プリンスジュン

二宮をこよなく愛するスーパーナルシスト。町内イベントに出没し、街の魅力をブログやインスタで発信。普段は仮の姿・宮戸淳として『太平洋不動産』の店長を務める。

相模湾や富士山を見渡す天空の頂「吾妻山公園 展望台」

吾妻山公園 展望台の芝生広場はケヤキの大樹がシンボリックだ。
吾妻山公園 展望台の芝生広場はケヤキの大樹がシンボリックだ。

メジャーな登山口は駅北口から徒歩5分。木陰の山道を登れば、標高136.2mの山頂はすぐそこだ。二宮っ子が愛してやまぬ絶景スポットで、相模湾の海岸線が伊豆半島へ延び、丹沢山系、富士山をも一望する大パノラマが胸をすく。春の菜の花、初夏のアジサイ、初秋のコスモスなど、季節の花とのコントラストも美しい。登山口は3カ所あり、南斜面に鎮座する吾妻神社など、見どころも点在。

路地に潜むDIY店は整体と蒸しパンの二刀流『だいちや』

おやつにおかずパン、季節限定など種類豊富。
おやつにおかずパン、季節限定など種類豊富。

夫妻揃って整体師の大出友晃さん・香織さんが1年半かけて民家を改装。廃材を活用したクラフト感が居心地いい。また、国産小麦を天然酵母でゆっくり発酵させた生地が自慢の蒸しパン110円〜のファンも多い。素朴な味わいでむっちりもちもち。

10:00~17:00(整体は〜19:00受付。蒸しパンは売り切れ次第終了)、日・月・火休。
☎0463-71-7113

湘南の自然をアーティスティックに味わう『自然・偶然』

ハーブとエディブルフラワーの素敵な空間。
ハーブとエディブルフラワーの素敵な空間。

移住を機に店主の二井矢優太さんは花とハーブの自家栽培を始めた。ヤグルマギク830円〜を散らせば皿が華やかになり、フェンネル330円〜やカモミール550円〜のハーブティーに心が和む。また、妻の春菜さんはシルクスクリーン作家でワークショップも不定期開催。風を感じる植物柄の雑貨が素敵だ。

水・土・日の11〜18時営業。

町で唯一現存する木造のレトロ橋「仮宿橋」

「橋を通るたび心がワクワク躍ります」。
「橋を通るたび心がワクワク躍ります」。

路地の先で、人一人が通れるほどの幅しかない木造の橋に冒険心がくすぐられる。橋下を流れる清流は、地元民の活動の賜物で、コイが泳ぎ、サギが舞う。橋の真ん中で川向こうを見れば、富士山もひょっこり顔を出す。

週末の夜だけ開く、魅惑の蔵スナック『満樂蔵(みらくら)-まり子のスナック-』

「ここで居合わせた人との会話も楽しみ」。
「ここで居合わせた人との会話も楽しみ」。

江戸末期の蔵のたたずまいにひと目ぼれ。「素敵な場所が見つかったらスナックを」と淡く思い描いていたまり子さんが大家さんに掛け合い、2023年に開業した。自家栽培の野菜に加え、地元農家さんを援農したりして仕入れた食材は、おばんざいや果実シロップとなって供される。酒を傾け、料理をつまみ、着物姿のまり子さんを介して会話も弾む。

金・土の18 〜24時営業。
☎070-4436-2535

地元・二宮を心から愛するプリンスジュン

子供から年配者まで、二宮町で知らぬ者はいない町内きっての有名人、それがプリンスジュンだ。かくいう地元が二宮町の新人編集の小野は「ずっとお目にかかりたくて」と瞳を潤ませている。

ということで、執務室「太平洋不動産」を訪ねると、仕立てのいい海色のジャケット、ゴールドパンツを優雅に着こなし、一輪のバラを携えた、紛れもないプリンスが出迎えた。

「吾妻山公園 展望台からの絶景は町の誇り。二宮は私の庭です!」。
「吾妻山公園 展望台からの絶景は町の誇り。二宮は私の庭です!」。
「太平洋不動産」の駐車場には「Area8.5」プロジェクトの壁画も。2年前のアートフェスで描かれたものだ。
「太平洋不動産」の駐車場には「Area8.5」プロジェクトの壁画も。2年前のアートフェスで描かれたものだ。

「学生時代からプリンスって呼ばれていました。なぜかは、分かりませんが(笑)」

そんな彼に町の魅力を尋ねると「日常の中に美しい自然の風景がたくさん溶け込んでいるところですね。それはとても、スペシャルなことです」とたおやかに微笑んだ。

聞けばプリンスは生粋の二宮っ子で、少年時代から町中を探検。海に入って朝、目を覚まし、吾妻山に駆け上り、ふれあい農園でサワガニを捕まえ、仮宿橋に胸躍らせ、秋葉神社麓から町越しの海に見ほれたという。

「子供ながらに二宮ってサイコーだなって思ってました」

進学を機に町を離れたものの10年後に帰還。日々の執務に追われる中、ブログのリニューアルを機に、二宮の日常の素晴らしさを伝えることにしたという。

決意を新たにさせたクリエーターたちとの出会い

「ほんの10年前までは、カフェもマルシェもありませんでした」という二宮に変化の風が吹いたのは2014年のこと。プリンスは『Boulangerie Yamashita(ブーランジェリー ヤマシタ)』がきっかけだと話す。

「元美容室のボロボロの建物を、古さを生かして素敵に改装したパン屋がオープンしたんです。しかも、ギャラリーや演奏会などを催し、外から目指して訪れる方が増えました」

湘南エリアで密かに注目され、『e:n coffee』や『満樂蔵』は店主が古家の持ち主に直談判して開業。プリンスは空き家を活用したいと望む声に応え、日々勤しむ不動産業の強みを生かして町をデザイン。カフェ『のうてんき』と量り売り店『ふたは』が近い場所にあるのは、オーガニック好きが回遊できるように彼が場所を薦めたからだ。

物件探しの折にプリンスに出会った『だいちや』の大出夫妻は「プリンスは物件案内という名の二宮案内で、素敵な場所を教えてくれるんです。その上、親睦会も開いてくれて、町に知り合いのいない僕らは大いに助かりました」と懐かしむ。

プリンスも、気が合うだろうなと思うと、「コミュニティーに誘ってみるんです。二宮暮らしを心から楽しんでいただきたいですからね」と、移住者と地元をつなぐ役割も担っている様子。

『満樂蔵』まり子さんとプリンスジュン。
『満樂蔵』まり子さんとプリンスジュン。

ちなみに、いくつか店を巡ると、店主たちは一見、個性的だが、おっとりした風情と人懐っこさで親しみ深い人ばかり。

「そもそも町民性が平和的で穏やかで、寛容。移住された方もそんな気質の方が多いですね」

そんな、クリエーターたちによるマルシェは住民たちに大いに歓迎され、定着。コロナ禍を経て、東京大学果樹園跡地の『みらいはらっぱ』に場を移し、第1土曜に開催している。

「二宮の今を知るトークセッションもあって、二宮らしさを存分に感じられますよ」

活動を追いきれなくなったとうれしい悲鳴を上げるプリンスだが、今後は最新情報のみならず、歴史にも目を向け、町を深掘りしていけたらと目を輝かす。

「でも、二宮はメジャーじゃなくていいんです。まったりした雰囲気こそ、二宮ですから」

住所:神奈川県中郡二宮町二宮167-3/営業時間:9:30~18:30/定休日:火・水/アクセス:JR東海道線二宮駅から徒歩3分

取材・文=林 さゆり 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2025年7月号より