園内や周辺には様々な乗り物が
取材当日はよく晴れて、汗をかくような陽気だった。私は京王線に乗って多摩動物公園駅で下車したのだが、改札を出てすぐの場所に『京王れーるランド』という施設があり、施設内では京王線の旧車両が展示されているようだ。取材に同行してくれる編集者のKさんとの集合時間まで少し間があったので、入館料を支払って入ってみることにした。
京王線の運転体験シミュレータがあったり、かつて実際に走行していた車両の運転席に入って運転士気分が味わえたりと、なかなか見応えのある施設だった。
お子さんがプラレールで遊べるスペースなどもあり、家族連れの中で少し浮いている私だったが、乗れるものにはできるだけ乗っておくのがこの取材のポリシーである。ご家族連れの邪魔にならなそうなタイミングを計り、1回100円で乗車できる屋外スペースのミニ電車にも乗っておいた。
外に出ると、正面の高いところを「多摩モノレール」が走っていくのがちょうど見え、「多摩動物公園周辺は乗り物天国だな!」とテンションが上がる。
編集Kさんと合流し、いざ動物園の中へ。1958年に開園した多摩動物公園の敷地は、動物園としては首都圏最大級の広さを誇っている。そしてその広さを生かし、“檻”のかわりに“濠”で仕切る「放養式展示」を行っているのが大きな特徴だ。これにより、より自然に近い形で動物たちの姿を見ることができる。
ちなみに、広い園内を効率よくまわるためには、無料の「シャトルバス」が便利なので、園内マップを見て行き先を確認しながら上手に活用するのがおすすめである。
私は大昔に一度、多摩動物公園に来たことがあった。保育園の遠足だったから、もう40年以上も前である。おぼろげな記憶ながら、とにかく広い場所だったことはたしかに覚えている。
あれから長い年月が経ち、すっかり大人になって、またここにいる。感慨深いことだ。大人になって改めて来てみても、やはりこの動物園は広い。
マップを参照しつつ、まずはライオン園のある「アフリカ園」を目指す。ゆったりしたスペース内にキリンやグレビーシマウマたちが共存するサバンナエリアを眺めながら、なるほど、この開放感のある眺めこそ多摩動物公園の醍醐味なのだなと思った。
いよいよライオンバスに!
サバンナエリアのすぐ近くに、「ライオンバスステーション」の建物がある。ちなみに、ライオンバスの乗車チケットは、土・日・祝日などの混雑が予想される日にはオンラインで事前予約できるので、特に混雑する週末などは来園前に予約しておくのがよさそうだ(当日、窓口で直接購入することもできる)。
チケットの受け取り手続きを済ませ、発車の時刻を待つ。それまでの間、ライオン園の外から一便前のライオンバスの様子を眺めることにした。取材当日は、オス1頭、メス6頭がエリア内にいて、その姿を外からも見ることができた。
先ほどのサバンナエリア同様、ライオン園も広々としていて、ライオンたちは思い思いの場所でゆったりとくつろいでいるようだ。そこに、シマウマ柄に塗装されたバスが現れる。後で知ったのだが、バスの窓付近にはライオンたちの好物の肉が取り付けられていて、それを食べるために、窓のすぐそばまでライオンたちが近づいてきてくれるようだ。
その様子を遠くから見て、胸が高鳴ってきた。発車時刻の5分前に、ライオンバスステーション内の乗降口前に向かう。車内の座席はバス側面の窓ガラスに正対するように設置されており、座ったまま外がよく見えるようになっている。平日のお昼だったが、定員25名のバスは満席だった。
ドアが閉まり、バスが動き出す。「これからみなさんはライオンたちが暮らすライオン園へと出発します!」と車内放送が流れ、いざライオン園へ。ちなみにライオンバスステーションとライオン園は見るからに頑丈そうな自動扉で区切られており、バスがステーションから園内に出るとすぐに背後で扉が閉まる仕組みになっていた。
バスは約10分かけて園内をゆっくりと回遊してくれる。園内には木製の台が設置されており、バスが接近するとライオンたちがその上に乗って近づいてくる……こともあると思うのだが、私が乗った便ではライオンたちは距離を保ったままのんびりしている様子だった。ポカポカ陽気のお昼だから、ライオンたちも眠たかったのかもしれない。気持ちよさそうに寝転ぶ姿が近くに見え、それはそれで貴重なものに思えた。
園内を何周かして、バスは再びステーション内へ戻る。楽しい時間はあっという間だ。後でスタッフの方に聞いたところ、ライオンバスは初代園長である林寿郎の熱意によって生まれたもので、運行が開始される以前は、このバスを危険視する意見もあったようだ。しかし、アフリカでライオンの生態をつぶさに研究してきた林寿郎が試験を重ね、安全な形でライオン園を走るバスが実現したのだという。
バスの窓は厚さ8mmの強化ガラスを2枚張り合わせてあるほか、扉や外板など、車両全体が特殊な仕様になっているそう。また、バスが万が一故障等で走行できなくなった際も、車両の後部に救助用のバスを連結し、そこから乗客を安全にステーションまで運べる構造になっているという。時に愛らしく見えるライオンでも、猛獣であることには違いない。そのため、バスもステーションも、隅々まで安全性に配慮された設計になっているのだ。
ライオンバスは私が子供の頃にここに来た時はすでに走っていたはずだから、ひょっとしてその時にも乗ったのかもしれない……。そんなことをぼんやりと思いながらライオンバスステーションを振り返った。
お昼寝モードの動物たちを見て和む
ライオン園のあるアフリカ園から園の北側の「オーストラリア園」まで歩き、カンガルーやコアラを見ていくことにした。だらーんと日陰に寝転んでいるカンガルーの姿が、休みの日にごろごろしながらテレビを見ている時の自分に似ていた。
また、コアラ館のコアラたちもみんな木の上でまどろんでいる様子で、たまらなく可愛らしい。眠たそうな動物たちの姿は、見ている人の気持ちを和ませてくれる。ただじっとして眠っているコアラを、いつまでも眺めていたくなった。
お腹が減ってきたので、さっき来た道を再び引き返すようにして「サバンナキッチン」というレストランスペースまで行ってみる。このレストランではアフリカの郷土料理を気軽に食べることができる。ケニアの家庭料理をアレンジしたものだという「ビーフカランガ」は、ビーフや野菜を煮込んだシチューのような食べ物で、バターライスと一緒に提供される。私はそこにスリランカの「ライオンビール」を合わせることにした。さっきライオンを見て来たし!
ビーフカランガの優しい旨味で空腹を満たし、再び歩き出す。ボルネオオランウータンの屋内展示施設にたどり着くと、舎内にたくさん吊られたロープ(消防用ホースをリユースしたものらしい)や金網を両手両足で器用に掴みながら、飛ぶように移動している姿を間近に見ることができた。「アピ」という名のオスのオランウータンで、先ほどまでのお昼寝タイムの動物たちとは違い、その俊敏な動きから目が離せない。
残念ながら公開時間を過ぎていたが、屋外のオランウータン舎には「スカイウォーク」という長い吊り橋が設置されており、渡った先は「オランウータンの森」という、森の自然を生かしたエリアになっている。自然豊かな環境で過ごすオランウータンたちの姿が見られるようなので、再訪しようと心に誓った。
その後も園内をあちこち巡りながら、アムールトラやユキヒョウ、アフリカゾウやインドサイを見た。動物の姿を見るのも楽しいし、たくさん歩いていい運動になった。
帰り際、出口近くのショップを覗いたらライオンバスをモチーフにした「チョロQ」が販売されていたので記念に買うことにした。部屋に飾ろう。
園を出て京王線に乗る。多摩動物公園駅と隣の高幡不動駅の間は「京王動物園線」という独立した路線となっていて、そこから先へは高幡不動駅で一度電車を降りて乗り継いでいくことになる。せっかくだからと思い、そのまま高幡不動駅の改札を出て散策してみることにした。
駅の南口を出てすぐ、若宮通りという小さな商店街があり、アーチが立っている。そこにはコアラの姿があり、これはきっと多摩動物公園が近いからだろう。「さっき見て来たんですよ。眠ってましたよ」と誰かに伝えたくなる。
高幡不動駅の駅名は、すぐ近くにある「高幡不動尊」に由来している。高幡不動尊は通称で、正式には高幡山明王院金剛寺という寺院である。駅から参道の商店街を歩くと5分ほどで立派な「仁王門」が見えてくる。
国の重要文化財にも指定されている仁王門は室町時代に建設されたもの(その後、1959年に改修されている)。その門を通った場所に立つ「不動堂」も室町時代の建物で、やはり重要文化財に指定されている。その本尊である「丈六不動三尊」は拝観時間が過ぎていて見ることができなかったがしかし、古くから今に残る貴重な建物をたくさん見ることができてありがたい。
高幡不動駅には「京王高幡ショッピングセンター」という大きな駅ビルが直結していて多くのショップや飲食店が入っている。整然とした駅前の雰囲気と、金剛寺周辺の昔ながらの商店との対比を感じながらしばらく散歩を続けていると、駅前のビルの地下にある『せきや』という居酒屋が営業を開始したようで、看板に明かりが灯った。
階段を降り、カウンターに座らせてもらう。家庭的な雰囲気のある、それでいて、手のかかった料理を食べさせてくれそうなお店である。生ビールを注文して飲むとすごく綺麗な味わいで、「これはいい店だ!」と思った。
ほうれん草とシラスを和えたお通しのおひたしも、焼いてもらったシイタケや鶏ナンコツの串も素材のよさを感じる味わい。いい店にたどり着き、今日はいい日だったなと改めて思う。ライオン園のライオンたちは今頃どうしているんだろうかと、ふと思う。
この店の店主は洋食の世界で修業を積んでこられたそうで、メニューの中にもグラタンやオムレツなどがあり、それがお寿司やお刺身と共存しているのが面白い。ポテトとベーコンのグラタンを締めの一品にいただき、満足して帰路についた。
「ライオンバス」詳細
取材・文・撮影=スズキナオ








