口の中に誠実で穏やかな後味が残る『高瀬煎餅店』
堅焼(中丸)
SENBEI DATA
直径:9㎝
厚さ:5㎜
食感:パリポリ
焼き加減:中ぐらい
醤油だれの具合:やや甘め/多め
生地の製造工程でとりわけ重視するのは「蒸籠(せいろ)蒸しと、そのあとの胴搗(どうづき)」。店主の髙瀬一也さんが言うには「米の風味が生き、またコシが出るので焼くと食感がパリッとする」そう。人気の中丸(ちゅうまる)は、厚みのある大丸に比べて歯触りが軽く、噛んでいるうちに米の甘みが醤油だれと合わさる。ホッとする味わいで、例えるなら、口数は少ないが会話好きで、誰に対しても丁寧に言葉を選ぶおじいちゃん。
『高瀬煎餅店』店舗詳細
香ばしさが際立つ硬派なバリカタ『小宮せんべい本舗』
沖の石かたやき
SENBEI DATA
直径:7㎝
厚さ:8㎜
食感:バリバリ
焼き加減:しっかり
醤油だれの具合:しょっぱめ/中ぐらいの量
かじりつくと、埼玉県産1等米の力強いうまみが舞い、焦げ目のキリッとした味がアクセントに。言うなれば、硬派な見た目のおじいちゃん。読書が好きで、実は多方面に好奇心旺盛だ。「うちは生地作りの工程で二度搗きします。キメ細かく歯切れの良いせんべいに仕上げるため」と5代目の菊地友成さん。「表面が波打っているのは、天日干ししてじっくり乾燥させている証し」のようで、押し瓦で平らにしながら、火力を強くした炭火の遠赤外線で焼いていく。
『小宮せんべい本舗』店舗詳細
「酒にも合う」と評判の凛とした味『元祖 源兵衛せんべい』
手焼き醤油せんべい
SENBEI DATA
直径:10㎝
厚さ:5㎜
食感:パリザク
焼き加減:しっかり
醤油だれの具合:しょっぱめ/やや多め
まず口中に広がるのは、濃口醤油の凛とした味わい。やがてその塩味とコクが、生地を蒸籠で蒸すことで生じる米の風味をはっきりと際立たせる。紀州備長炭を使い、時間をかけて火を入れることで中の空気を膨らませ、それによって独特の軽い歯応え、口溶けの良さを実現。なお、たれには砂糖など配合せずシンプルに醤油のみ。そこから連想したのは優しくて聞き上手な、ブレない芯のあるおばあちゃん。
『元祖 源兵衛せんべい』店舗詳細
醤油だれと米の朗らかな甘みが出合う『豊田屋』
特撰堅焼
SENBEI DATA
直径:10㎝
厚さ:8㎜
食感:ザクザク
焼き加減:中ぐらい
醤油だれの具合:やや甘め/中ぐらいの量
「食感は、生地の厚みや大きさはもちろん、製粉の粗さでも変わります」。また、焼く時の火力調整にもこだわり、3代目の息子・豊田浩史さんは「生地と対話しながら火入れを行う」のだという。特撰堅焼には近県のコシヒカリが使われ、噛むごとに醤油だれのほのかな甘みと、米の奥深い甘みがふわり。ふと、気のおけない友達とお茶をしながら、おしゃべりしているおばあちゃんが思い浮かんだ。
『豊田屋』店舗詳細
噛み締めるたびに米の香りが広がる『米重せんべい』
天日干し炭火手焼
SENBEI DATA
直径:9.5㎝
厚さ:5㎜
食感:バリボリ
焼き加減:ややしっかりめ
醤油だれの具合:ややしょっぱめ/中ぐらいの量
生地は蒸籠で蒸して杵搗(きねつ)きし、裏庭の干し場で天日干し。この道70年の3代目・岩立光央さんについて、次男の妻・千乃(ゆきの)さんは「雨雲レーダーよりも早く天気の変化に気づく」と尊敬を滲(にじ)ませる。気さくで話しやすい、にっこり笑顔の光央さんは、天日干し炭火手焼を食べたときの優しい印象と似ている。「厚みが均一じゃないのは炭火ならでは。膨らんだ部分が香ばしくって好きって人もいますよ」。
『米重せんべい』店舗詳細
出汁が香る甘じょっぱい個性派『ほりゐ』
押焼草加煎餅
SENBEI DATA
直径:9㎝
厚さ:7㎜
食感:バリボリ
焼き加減:中ぐらい
醤油だれの具合:甘め/中ぐらいの量
押焼草加煎餅の一番の特徴は、甘めの醤油だれ。カツオや昆布のエキス、酵母エキスも配合され、頬張ると出汁の香りがゆっくりと鼻に抜ける。そこで想像するのは、おっとりしたおばあちゃん。編み物が得意で手編みのニットを着ているイメージだ。原料の米は、埼玉県吉川市産のコシヒカリを使用。生地から作ることでフレーバーも追加しやすく、店頭にはフルーツ味などアイデア商品も並ぶ。
『ほりゐ』店舗詳細
草加で生まれた愛され郷土菓子
昭和生まれの筆者は、子供の頃、テレビアニメの一場面に目を見張った。おばあちゃんがこたつでバリボリと大きな音をたてて何かを食べている。せんべいだと言うが、地元の北海道にあるのはサラダせんべいや南部せんべいで、そんな音が出るはずなく。大人に聞くとせんべいにも種類があり、関西では小麦粉から作られる瓦せんべいが主流だとか。いったんは納得したが、バリボリの理由は判明せず……。謎は謎のまま残った。
上京して初めて関東のせんべいを食べた時には、思わず「硬っ!」と声が出た。せんべい店を見かけるたびに立ち寄るようになると、やがて、東京の西側には専門店が少なく、東側、特に足立区に多いと分かった。あるとき訪れた店の主が「草加から生地を仕入れています」と教えてくれ、そこで草加せんべいを知ったのだった。
草加駅で降り、まずは東口でおせんさん像にあいさつ。昔々日光街道の草加宿で茶屋を営んでいた人で、売れ残りの団子をせんべいにリメイクして売ったところ評判となり、これが草加せんべいのルーツらしい。なんて、これはあくまで昔話で、実際には農家が米を蒸して団子にしたものを、薄くして干し、保存食とした。これが本当。
当時は生地に塩が練り込まれていたので「塩せんべい」と呼ばれ、幕末に千葉県の野田から醤油が入ってきて今の形になった。江戸時代には、主に小間物屋でせんべいが売られ、明治時代後半にいよいよ専門店が登場。
草加せんべい振興協議会会長・鈴木康弘さんによると「草加せんべいの名前が広まったのは、大正時代」。川越で陸軍特別大演習が行われた際、『元祖源兵衛せんべい』の2代目が拵(こしら)えたせんべいが、埼玉県の名産品として大正天皇に献上されたのがきっかけだ。
昭和に入り鉄道が発達すると、ターミナル駅の催事などにも並び、全国区に。2006年には「本場の本物」のルール(①草加、八潮、川口、越谷で製造する。②関東近県で収穫された良質なうるち米を使うこと。③最低10年経験を積んだ職人「草加伝統産業技士」が製造。④押し瓦での堅焼き。または同方式を取り入れた堅焼き)が整えられ、品質を守る努力が行われるようになった。
なお草加せんべいの伝統的な製法は、最初に、洗ったうるち米を製粉し、熱湯を加えて練る。粘りが出たら丸めて蒸籠で蒸し、水に入れてアクを取り、杵(きね)で搗く。それを薄く伸ばして型抜きし、天日干しして乾燥。生地を作るだけでも1週間以上かかり、大変だと心底思う。続いて、乾燥した生地を温めてさらに水分を飛ばしたら、焼き台の上で押し瓦を使って平らにしながら焼く。最後に醤油を塗ってようやく完成。現在では機械化されている工程も多いが、やはり職人の手が欠かせない。
関東のせんべいは草加がルーツ?
都内では生地から作る店はもうだいぶ少ないが、草加だと冒頭で紹介した6軒を含め、まだ何軒も健在。都内に生地を卸している店もあり、卸専門の生地屋(仕入れた生地を焼いて売る「焼き屋」に対してこう呼ばれる)もあるという。そのことからも、関東のせんべいは草加がルーツと言えるのではないか。
「昔は都内まで自転車で配達していたそうですよ。若いのが行くんだけど、御駄賃もらえるからみんな行きたがったらしい。通り道の浅草で飲むのが楽しかったんだって」と、『米重せんべい』の岩立光央さん。
店ごとに、草加せんべいの定義は少しずつ異なる。「自分はよその店のせんべいも食べます。みんな個性的だし、それぞれにファンがいます」と、『豊田屋』の豊田浩史さんはにっこり。町会イベントでは、各店舗のせんべいを集めて利きせんべい大会を開くことも。草加せんべい振興協議会の鈴木会長の言葉を借りるなら、「みんなの草加せんべい愛が強い」。これが続く限り、この街からせんべい店はなくならないはずだ。
鈴木さんの店『大馬屋』にも立ち寄ろう!
『大馬屋 アコス店』
東武鉄道東武アーバンパークライン草加駅から徒歩2分。
10:00~20:30、不定。
埼玉県草加市高砂2-7-1 アコス南館1F
☎048-922-2461
取材・文=信藤舞子 撮影=井上洋平 イラスト=中島理菜(編集部)
『散歩の達人』2026年3月号より







