夜カフェとしてスタート。にぎやかな駅前の静かな寄り道スポット
『three』は、カウンターに8人と、テラスに1組3人が座れる小さなお店。3階建てのビルの最上階にあって、急な階段を上った先にある。お店に2つある窓からは高円寺駅のホームが見えるという、まるで屋根裏部屋のようなとっておきの空間だ。
開業時は、夜だけのカフェとしてスタートした。今も帰りに寄ってほしいと、木・金・土は19時台の休憩を挟んで、ラストオーダーが22時30分だ。夜は一層ザワザワする高円寺の駅前で、静かな寄り道スポットは貴重だろう。ゆっくり本を読みながら滞在する人も多い。
メニューを見ると、「本日の紅茶900円 お好みに合わせてご提案します」と書かれていて、具体的なお茶の名前は書かれていない。“紅茶”としているが、緑茶をベースにしたブレンドティーやハーブティー、夜に飲むのにふさわしいカフェインレスのお茶も複数用意されている。
その日の気分に合わせて、スタッフがおすすめをセレクト
ダージリンやアールグレイなど、有名な種類の名前なら思いつくし、注文するためのヒントも書かれている。しかし、改めて「お好みを」と問われると、いい言葉が出てこない。
「なんでも大丈夫です。迷っている方には、私のおすすめを2、3種類紹介して、香りを嗅いで決めてもらうこともあります」と店主の滝沢(たきざわ)さん。
中には、大喜利か謎かけのようなリクエストをする常連客もいるそうだ。「今読んでいる本や、好きなアーティストの写真からイメージしてほしいとか、むしゃくしゃすることがあったからその気持ちに沿ったものとか、難題をいただくこともあります」と滝沢さん。
同じようなリクエストでも、対応するスタッフごとに提案するお茶が異なるのも『three』の魅力だ。リクエストを投げかける側も、今日はどんなお茶と出合えるか、スタッフさんの解釈も含めて楽しんでいるに違いない。
「冬に明るい気持ちになるお茶はありますか」と投げかけてみた。滝沢さんは頼もしい表情でうなずいてから、苦手な味はあるか、好きな香りはどんなものかなどを確認。しばらくして4つのフレーバードティーが目の前に置かれ、ブランドと茶葉の名前、何が入っているかなど短く的確に話してくれた。
スパイスや柑橘の香りがするクリスマスティーや、ハーブが入ったもの、冬に旬を迎えるユズが加えられたものなど、キーワードや好みの香りといった複数の視点で選択されている意外性もおもしろい。
4つの茶葉から「TEAPOND(ティーポンド)」というブランドの「スリーピーキャット」というかわいらしい名前のお茶を選んで淹れてもらった。ミルクティーにするとおいしいと勧められたので、プラス100円でミルクもつけてもらう。
暖かそうなティーコジーに包まれたティーポットにはたっぷりのお茶。砂糖漬けにしたジンジャーやシナモンが入っているので、飲んでいるうちに体がどんどん温まる。
バーでの経験を投影。その人のための一杯を
お茶に合うスイーツをと、スコーンなどの焼き菓子を毎日焼いて用意している。また、軽い食事ができるようにとパスタも常時2種類ある。
店主の滝沢さんは実は舞台などのヘアメイクアーティストとしての顔も持つ。その傍ら、苦手意識を持つコミュニケーション力を養うためにバーで働いていた経験もあるのだという。「例えばジントニックにしても、ジンもいろいろ。あとくちや、アルコールの強さなど、好みを聞くと、その人のための一杯になります」と、バーで行われる目の前の人に向けたサービスに魅力を感じていた。
自分の店を持つことになり、そこでカクテルではなくお茶を出すことにしたのは、お酒を飲まない人も含めた幅広い層に提供できると考えたから。紅茶や緑茶だけでなく、ハーブやスパイスをブレンドしたものなど、さまざまな種類があることも、その人のための一杯を出したいという考えにフィットしていた。
現在『three』では国内外のさまざまなティーブランドが出すお茶を取り揃えている。入れ替わりもあるが、常時100種類ほどはあるという。いつ訪れてもその日の自分に合ったお茶と出合えそうだ。
取材・文・撮影=野崎さおり







