは『旅の手帖』2026年9月号に掲載されています。ぜひ雑誌を手に取ってみてください。
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2026年8月28日(金)全国公開 『平行と垂直』

(C)2026「平行と垂直」製作委員会
(C)2026「平行と垂直」製作委員会

周囲の助けを借りながらも自立した生活を送る、自閉スペクトラム症の兄・大貴(安田章大)と、カウンセラーの仕事をしながら兄のサポートをする妹・希(のん)。二人の兄妹が、人生の節目にそっとふれあいながら、自分たちの“これから”を見つめ直す物語。

出演:安田章大、のん、神野三鈴、菅原大吉 ほか
監督:小林聖太郎 原案・脚本:山野 海
配給:東映ビデオ

聞き手=岡崎彩子 撮影=千倉志野
ヘアメイク=菅野史絵 スタイリスト=町野泉美

『旅の手帖』2026年9月号より一部抜粋して再構成