うなぎを気軽に楽しめる“うな玉カップ”に歓喜
うなぎの蒲焼きが広まったのは、江戸時代。川越には海がないため、市内を流れる入間川や荒川にいるウナギをつかまえ、食べていたそうだ。当時から高級料理とされていたが、屋台には庶民にも手が届きやすいお手頃価格のうな串が売られていたという。それならふらっと立ち寄れたはずだから、カジュアルな食べ歩きグルメとしてやっぱり人気だったんだろうか。
そんな想像をしていたら、ものすごくうなぎを食べたくなってきた。立門前通りでしゃれた外観の建物が目に入り、見上げると『Hatago COEDOYA』とある。どうやらホテルのようで、館内のフードコート「縁結び横丁」ではうなぎを食べられるらしい。『小鉢 豆美(まめよし)』という店で、食べ歩きもできる“うな玉カップ”がなんと880円!
「少しずつさまざまな和食を楽しめる小鉢御膳のほか、テイクアウトにぴったりの商品もたくさん用意しています」
そう教わり、品書きに目をやると選択肢が豊富。なかでも人気が高いのは、やはりうな玉カップ。早速注文し、わくわくしながら呼ばれるのを待つことに。
リラックスして食べる口溶けの良いうなぎにうっとり
できあがった商品を受け取ると、てのひらにほんのり温かみが伝わってくる。うなぎはあらかじめ店内で焼き上げ準備をしておくが、注文を受けた後にバーナーで表面をこんがり炙って仕上げている。頬張るとふわっと柔らかく、口溶けが良い。香ばしい焼き目とやや甘めのたれが、ウナギの旨味をぐっと引き出してくれる。
「テラス席が気持ちいいですよ」と、店長の阪上涼さん。テイクアウトして公園でランチにするのもいいかと思っていたが、いざ受け取るとすぐ食べたくなり、教えてもらった通り建物裏のテラス席に出た。囲いの向こうには川越熊野神社の境内があり、なんだか清々しい雰囲気。おかげで味覚や嗅覚が研ぎ澄まされ、より味わい深く感じられる気がする。
バラエティ豊かなおにぎりも評判
ごはんには、新潟県産のコシヒカリを使用。おにぎりにも使われ、食べ進めるごとに米の旨味がじわじわと広がっていく。おにぎりは握りたてを提供してくれ、具材は王道から変わり種まで全14種と幅広い。どれにしようか迷ったら、スタッフにおすすめを聞いてみるのも一つの手だ。
つやっと輝く卵黄は、ぎゅっと凝縮された味わいが魅力。
「生卵をあえて一度冷凍し、固まった状態の卵黄を6時間ほど醤油に漬け込みます」
阪上さんはこれをごはんで包み、優しく握っておにぎりにしてから、その上にさらにもう一つトッピング。とろっとした舌触りと濃厚さがたまらず、阪上さん自身もこれが好物だという。
おにぎりも注文後に握ってくれるので、受け取るとまだ温かい。粒立ちの良いふっくらした食感と、海苔の風味が感じられ、1個とは言わず2個、3個と食べたくなる。とはいえ、食材をこだわって選んでいるので、冷めても味わい深い。食べ切れなかった分を持ち帰り、後で小腹がすいた時に取り出して食べるのも悪くない。
ちなみに昭和の頃には、立門前通りは市内で最もにぎやかな通りだったようだ。現在『Hatago COEDOYA』が立っている場所には、「鶴川座」という芝居小屋があった。そもそもは明治31年(1898)に蓮馨寺(れんけいじ)境内に造られ、閉館後に残っていた建物は2019年に解体。その1年後、2020年に『Hatago COEDOYA』がオープンしている。
さて、うな玉カップに胃袋も心も満足! 次は腹ごなしに、川越の歴史をたどってみようかな。蓮馨寺を参拝して「旧鶴川座」に思いを馳(は)せるのもいい。あるいは、川越熊野神社で縁結びのお願いでもしてみようかなあ。
取材・文・撮影=信藤舞子