そもそも私は“学校”そのものが大好きで、小中高ともほぼ無遅刻無欠席。小学校5年の頃に初めてインフルエンザに罹ったが普通に学校へ行こうとしたのも止められたし、中学と高校は県内でも悪名高き学校で有名で、リアル『ビー・バップ・ハイスクール』状態だったが、ヤンキーに一切絡まれることなく楽しく学校へ通うほど大好きだった。

とにかく、あの雰囲気がいい。広くて無機質な建物の中に、大勢の人の温もりがある。そこでは友達、恋愛、スポーツ、ちょっとワルイ思い出……ここでしか得られない、独特なドラマが校舎の隅々からあふれ出てくるようだ。それを感じるために、大人になってからも大学の文化祭や友人の子供の学校イベントなんかには、なるべく参加させてもらっている。

そんな大好きな学校のひとつである“大学”に行かなかったこと、「これやっときゃよかったな~」以外の何物でもない。「今からでも行けばいいじゃないか」とよく言われるが、さすがにこの歳で、ましてや昼間っから酒ばかり飲んでいるオジサンが通えるとは思えず……どうやったって、後悔しかないのである。

駒澤大学の最寄り駅である田園都市線「駒沢大学」へやってきた。理由はもちろん大学への通学……といいたいところだが、理由は酒場。“通酒場”とでもいおうか、大学に行かなかったオジサンは、日本中の酒場を目指して通酒場しているのだ。

そんな馬鹿なことを言っている間に……おや、酒場が見えてきた。

ここが駒澤大学の徒歩圏内にある『舟よし』である。くううっ! 素敵(すてき)な容姿をしている。モルタル2階建てと、一見洋風な青い瓦屋根とレンガ調の外壁がいい。

そこへ大きな扇型の電気看板に“舟よし”と大書され、シブいはシブいが、どことなく瀟洒(しょうしゃ)な雰囲気を醸し出している。

店先には手書きでビッチリと記された定食メニュー。きっと昼時には大学生でにぎわうのだろう。私も心は大学生の気分で、藍暖簾(のれん)を割って中へ入った。

広いっ! 中へ入ると天井が高めの20畳ほどの広い空間にテーブルがズラリ。気持ち程度のカウンター席と、奥には掘りごたつ式の小上がりがグンと延びている。

どれもこれも、香ばしいテーブルとイスと座布団……いいですねえ。それらがしっかりと拝める、ちょうど真ん中に酒座を決める。酒座を決めたら、素早く酒をいただこう。

キリンラガーの茶光瓶から、グラスに麦汁を注ぎ散らかし——ぐびりっ……ぐびりっ……ぐびりっ……、おっほ、思わず口の中が大学生ヤングの如く、ツルテカと潤ったじゃありませんか。この流れ、絶対に料理もイケてるはずなので、さっそく料理をいただこう。

さりげなくやってきたのが、大好物「肉じゃが」である。ゴツめの器に、じゃがいも、豚バラ、玉ねぎ、糸コンのシンプル仕立て。ほほお、ニンジンを入れないタイプ。正直に言うと、肉じゃがにニンジンは入ってなくていい。彩りはよくなるだろうが、穀物的なうまさはじゃがいもオンリーで十分なのだ。

こんもりとしたじゃがいもと、干し肉のような豚バラのマッチング。肉じゃがってのは、絶対的にコレが正解なんだよなあ。

続いて「刺身盛り合わせ」が登場した。マグロ、イカ、ハマチ、タコ、ヒラメで1500円ですって? とろりと半溶けのマグロの旨味、シッコシコのイカとタコが歯ごたえ十分。

ハマチは引火するほどの脂たっぷりで、ヒラメは歯でこそぎ取るように旨味を体内に流し込む。醤油なんかいらない、品数、鮮度、金額、圧倒的なちょうどよさである。

お店的には好ましくないが、この広い空間にほとんど他に客がいない感じで飲(や)れるのが最高。

まあ、これはあくまで作り話なのだが、私が20歳の時に当時付き合っていた短大生の彼女がいて、何度かその短大の授業についていった。彼女の隣にしれっと座り授業を受けていたが、私の反対に座っていた女学生と仲良くなり、3人で“イラストしりとり”をしたのが楽しかった。やっぱり学校っていいなあ。まあ、完全に作り話なのだが……。

刺身がこれだけうまいならと「赤貝刺身」を追加する。だってね、世田谷の大都会の大衆酒場に赤貝があるんですよ?

「コリッカリッ!」とした赤貝の食感たるや、貝の旨味のサブスク解禁状態! じわあっとした貝のエキスが口中に広がり、ガムのようにいつまでも咀嚼していたい。誰が考えたのか知らんが、赤貝刺身は最高でしかない。

これが好きなんだなあ……。単品の「とんかつ」が遅れてやってきた。全然気取っていない、このビジュアルがタマラナイ。

ソースをたっぷりかけて、かぶりつく。うまい、ぎゅっと締まったロース肉と薄めの衣とソースのマッチングがいい。衣がサクサクとか、肉厚ジューシーはとんかつメインで食べに来たときにはうれしいが、飲んでいるときにさりげなく出されるこんな感じのとんかつが大好きだ。

「——でさぁ……」

「——なんだよね、ふふふ」

時刻は17時半くらい。すこーし、外は明るく、うっすらと他の客の声が聴こえるような、そんな穏やかな空間。「グビッ」とグラスのビールをススって、ちょっと広めの店内の片隅で、人知れず酒を飲んで……ああ、これだこれ。少なくとも、今までの人生で「ここに来ておいてよかったなあ」というのは、達成された。

それにしたって、駒澤大学生はいいなあ。昼は定食、夜はサークルの打ち上げでここへ来れちゃうという。

そんな中、いつも通り私の妄想は止まらない。文学、経済、経営、スポーツどの学部に入ろうかと、とんかつを噛みながら想像するのだ。

あっ、“酒文化学部”なんてあったら間違いなく受験を……いいや、推薦入学を目指そう。そこを首席で卒業するのが、これからの目標だ。

舟よし(ふなよし)

住所: 東京都世田谷区弦巻2-22-15
TEL: 03-3706-3179
営業時間: 16:30~22:00
定休日: 水・日・祝
※文章や写真は著者が取材をした当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。

取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)