店舗所在地は、鎌倉・浄妙寺境内。 お寺を拝観しながら入り口を探そう
金沢街道から路地を入ると、鎌倉五山の第五位である「浄妙寺」の門が見えてくる。不思議なことに『石窯ガーデンテラス』はこのお寺の境内にある。拝観受付を済ませたら、探索開始だ。
本堂や茶室、日本庭園などを眺めつつ、お寺の奥へ……
本当にここでいいのかなと半信半疑でいると、苔むす階段の上にシックな看板を見つけた。
坂を登るにつれ和から洋へと一変する雰囲気は、別世界に迷い込んでしまったかのようだ。
小高い丘の上にひっそりと建つ洋館が『石窯ガーデンテラス』だ。大正11年(1922)に建てられた旧貴族院議員邸であり、2000年に浄妙寺の寺領として返還された後、内部を店舗に改装したという。
アプローチの段階から、散歩好きの心を鷲掴みにする素敵なお店だ。
廃墟から楽園へ。歴史ある洋館に命を吹き込む人のぬくもりとスコティッシュガーデン
出迎えてくれたのは、浄妙寺住職の奥様で、このお店のオーナーでもある甲賀さん(写真右)と、長年勤めるスタッフの皆さんだ。
店内には暖炉やステンドグラスなど大正時代の名残も見られるが、内装はモダンでおしゃれ。歴史的建造物というよりは、今も誰かが住む屋敷のようだ。
返還された当時は、誰も住んでいないこの建物がどこか寂しそうに見えた、と甲賀さんは語る。住職の奥様がお店の開業を決意したのは、この建物を甦らせ、世に残したいと願ったからだった。
お店の代名詞でもある美しいガーデンは、住職夫妻が庭造りの勉強をするなかで出会ったスコットランド人ガーデナー、ニコラス・レナハン氏によるものだ。
夫妻の思いに共感したニコラスは、荒れていたこの庭を、元々あった梅や藤などを活かしつつ洋館にもぴったりと合うガーデンへと生まれ変わらせた。小道を散策すれば、アジサイやツワブキといった日本庭園にもあるような植物が、洋風の植物とうまく調和しているのがわかる。
ニコラスは今も月に数回庭の手入れに訪れるが、今年の春に母国を訪れてから、新型コロナウイルスの影響で日本に帰国できない状況が続く。それでもガーデンが楽園のように美しいままなのは、留守を預かるスタッフもまた、ニコラスと思いを同じにしているからだ。
建物は生きている、と甲賀さんは言う。緊急事態宣言を受けての営業自粛中は寂しそうな表情に戻ってしまったこの洋館も、お客さんが戻るとともに、また元気を取り戻している。
フレンチの技が光る、欧風カレーとデザートをいただく
この店では、料理長のもと複数の料理人が働いている。煮込み料理やスイーツを担当する神谷幸男さんは、フランス料理出身でこの道30年以上。フレンチの技法を活かした本格的な料理を提供している。
今回頂いた石窯欧風カレーは、神谷さんの自信作。パスタや魚・肉料理と石窯パンのセットも人気だが、このカレーも一度は食べて欲しい。なお、冬はカレーの代わりにビーフシチューが提供される。
このルーがとにかく絶品。フォン・ド・ボーとブイヨンをベースに、スパイスの香りを活かしてさわやかに仕上げており、ほろりと柔らかい牛ホホ肉がゴロゴロと入っている。脂っこさはなく、滋味深いスープのようだ。ナッツが香ばしいサフランライスと、丁寧にローストされた自家栽培の夏野菜、優しい味わいの自家製ピクルスなど、付け合わせにもこだわりが見える。サラダ・プチデザート・ドリンクが付いて2600円(税別)とボリュームたっぷりだ。
もちろんスイーツのみの注文もできる。一番人気は、開業当時から変わらぬレシピの、石窯ガーデンテラスのプリンセット1200円(税別)だ。ドリンクは紅茶やコーヒーも選べるが、おすすめは5種類のフレッシュハーブをブレンドしたハーブティ。
ふんわりと滑らかな食感のプリンには、甘さ控えめの生クリームが上品に添えられ、カップの底にはさらっとしてビターなカラメルがたっぷり。新鮮な卵を活かした軽やかな味わいがハーブティにベストマッチだ。
2020年の6月に登場した新メニュー、プラリネ シューアラクレーム1300円(ドリンク付き、税別)も見逃せない。クッキー生地が重ねられたサクサクのシューのなかには、生クリームとアーモンドプラリネクリームがたっぷり。ビターなホットチョコレートソースと、バニラアイスのコントラストも面白い。
石窯パンをお土産に、鎌倉散策へ。
店名の由来でもある石窯パンは、レストラン裏のパン工房で毎朝焼かれており、店内で供されるほか売店で購入もできる。食事パンはもちろん、ティータイムにピッタリなクグロフやスコーンなどもお土産におすすめだ。
店内に置かれた手作りの石窯は、老朽化のため現在は使われていないが、開店当時からの伝統的なパン作りへのこだわりを感じさせる。
このパンを目当てに、お寺から坂を上ってくるお客さんも多いのだとか。しばし別世界での休息を楽しんだら、パンを片手に鎌倉散策を再開しよう。
『石窯ガーデンテラス』がさんたつのためにレシピを考案。「ノンアルコールモヒート」で歩き疲れた体にご褒美を。
今回は特別に、自宅で簡単に作れる「ノンアルコールモヒート」のレシピを教えてもらった。ミントの香りとライムの爽やかな酸味が、散歩で疲れた体に沁みわたる逸品だ。夏のティータイムに、お土産の石窯パンと一緒にいかが?
「ノンアルコールモヒート」
<材料>
・フレッシュミント ……ひとつまみ
・ライム果汁 ……20ml
・ガムシロップ ……20ml
・炭酸水 ……150ml
・氷 ……適量
・スライスしたライム ……1枚(あれば)
<作り方>
1.ライム果汁とガムシロップを混ぜる。
2.コップに氷、ミント、炭酸水を入れ、1を加える。
3.スライスしたライムを添える。
<ポイント>
・ミントは、香りの強いモヒートミントがおすすめ。無ければスペアミントやペパーミントなどスーパーなどで手に入るものでOK。
『石窯ガーデンテラス』店舗詳細
取材・執筆=岡村朱万里 撮影=岡村武夫