焙煎機を置くために……。2年かかった物件探し
店内に入ってすぐ目に入るのは、ぎらりと光る大きな焙煎機。自家焙煎であることを強く主張する。
カフェで3年、焙煎士として3年の修業を積んできた店主の前田さん。もちろん狙いは自家焙煎できる喫茶店のオープン、だったのだが……
「焙煎機を置ける場所って、ぜんぜんないんですよ」
まず、焙煎機を置くためには煙突が必要だ。煙突をつけられる物件はかなり限られるうえ、焙煎機から流れる煙も不動産屋には嫌われるらしい。ようやくこの物件が見つかったときには、すでに2年が経っていた。
手間もお金もかかるけど、やっぱりネルドリップがおいしい
メインはネルドリップに向いている深煎り。いつでも新鮮な豆を使えるところが自家焙煎のメリットだ。ネルドリップはペーパードリップに比べ1.5倍くらい豆が必要だし、ネルを洗う手間もかかる。「それでもネルドリップがおいしいから、ここにはこだわりたい」と前田さんは話す。
強くいい香りが店内に広がった。深く煎られた豆は重厚で味わい深い。極上のコーヒーだから、コーヒーと向き合うように静かにゆっくりと楽しみたい。
自分のコーヒーに合うものは自分で作る
評判のチーズケーキも自家製だ。重厚なコーヒーに合わせて、濃厚なチーズと甘みがちょうどいい。このほか、月ごとに変わるスイーツも前田さんが作る。
「店で出すものだから、できるだけ自分で作ろうと思って」。コーヒーもスイーツも前田ワールド全開だ。
コーヒーを楽しんでもらうことに、ものすごく真面目な人だと思った。
荻窪の内外で“豆ファン”増加中
『A bientot』の豆は決して安くない。駅から離れていることもあって、はじめはお客さんも少なかったという。それでも、お店の個性である「自家焙煎」と「ネルドリップ」をしっかり守ってきた。時間はかかったが、徐々に地元のお客さんも増え、高くてもおいしい豆がほしいという声から、現在はオンラインでの直送販売も行っている。
「ゆっくりだけど成長を見守ってもらえれば」
この日も常連さんが多く訪れ、前田さんに「またくるね」と声を掛けていた。ゆっくりだけど着実にファンが増えていく店だと思った。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ