本棚・運営を共有する、新しい書店のカタチ
シェア型書店*とは、区切られた本棚をひと区画ごとに個人が借りて、その棚に入れる本をセレクトし販売する、小さな本屋の集合体。厳密な定義はないが、要はみんなで作る書店のこと。
従来の書店が、いち企業・オーナーの管理の元で仕入れや販売が行われているのに対し、シェア型書店では、複数の棚とそこを管理するオーナー(棚主)の共同体が、その書店の業務を担っている。
つまり、本棚と運営を共有=シェアすることで成り立っている新しい書店の形態だ。
このようなスタイルの書店は2026年現在、日本全国に130店以上ある。では一体、どのように発展していったのだろうか。
*シェア本棚、シェア型本屋などさまざまな呼び方があるが、ここでは「シェア型書店」という表現を用いる。
【萌芽】2005年〜 一箱古本市と私設図書館
まず、出版業界のプロではない「一般の人たちが本を販売する側に立つ」という観点で考えると、「一箱古本市」に萌芽をみることができる。一箱古本市は各地で行われているが、東京の谷根千エリアの「不忍ブックストリート」がその先駆けと言われており、2005年に始まった。
不忍ブックストリートは、不忍通りや周辺に点在する個性的な新刊書店、古書店、図書館を軸に、喫茶店・雑貨店などを巡る「本と散歩」の街として、地域に暮らす有志が立ち上げたプロジェクトの名前。この一環で、1箱分の本を持ち寄った“本屋”が街中に集まる1日限定のイベント「一箱古本市」を毎年開催しており、今では東京都外からも出展希望者が集まるほどの大人気イベントとなっている。限られたスペースながら自分が選んだ本を直接販売する店主になれるという体験は、まさにシェア型書店の棚主のルーツだ。
さらに「本を介した空間の共有」という観点では、2010年代に広がった「まちライブラリー」の動きも見逃せない。
「まちライブラリー」は礒井(いそい)氏が提唱した、小さな私設図書館を街中に広げる取り組み。蔵書を貸本として提供したり、街の本が集まる場として人と人との交流を促したりと、自分の好きな本の共有する場、地域のつながりの場として、全国に拡大している。
また世界的にみても、時同じくして「Little Free Library」という私設の屋外図書館の活動が盛んになっており、海外を歩いていると道端で遭遇するなんてことも。
非営利ながら公共の図書館とは異なる、私的な選書を通じた新たな本や人の出会いという点で、セレクト本の集合体であるシェア型書店と同じ価値を共有している動きと言える。
【成長】2018年ごろ〜 常設・シェア型書店の誕生
本の街の特別イベントや図書館の派生という枠を超え、常設の棚を舞台に本を売買する現象は、2010年代の後半に東京でみられるようになった。
その代表が、2019年にオープンした吉祥寺の『ブックマンション』だ。
クラウドファンディングで500万円超を集めオープンした書店には、縦横31cmの棚が並び、約70の棚主が入居する。ひと棚のレンタル料は月額5000円。新刊や古書などが所狭しと並び、まさに小さな本屋が入居するマンションのようだ。ここでは棚主が定期的に店番を担い店の運営もシェアしているほか、ZINE(ジン)の制作など新たな創作活動や本のイベントの拠点にもなっている。
『ブックマンション』がモデルケースとなり、その後も、先述の谷根千エリアで複合施設を営む『HAGISO』が、西日暮里の駅前で『BOOK APARTMENT』の運営を始めたり、
大田区池上のデザイン・設計事務所が、ギャラリー兼オープンスペースの一部分に『ブックスタジオ』をオープンさせたり、と少しずつその輪が広がっていった。
単純な本の売買のみならず、街の新たな文化拠点・つながりが生まれる場所として存在感をみせるシェア型書店は、2020年以降、『散歩の達人』の誌面でもしばしば取り上げてきた。
【発展】2022年ごろ〜 シェア型書店の多様化
そして昨今、シェア型書店は深化・広域化している。
例えば本の街・神保町で、2022年に誕生した『PASSAGE by ALL REVIEWS』。
ここまで書店員ではなく一般の人が本を販売するという変化を追ってきたが、この空間では、作家や文化人自らが棚を借り選書している様子が見られる。プロの書き手が読み手へメッセージを発信する、いわば新たなメディアとして、シェア型書店が機能しているのだ。
また、このシェア型スタイルは東京都内のみならず、北は北海道、南は沖縄まで、日本各地で採用されるようになった。
運営できているということは、棚の借り手と本の買い手がそれぞれの街にいて、営業が成り立っているということ。奇しくもシェア型書店が発展した20年で、全国の書店数は半減し、約4割の自治体では書店が0という状況になった。そのような環境にあって、シェア型書店台頭の動きは希望にも映る。
そうした静かな盛り上がりをゆるい根拠に、筆者は千葉県流山の住宅地で小さなシェア型書店を始めてみた。数年前に街から書店がなくなった“本屋砂漠”に、ポツンと出店してみたのだ。
「近くに本屋がほしかった」と時折顔を出してくれるご近所さんの言葉に希望を抱く反面、棚をレンタルする仕組みがなかなか理解されなかったり、びっくりするほどお客さんが来ない日があったりと、悩みは尽きない。
では実際のところ、シェア型書店の担い手の想いや運営の現実は、どのようなものなのか。
東京を離れ、郊外のシェア型書店を訪ねた(第2回・第3回へ続く)。
取材・文・撮影=町田紗季子





