【案内人】HOT WIRE GROUP代表 佐久間ヒロコさん
高円寺を中心にイベント制作などを行う。音楽はじめ高円寺カルチャーの話題がぎっしり詰まったフリーペーパー『SHOW-OFF』を2000年に創刊し、2025年12月には100号を刊行。高円寺フェスの実行委員長も務める。
幾多の伝説を生み出した由緒あるステージ『JIROKICHI』
店長の金井貴弥さんは、若くしてブルースに魅せられて、このライブハウスにどっぷりハマった一人。今年50年目を迎えた老舗の歴史を、こう語る。「ジャズの大御所、渡辺貞夫さんに、山下達郎さんのバンド、シュガー・ベイブなど開店当初から有名ミュージシャンが出演してくれて、今も多くの人に愛されています」。プロが心置きなく好きな音楽を奏でられる『JIROKICHI』では、毎日、奇跡的な瞬間と、音が生まれている。
料理もムードも沖縄そのもの!ライブも人気の店『抱瓶(だちびん)』
創業1978年の沖縄料理店『抱瓶』では頻繁にライブが行われ、渋さ知らズなど有名バンドも出演する。ブッキング担当はギター小僧で気づけば客から店員になっていたという、華村灰太郎さんだ。「毎年、みんなで沖縄に研修に行く。民謡も盛んで音楽と街が密接しているんです」。なるほど、沖縄の雰囲気が詰まった店は、音楽との相性も抜群。料理も雰囲気も最高だ。
高円寺×ジャカルタ。新しい音楽文化が爆誕『SUB STORE Tokyo』
バリ島で一緒に働いていたというアンディさん、久実さん夫妻が2016年に開いたカフェバー。インドネシア料理が売りの店だけどレコードを売っているし、DJブースやイベントスペースまである。「フェスに出演したアーティストがこっそり来て演奏することもあります」と二人が話すように、世界中の音楽が店に鳴り響いている。
追憶、発見、そして癒やし。昭和歌謡にどっぷり浸る『Blue on Velvet』
昭和歌謡バー『Blue on Velvet』にはルールがある。(1)お酒を1杯頼むとレコードで2曲かけてもらえる。(2)1985年までの歌謡曲が対象。(3)リストから選ぶのではなくメモに手書き。「リクエストされた曲の盤がなかったら後日、探して買います」と店主・桑原康行さんのストイックな姿勢が店を支えてきた。英国製スピーカーで聴く懐メロが、今宵も胸にしみる。
その日かけてもらった1枚
安藤昇『血と命』
1973年のやくざ映画『やくざと抗争 実録安藤組』の主題歌。主人公を演じた俳優で歌手の安藤昇の渋い声にときめく。
高円寺と歴史を刻んできた老舗ライブバーで音に酔う『稲生座』
2025年に47年目を迎えたライブバーはギタリスト柴田浩志さんが作った店で、実家の映画館の名を継いだそう。柴田さんは18年前に亡くなってしまったが、妻のエミさんらスタッフが歴史を今に紡ぐ。「娯楽の殿堂」というキャッチコピーに相応しく、ロック、フォーク、ブルース、なんでもあり。出演者は募集したことがないが口コミで広がり、常にスケジュールはびっしりだ。今日も誰かの魂が燃えている。
どんな音楽をも包み込む優しい街
音楽への包容力がある。そして、異常なまでの愛がある。それが高円寺だ。1972年、吉田拓郎の名曲「高円寺」が誕生。フォーク好きの聖地となり、その後はブルース、パンク、ロックの街としてバンドマン憧れの街に。今はアイドル文化が浸透しているし、ハウス、テクノが聴ける店も多い。この街にはあらゆる音楽が流れ続けているのだ。
まず足を向けたいのは『JIROKICHI』、高円寺カルチャーに精通した佐久間ヒロコさんいわく「高円寺の音楽を語るうえで欠かせない店」だ。店長の金井貴弥さんは「70年代にまず大阪・京都でブルースブームがありました。関西ミュージシャンが東京で活動する場所として早くから注目を浴びたんです」と話す。時代の波にもうまく乗り、高円寺は音楽タウンとして進化を遂げていったのだ。
80年代を振り返るのは高円寺の名物店『抱瓶』の華村灰太郎さん。「当時はギターを持っている人がたくさんいたし、バンドマン出禁の店なんかもあったんですよ」。パンク全盛期を知る彼の言葉からは、高円寺=音楽の方程式が色濃くなった時代背景がしっかり見えてくる。
そして時代も国境も超え、音楽が楽しめるのが高円寺の面白いところ。レコードの“えさ箱”、DJブースがあるカフェ『SUB STORE Tokyo』はまさに多国籍音楽空間だ。「日本人より外国人率が高い日もあります」と店主夫妻。高円寺らしい「ごちゃまぜ感」を経験できる。
レコードというと『Blue on Velvet』も外せない。昭和歌謡の当時盤の音を味わえる。「高円寺は意外と歌謡曲との相性もいい」と佐久間さんが話すように、高円寺感も高いこの店で聴く昭和の名曲はグッとくる。
最後に訪れるのは北口から早稲田通り方面に歩いたビルの一室、『稲生座』だ。毎夜、人に伝えたい“何か”を持つ音楽家がステージを務める。取材日に出演していたソンコ・マージュさんは「この店がなかったら俺は生きてないよ」とひと言。音質はもちろん、優しい空間、スタッフ。愛され続ける店には理由がある。「パンクやロックブームのずっと前から続いている。こういう場所があることが高円寺らしいですよね。本当に深い音楽好きが集まってくるんです」と、佐久間さんは話す。
いくら語っても語りきれない、それが音楽の街、高円寺。この街では、常にどこかで、最高の音楽が鳴り響いている。
取材・文=半澤則吉 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2025年10月号より







