フロリダ発祥のキューバサンド。初めての味わいに魅せられて

お店があるのは三差路の角。
お店があるのは三差路の角。

キューバサンドは、2014年公開の映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』に登場したことで、日本でもその存在を知った人が多いだろう。『PAN』オーナーシェフ・船井さんが初めてキューバサンドに遭遇したのは、蒲田のバルで働いていた2019年ごろ。仕事で関わりのある人が開いたホームパーティでのことだった。

蒲田の隣の西糀谷育ちで、10代でのアルバイトを含めてずっと飲食店で働いていた船井さんだったが、キューバサンドはそれまで経験したことのない味わいだった。パーティーのホストに許可をもらい、勤務先のバルで提供し始めた。それが現在『PAN』で提供している蒲田のキューバサンドの原型だ。

オーナーシェフの船井正樹さん。
オーナーシェフの船井正樹さん。

その後バルでのキューバサンド提供は終了することになったが、船井さん自身のキューバーサンドへの情熱は冷めず、キューバサンド店として独立することを決意した。

キューバサンドはフロリダでもマイアミ発祥説とタンパ発祥説があり、今も発祥地論争がある。船井さんはバルを退職したあと、マイアミとタンパに合わせて約1カ月滞在した。このときタンパで訪れた店のひとつがキューバサンド世界大会で優勝実績のある店で、大会主催者を紹介してもらうと、「翌年の世界大会に出場したらどうか」と勧められた。

2024年と2026年、2つの優勝記念プレートがお店に飾られている。
2024年と2026年、2つの優勝記念プレートがお店に飾られている。

この時点で『PAN』がオープンする2023年12月まであと半年。「まだ店もないのに、本当に大会に出られるのかな」などと考えながらも、キューバサンド以外にもタコスやペルー料理などを味わって、味覚の引き出しを増やして帰国した。

開店からわずか半年後に世界大会優勝。他にない蒲田のキューバサンドの味

ハチミツをかけてホットプレス。ホットプレス機の温度は250℃ほどと高温。
ハチミツをかけてホットプレス。ホットプレス機の温度は250℃ほどと高温。

帰国後、バル勤務の際に作っていた蒲田のキューバサンドをブラッシュアップしてお店をオープン。その蒲田のキューバサンドを引っ提げて参加したのが2024年5月に開催された世界大会のノントラディショナル部門だ。

アレンジしたキューバサンドを競う部門で、オープンからわずか半年足らずで日本から参加した『PAN』の船井さんが、見事に優勝をかっさらったというわけだ。なお大会の審査は、地元のレストランのシェフら150人ほどが審査員を務め、誰が作ったものかわからないままキューバサンドを食べて採点するというもの。遠方から来たことなどを理由に特別扱いされることはない。

はちみつ、バター、中のチーズがぐつぐつしてくると焼き上がり。
はちみつ、バター、中のチーズがぐつぐつしてくると焼き上がり。

蒲田のキューバサンドは、最初にフロリダに滞在したときに出合った、ハチミツを表面に塗ったプレスササンドイッチの要素を取り入れていることが最大の特徴だ。自家製プルドポークをメインに2種類のハムと2種類のチーズ、ピクルスなどが挟み込まれている。粒マスタードとオレンジピール、マヨネーズもパンの内側に塗られている点も味わいのポイントになっている。

キューバンブレッドと呼ばれるバゲットに似たパンは、近くの『ブーランジェリーミモレット』に相談して作ってもらっている。『ブーランジェリーミモレット』のシェフに、「耳はどう仕上げたいか?」と聞かれて、「キューバンブレッドの耳は柔らかいのが正義です」と依頼。

食べやすいように半分にカットして提供される。
食べやすいように半分にカットして提供される。

柔らかく仕上げられたパンは、バターとハチミツを塗ってプレスするので、表層だけがパリッと焼き上がる。しかも中には粒マスタードが入っているから、食べる過程でハニーマスタード味になるのだ。

オレンジピールをパンの内側に塗っているのは、伝統的なキューバサンドからヒントを得たから。クラシックなキューバサンドのプルドポークでは、豚肉をマリネする際にオレンジが使われることが多い。『PAN』ではプルドポークのマリネにオレンジを使う代わりに、皮をすりおろしたものをパンに塗ることで、爽やかさをダイレクトに感じられるようにしている。

蒲田のキューバサンド1400円。
蒲田のキューバサンド1400円。

蒲田のキューバサンドは、具材のひとつひとつはどれも食べたことがある味なのに、サンドイッチとして全部を一緒に食べると初めて食べる味のように感じられた。

2026年に再度挑戦した世界大会は、トラディショナル部門優勝

ボリュームたっぷりで、中身がはみ出そう。食べやすいように提供される袋に入れて頬張ろう!
ボリュームたっぷりで、中身がはみ出そう。食べやすいように提供される袋に入れて頬張ろう!

船井さんは2026年3月下旬に再度タンパに向かい、キューバサンド世界大会にもう一度出場し、今度は正統派ともいえるトラディショナル部門で優勝の栄光を勝ち取った。なお、トラディショナル部門は、ピクルスやイエローマスタード、サラミとハムなど使う具材が決められている。

差が出るのは、ハムの厚みやプルドポークまたはローストポークの作り方などだ。優勝が決まったあと、主催者から「君の作るキューバサンドは、僕のグランマが作る味に似ていた」と声をかけられ、レシピを交換したところ、主催者の家に伝わるレシピと共通点が見つかったそうだ。

羽田からもアクセスしやすい蒲田にあり、ランチタイムを中心に営業する『PAN』。アメリカからの観光客や、フロリダ在住経験がある人も訪れている。「近所のお店の人が、『マジでおいしいから、もっと世に出した方がいい』と言ってくれるんです」と船井さんはますます希望に燃えている。

道を挟んだ場所にイートインスペースが用意されている。
道を挟んだ場所にイートインスペースが用意されている。

キューバサンドのお店は都内に少しずつ増えてきて、2026年夏はキューバサンドの流行前夜と言えるかもしれない。まずは世界大会優勝の蒲田『PAN』の味を試してみてはいかがだろうか。

住所:東京都大田区南蒲田1-3-9/営業時間:9:00~14:00(土・日・祝は9:00~15:00)/定休日:火・水・木/アクセス:京急電鉄本線京急蒲田駅から徒歩3分

取材・文・撮影=野崎さおり