【案内人】株式会社はうてん代表取締役 nicoさん
ドラマーとして演奏活動を行いつつ、2017年に『晩酌屋まぼねん』を下北沢で開店。さらに『おむかい』『まちなか』『こうえん』など計4軒の飲食店を構え、今年は自身のコミュニティ向けに不動産会社「HAUHAUS」も設立。
毎夜繰り広げられるジャンルレスな音の宴『CREAM』
地下1階はドンッ、ドンッとウーファーの重低音が響くDJスペースで、1階はスタンティングバー。2階にはバンド機材一式が揃っているのでライブもでき、キッチンがある3階ではフード付きのDJイベントが開かれることも。フロアごとに異なる企画が同時開催され、興味のあるイベントにチャージを払えば、あとは自由に行き来できる。クロスオーバーに音楽を楽しむとは、まさにこのこと。
いい音楽とうまいお酒、居合わせた人々に乾杯!『飲み屋 えるえふる』
環七沿いの飲み屋とレコード屋が一つになった空間。店主の辻友貴さんが運営するレーベル「LIKE A FOOL RECORD」から頭文字を取り、店名に。ハードコアやエモ、インディーロックを扱いながら、自身もオルタナティヴロックバンド「cinema staff」でギターを担当。海外のバンドがライブの打ち上げに使い、壁に残していったサインも必見。
心身をゆるやかに満たすグッドミュージック『Jazzy Sport Shimokitazawa』
「最近のダンスミュージックでは、ヒップホップの流れを汲んだニュージャズも人気です」とマネージャーの泉さん。店内には厳選されたヒップホップやジャズ、ダンスミュージックのレコードが並ぶ。2002年に盛岡、2003年に東京で開店し、東京2号店となった下北沢店ではダンススタジオを併設。レッスンも定期開催し、ダンスカルチャーとより密接に結びつく。
/アクセス:京王電鉄井の頭線・小田急電鉄小田原線下北沢駅から徒歩1分
音楽を聴きながらカレーを待つのもいい『茄子おやじ』
下北沢が「カレーの街」と呼ばれるよりずっと前、1990年に創業。常連客の中には音楽活動をする人も多く、2017年に店を引き継いだ現店主の西村伸也さんもその一人だった。代が替わってから店のオーディオセットを一新し、BGMをアナログレコードに。「レコードに針を落とすひと手間と、3日かけてカレーを仕込む手間隙は似ている気がします」。
落ち着いて音楽に身を委ねるひととき『440』
ステージで演奏される音楽は、フォーク、ロック、ポップスなどのアコースティックサウンドが中心。同ビルの地下にある老舗『CLUB251』の系列店で、2002年に開業した。カクテルが充実した着席スタイルのライブバーでもあり、ライブのないランチタイムは近隣住民御用達のカフェ『PUB440』に(平日11時30分〜15時30分)。ライブの詳細は公式HP(440.tokyo/)を確認。
多様性を含みつつ日常と地続きの音楽
「徒歩で回れる狭さも下北沢の魅力」と話すのは、『Jazzy Sport Shimokitazawa』の泉さん。狭い中に音楽だけでなく、演劇、古着などさまざまな文化がギュギュッと混在し、影響し合うことで独自のサブカルチャーを生んでいる。飲食店ではライブ前のバンドマンが腹ごしらえをしていたり、レコード屋の袋を提げて入ってきて、ジョッキ片手に戦利品を見せ合い、互いの豊作ぶりを称え合う人たちの姿も。普段着で音楽を楽しめる、そんな空気が街中に満ちている。
地下1階から地上3階まで、フロアごとに異なるイベントを開催する『CREAM』では、ハウスやインディーロック、ヒップホップ、またはアイドルなど、他ジャンルが重なる日もしばしば。店長のみしゅさんが言うには、「サブスク世代はジャンル関係なく聴く人が多いですね。それに、違うジャンルでもルーツは一緒ということがあるので、いつのまにかお客さん同士が仲よくなっていたりします」。
2025年8月に10周年を迎えた『えるえふる』でも、同じような人間模様が繰り広げられているようで、「駅と家の間にちょうどうちの店があるのか、ふらっと寄ってくれるんです」とオーナーの辻さん。ほろ酔いなのも手伝って音楽談義にも余計に花が咲くし、やっぱりまだ帰りたくないなあ〜、なんてこともあるに違いない。仕事着のまま「1杯だけ」と立ち寄って、つい盛り上がってしまうパターン。「もう一軒行く?」も、徒歩圏内に多くのスポットが集まる下北沢ならアリだ。
ちなみに、下北沢は住宅地が占める割合も広く、日中は意外と生活感が漂う。そのせいかこの街では、音楽は特別なものという側面を持ちつつも、日常と地続きになっているようにも感じる。『Jazzy Sport Shimokitazawa』のダンス教室では、親たちが見守る中、キッズダンサーたちが練習に励んでいるという。そういえば、『茄子おやじ』のカレーはスパイシーさの中に実家のカレーにも似た甘さがあって、そこに温もりのあるレコードの音が相まってホッとするのだ。
『440』のガラス窓から店内をのぞくとステージが見える。チケットが取れなかったけど音漏れを目当てにとりあえず来てみたという人もいて、「近隣の迷惑にならない程度にわざと窓を少し開けることもあります」と、店長の高塚謙一さんはにっこり。店先に佇み、耳を澄ませている人々。これもまた下北沢らしい景色。
取材・文=信藤舞子 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2025年10月号より







