最近、街で見かけるようになったシェア型の本屋。そもそも何なの? どんな人がやっているの? 正直儲かるの?元・散歩の達人編集部員としてさまざまな本屋を取材してきた記録、新たに聞いた話、そして自身でも2026年春にシェア型書店『えにしの本屋』の開業した実体験を交え、その実態を大解剖!1回目(全3回)は、これまでの変遷を探ります。

ローカルメディアを地元で

大宮駅東口から徒歩8分のビルの2階にある『本と喫茶 夢中飛行』。そのルーツは、店主・直井薫子さんが2020年にはじめた『CHICACU Design Office & Bookstore』という新刊書店兼オフィス兼住居にある。

さいたま市出身で、美大卒業後はデザイナーとして都内の出版社に就職した直井さん。2011年の東日本大震災をきっかけに、住んでいる地域とのつながりや、自分の技能を通じて地元に果たせる役割は何かを考えていた頃、葛飾で地元雑誌の制作に携わりメディアの可能性を感じたという。

その後、地元へ戻り、小さな編集チームを組成して作品を作ったり、書店運営や公共空間の運用、アートマネジメントを独自で学んだりしながら、自身の個人空間も“街のメディア”として公に開放し、地域の人・本の対話の場として活用する「ローカルメディア活動」を行っていた。

『散歩の達人』2022年3月号「浦和・大宮」特集で、北浦和にあったお店を取材した(撮影=米屋こうじ)。
『散歩の達人』2022年3月号「浦和・大宮」特集で、北浦和にあったお店を取材した(撮影=米屋こうじ)。
北浦和に2020年に竣工したマンション「コミューンときわ」。その一室に生まれた小さな書店と店主の活動が非常に面白い。街へとにじみ出て、人と触れ合う本屋の由来と狙いを聞いた。

新刊はマスト、だからこそ「シェア型」という選択

そんな直井さんがシェア型書店の運営を始めたのは2022年。旧大宮図書館を改修した『Bibli』でスタートしたのち、現在の場所に移転し、シェア型の本棚と、自身が選書した新刊の本棚、カフェとアーティストの作品が共存する空間を切り盛りしている。

貸し棚は1区画縦30cm×横60cm×奥行27cmとたっぷりサイズで、棚主はなんと100名! シェア型書店の中でもかなり大規模だ。

店主の直井さん。今の場所は、ビルオーナーとの奇跡的な出会いで即断したとか。
店主の直井さん。今の場所は、ビルオーナーとの奇跡的な出会いで即断したとか。

本の貸出も行っており、これは年会費1320円で店内にある本を4週間5冊まで、年間借り放題になる仕組み。棚主は本を陳列する際に、購入可・不可/貸出可・不可/店内閲覧のみを選択する。棚の賃料を払っているのだから、みんな売りたいのでは?と思いきやそうでもなく、販売はしておらず貸出のみという本も多く見受けられる。所有はあくまで自分のまま、推し本を多くの人に読んでもらう貸借の場としてもシェア型書店が機能しているのは興味深い。

貸出のみ「可」の本。
貸出のみ「可」の本。
こちらは販売のみの本。
こちらは販売のみの本。

販売専門の新刊の棚には、アートやデザイン、対話、文化人類学などのジャンルが並ぶ。シェア型書店の場合、全棚を個々の棚主へ分配し、古本・新刊を問わないところも多いが、直井さんは「絶対に入れたい」と新刊を販売し続けることに強いこだわりを持っている。

それは、本のため、出版業界の未来のため。書店が急速に減り続ける今こそ、出版社・編集者・著者のための「出口」を育てる必要があると考えているのだ。出口には、新刊が並ぶ場所とそこで購入する人がセットで必要で、そのためにも本に興味がある人を増やし、もっと読者をクリエイティブにしたい。この想いが、デザイナーの仕事を続ける傍ら、自分でリアルな店舗を借り、運営を続けるエネルギーの源泉だ。

とはいえ、現在の図書流通の仕組みでは、小さな書店の新刊の仕入れは買い切りが多く、在庫を抱えるリスクは大きい。だからこそ、書店を継続させるための選択肢として「シェア型」を導入した。本棚のひと区画の棚料は月額3300円。賃料は、家賃と週5で運営を続けるためのスタッフの人件費を100人でカバーするイメージで逆算して設定した。「本棚のオーナーになって棚代を払うことは地域の書店文化への出資だと思っています。皆さんが棚を借りてくれるおかげで、自分も本に向き合い、チャレンジする猶予を与えられている感じです」。

緩やかにジャンル分けされている新刊の棚。
緩やかにジャンル分けされている新刊の棚。

「ブック・コレクティブ」の実践

しかし自身の想いを棚主に共有することは滅多にない。それは直井さんが、この店を「ブック・コレクティブ」の実践の場としても捉えているからだ。

複数のアーティストが1つの共有点のもと、それぞれの制作活動を行う「アート・コレクティブ」にちなみ、デザイン・アートを学んできた直井さんは「ブック・コレクティブ」という概念を着想。本に関心が高いという1点を共有できる創造的な空間を身近な世界にどのように作れるか、という問いの答えがシェア型書店というスタイルだった。

棚を借りる理由、店に集まる目的はバラバラでいい。自分は先導者ではなく100人のうちの1人であり、観察者。だから棚主の企画は積極的に受け入れる。「やってみたいことを不完全でもいいからアウトプットしてみる表現の場になればいい。小さな失敗も成功も自分のものとして経験できる権利がみんなにあると思っています」と話す。

棚主のチャレンジや自由を許容するためにも、最初の説明は1時間対面でみっちり行う。棚主は、地元・さいたまの人、栃木・群馬の人、東京からの人と幅広く、長期利用が多いそうだ。

店内の様子。ポップを置いたり、自分の仕事の紹介があったりと、各棚、表現方法が多彩で見て回るだけで楽しい。
店内の様子。ポップを置いたり、自分の仕事の紹介があったりと、各棚、表現方法が多彩で見て回るだけで楽しい。

実際、棚主発案のイベントは多く、読書会、絵本のビブリオバトル、翻訳家によるトークイベント、しおり作りなどさまざま。この春からは直井さんが主催者となり、日常に浮かぶ素朴な疑問について少人数で話す哲学対話を定期的に開催しているほか、東京から約30分という立地を生かし作家や編集者などゲストを呼ぶこともある。

さまざまなイベントをやることは、棚主同士、本好き同士の出会いや交流を促す。「毎回知らない人がいることを大事にしています。『えにしの本屋』ももう少し棚を増やしたら違う関係性が生まれるかも?」と、10棚あまりで構成している筆者の本屋へのアドバイスも。なるほど、偶発性を生むローカルメディアとしての場作りこそ、シェア型書店オーナーの重要なミッションなのかもしれない。

毎月多くのイベントが開催される。
毎月多くのイベントが開催される。
 トークイベントの様子(画像提供=直井薫子)。
トークイベントの様子(画像提供=直井薫子)。

地域内外からの棚主集めやイベントの定期開催を実現し、書店運営を持続可能なものとした『夢中飛行』は、街の書店2.0のひとつの完成形にもみえる。では今後の展望とは?

「棚主さんと接していて、さまざまな好奇心がこの場を成り立たせるモチベーションになってると感じています。美大で学んでいる時に感じた、答えがない探求の心地よさ。それを共に築いたり壊したりしていけるような、先生のいない大学をやってみたいですね」

シェア型書店は、問いや学びを自由にシェアし、ちょっぴり豊かな人生を応援する場にもなっていきそうだ。

住所:埼玉県さいたま市大宮区高鼻町1-56 ks'氷川の杜201号室/営業時間:11:00〜18:00/定休日:火・水/アクセス:JR・私鉄大宮駅から徒歩8分

取材・文・撮影=町田紗季子