2.5坪の空間を生かすには
京成線のみどり台駅から徒歩3分。交差点の片隅にある『いとなみ書店2.5』は、その名のとおり、広さわずか2.5坪(約8.3平方メートル)のコンパクトな店だ。店を営むのは株式会社キウの代表取締役・中村千昌(ちあき)さん。普段は千葉市を中心に県内の中小企業の採用・人事支援を行っている。
千葉出身で、はじめは都内の会社に就職した中村さん。転職し、船橋にある地域密着の人材会社に勤め、さまざまな地元企業の社長と話したり、取材し記事を書いたりする中で、自分が生まれ育った地域のことをよく知らないことに気づいたという。
その後、独立し、地元の千葉へ。地域に根付く企業の魅力を伝え、働く人と繋ぎ、街の営みを育てる事業を一貫して手がけてきた。そして事業が拡大し、自分のオフィスを借りようと探していた時、偶然この2.5坪の物件に出合った。ウェブで見つけたその日の午後に内見し、即決。この空間で何かできないか——。考え、ひらめいたのが「シェア型書店」だった。
クラウドファンディングで色が決まった
物件の契約後、たった4カ月でオープンした『いとなみ書店2.5』。その準備資金はクラウドファンディングで調達した。知り合いに応援を頼んでまわり、とにかく大変だったと話すが、一方で発見もあった。「さまざまなリターンを用意したのですが、『棚主コース』は全く面識のない人に多く選ばれました。開業後に聞いたら、シェア型書店を知っていて、地元にできるなら自分もやりたいと応募してくれたようです」。
シェア型書店の開業資金の調達手段として、クラウドファンディングは比較的よく用いられている。シリーズ第1回で紹介した『ブックマンション』、第2回で紹介した『本と喫茶 夢中飛行』も、開業に先立ちクラウドファンディングを実施した。3店舗全て、目標額を上回る支援額を集めて終了している。地元の本屋を応援したい人や自分も小さな本屋をやってみたい人に、認知してもらい、未来の棚主になってもらう手段として、クラウドファンディングというプラットフォームは、シェア型書店と相性がよいのかもしれない。
ちなみに、『いとなみ書店』のクラウドファンディングの最高額のリターンは「オリジナルキャラクター『つむぐん』のカラー決定権」。身内に頼み込む覚悟で作ったリターンだったが、これにも匿名の支援者がついた。かくして「つむぐん」は緑色に決定。しかし開業後2年以上が経つ今も、その支援者が誰かはわからないそう。「本当に“あしながおじさん”のような感じで。こうやって本の文化を支えてくれる人がいるんだと驚きました」。
棚主同士の交流が新たな広がりへ
クラウドファンディングの支援者が棚主として入り、オープン時には全ての棚が埋まった。棚の大きさは全て同じで縦33cm×横33cm×奥行30cm。この30cmサイズの寸法を用いるシェア型書店は全国的に多く、標準サイズといえる。
特徴的なのは「社長棚」。地域企業やその社長がおすすめする本を販売する本棚で、「選書にはパーソナリティが出るはず」と、本の趣味嗜好を通じた企業と人のマッチングを狙っている。人材を扱う会社ならではの発想だ。
現在は社長棚が4、一般の棚主さん棚が24で全28棚。棚代はそれぞれ社長棚が月額3000円/販売手数料なし、一般棚が月額1500円/販売手数料1冊100円(一部50円)と料金形態を変えている。金額は、長く続けて欲しいという思いと、テナント料などの原価を鑑みて決めたそうだ。狙いどおり、オープン当初からずっと入り続けている棚主もいて、棚は常に満員御礼状態。キャンセル待ちもいるという。
不定期で棚主交流会も企画しており、「棚づくり」などテーマを設けてディスカッションを行う時もあれば、広場で集まったり、バーベキューをしたことも。棚主間の接点を創る試みは功を奏し、有志が「街の本棚」という選書・空間設計を行う新たな団体を立ち上げ、公園や駅など、さまざまな場所に書店空間を創る取り組みを行ってる。さらには、棚主が社長棚の企業に取材へいきそれを基にZINEを作る、なんて動きも!
西千葉を本の街に
当初の目的どおり、店は現在、中村さんのオフィスとしても使用している。希望する棚主に店番を任せることもあるが、多くの場合は中村さん自身が店に立つ。今後の展望を尋ねると、「今は自分が出すぎているから」と笑い、書店の主役である棚主、地域、そして自分の3軸のバランスをとりながら、店のコンセプトである「本を通じたいとなみ交差点」を体現していきたいと話す。
『いとなみ書店』がある西千葉は、千葉大学など教育機関が集まる文教地区。ZOZOの本社もあり、地元のロースタリーの豆を使ったコーヒーを出すカフェを構えたり、広場でイベントを開催したりと、個性が光るまちづくりが行われている。中村さんも、これまでは対企業の仕事が多かったが、書店を開業し自ら棚主やお客さんと関わり合い、本のイベントを企画したり、古本市などへ出店したりする中で、地域の本好きの熱量を感じ取ってきた。
「まだ書店の数という意味では少ないですが、これから西千葉を本の街にしたいと思っています。店も、本棚の増床や新刊の仕入れなど、新たなチャレンジを考え中です」
シェア型書店は今、地域で働き、学び、暮らす人々が「いとなみ」をシェアし、リアルな本を通じて街を創る拠点となっている。
取材・文・撮影=町田紗季子




