古民家で開店した本格台湾茶館

相通じるものが呼び寄せるのか、神楽坂には台湾のクラフトビール臺虎精釀(Taihu Brewing)直営のビール店『Taihu Tokyo』を筆頭に、台湾式水餃子がウリの『フジ コミュニケーション』、台湾フレンチを標榜する『La Bonne Cachette(ラ・ボン・カシェット)』など台湾がらみの現地度濃いめの店が点在している。足を延ばせば神田川の向こう側に『BANRAI HANTEN』なんて小洒落た台湾料理店もできた。神楽坂では飲食を軸に台日文化交流が企まずして行われているようで、台湾推しとしてはちょっとうれしい。そしてこのたび、台湾屈指の本格台湾茶館までもが登場した。『小慢(シャオマン)』である。

『小慢』の1号店は台北で、年季の入った並木道が美しい師大路通りの裏手の住宅地にある。2軒目は京都のただ中、京都御所の裏手のこちらも住宅地。いずれも物静かでおちついた穴場的ロケーション。台北と京都に暮らす友人にそれぞれ送ってもらったスナップを見比べてほしい。台北と京都で、よくぞ似た雰囲気の場所を揃えられたものだと、店主の選択眼に感嘆する。店構えからして、滋味に富む自然体の味わいが一貫して漂っている。

台北にある『小慢』の1号店。
台北にある『小慢』の1号店。
京都の『小慢』。
京都の『小慢』。

神楽坂にできた『小慢』も雰囲気を同じくする。しかも神楽坂駅からほど近い住宅地の古民家「一水寮」に店開きしたのだからさすがである。

こちらは神楽坂店。
こちらは神楽坂店。

こちらは1951年山口県出身の建築家、故・高橋博が手がけた、いぶし銀の木造名建築。文化庁・登録有形文化財で、2階建の部屋ごとに借り手が入り、各々がクリエイティブな活動をしたり、工芸品を扱ったりしている神楽坂屈指の穴場スポットなのだ。陰翳礼讃という言葉を具現化したような、翳りが魅力の建物の入って右手、窓辺が植物に覆われた1階の一室が『小慢』の店舗。もともと近隣にある新潮社のコアな工芸雑誌『工芸青花』の営むギャラリースペースだったが、2026年春先に小慢=「青花小慢 Tea Experience」に生まれ変わった次第。店の看板は玄関脇の窓枠と、室内にある厚手の張り紙のみ。

一杯の茶に安らぎを求める場所

一水寮は文化財ということもあって、建物に気安く手を加えることはできない。『小慢』は心得たもので、台湾・誠品書店のデザイン等で知られる著名な建築家・陳瑞憲に仕事を依頼、カウンター席を巧みに組み込んで店に変身してみせた。シンプルだが存在感ある黒い木のカウンターは、古民家と一体化した抽象画のようで、過去と現在をつないでしっくりマッチしている。

壁の一方には薬棚風に細かく仕切った白い収納棚。梱包された茶葉と茶器がきっちり並び、私道に面した窓際には年代物の木製ショーケースが並び、茶器が収まっている。席は7席ありうち5席は予約席だから、訪れるなら予約が確実。

そもそも店名の小慢(シャオマン)の「慢」は直訳すると「ゆったり」となり、小+慢で、「ささやかな憩い」とでもいった意味合いの造語となる。一杯の茶に安らぎを求める場所としてぴったりの、粋な名称ではないか。

さらにこの店名、オーナーの謝小曼(シェ・シャオマン)さんの名前にひっかけてもある。そんな軽やかな遊び心もこの店の持ち味だ。

謝小曼さん。
謝小曼さん。

謝さんは1964年台北生まれ。日本で大学を卒業後、西武百貨店にて勤務。そののち台北に戻り、台湾・中国茶の世界に魅入られて2008年茶藝館『小慢』を開店、さらに2018年京都に『京都小慢』を構えた。神楽坂店を加えた3店舗をそれぞれ、茶ともてなしの心を熟知した日本人店長に任せつつ、各地を巡回して、単なる茶の作法を超えた、ハイレベルな茶芸教室など、一歩踏み込んだ催しを開催している。

茶葉や茶器の販売も見逃せない

個人的な経験で知る限り、台湾茶の世界では、淹れ方においしく淹れるための合理的な作法はあるものの、茶席に関しては茶道の茶室のような取り決めはない。場を取り仕切る茶藝師の演出の腕次第というあたりが面白さでもある。ざっくりアバウトな茶席もあれば、作り込んだ場が用意される場合もある。『小慢』は断然後者のほうだ。店の隅々まで神経が行き届き、静謐な空間を生み出している。その中で茶を淹れる謝さんの姿は自然体である。スタッフともども、茶を通して居心地の良い上質な憩いのひと時を創出することに徹している。

供される茶は野放茶・野生茶と称される貴重な品を用いる。例えば台湾の茶の名産地・阿里山で自然な環境で丁寧に育まれ、一般的なお茶の10分の1しか生産されない、茶の持つ本来の甘みを堪能できる阿里山野放白茶。中国・皖南の山奥で30年自然に放任された野趣に富む老茶樹から採った素朴な味わいの東眼山野放清香高山茶などなど。来歴からして深淵な香りと味わいが脳内に漂ってくる。どの茶も謝さんが現地に赴き、土地の状態なども吟味した無農薬の茶葉をそろえている。年々生産が減り、入手が難しくなっているそうだ。

カウンターをはさんで一煎また一煎と小杯に供される茶、その都度変化する味の妙に心地よく酔いしれ、静かなひと時がゆっくり過ぎていく……。

『小慢』では、茶葉の販売も行っている。そして陳列販売している茶器も見逃せない。状態のいい古物に加え、国内外の作家の特注品が揃っているのだ。不慣れな現地で買い求めるより、良い品と手軽に出合えて吟味できるはず。スタンダードなものからかわいらしい絵柄のもの、現代風な杯まで各種そろえ、値段も手が届きやすい。台湾の陶芸家・羅翌慎作の六角形の大きめの白磁の茶杯が、絶妙のサイズ感で手にしっくりきて、日本酒にも合いそうときて思わず購入してしまった。現在愛用中である。

トップレベルの茶芸館ゆえ、それなりのお値段だが、一度は体験してみる価値ありだよと言いきりたい。

住所:東京都新宿区横寺町31/営業時間:12:00~18:00(金~日は11:00~)/定休日:月

取材・文・撮影=奥谷道草

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「蒙古烤肉(モングウカオロウ)」=モンゴル焼きは、知る人ぞ知る台北発祥の郷土料理。台北っ子が「あ、あれね〜」と微妙な表情を浮かべて懐かしがるような、ベタなB級グルメだ。
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