【住みたい街の隣も住みよい街だ】とは
住みたい街ランキング常連の人気の駅。その隣の駅も、実は住みよい街なのではないか——?
いつか住むかもしれないあなたのために、灯台もと暗しの面白さを探して散歩してみました!
品川駅までたった1㎞! 徒歩14分の北品川駅
以前訪れた横浜駅の隣の京急本線「神奈川駅」もそうだったけど、品川駅の隣の京急本線「北品川駅」も非常にコンパクトで、駅前はいっけん閑散としている。
ただ、そのコンパクトさに比べて思ったよりも人が乗り降りしている。
線路を反対側に渡るとすぐ商店街があるようなので向かってみることに。
商店街は、駅から想像したものよりもとても立派で驚いた。
新しめのおしゃれな飲食店もあれば、おそば屋さんや草履屋さん、金物屋さんといった老舗も並ぶ。
新旧入り混じりながらいろいろなお店が並び、駅の印象とのギャップでワクワクした。
品川宿の名残を感じる散歩が楽しい!
降りてみて知ったが、このあたりは品川宿だったところらしい。
品川駅より南に位置するのに「北品川」なのは「品川宿の北端」にあるからなのだ。
この北品川商店街は旧東海道沿いにあり、静岡県にある袋井宿から寄贈され、友好のシンボルとして大切に育てられている松がところどころに植わっていた。
こちらの『丸屋履物店』はなんと慶応元年(1865)から続く老舗。
下駄・草履・雪駄などの和装履物を広く扱うお店だ。
中に入るとお客さんのサイズ合わせをしているようでとても忙しそうにしていた。
夏という季節柄(取材時)、特に忙しいのかと思いきや、地元の方によると1年中人気の店だそう。
お店では鼻緒ではなく、「花緒」と表記されていてさらに素敵に見えた。
鼻緒に装飾的な意匠を施したものなどに、花緒の字を当てるそうだ。
なお『丸屋履物店』さんでは足を乗せる部分の台と花緒、それぞれ好みのものを選ぶことができる。
履く機会なんてそうそうないのに見ていると欲しくなってしまった。
おすすめは歴史ある神社めぐり!
商店街の観光案内所で聞き込みをすると、この辺りに来たら神社は必見とのこと。
品川は港町として繁栄していて、1000年前頃から、あちこちから人々が集まってきたそうだ。
そのため品川宿一帯にはおよそ30の寺院があり、しかもほぼ全宗派がそろっているという。
特に、徳川家康が戦勝祈願に参拝したという品川神社は立派な鳥居や富士塚がありおすすめとのことなので向かった。
富士塚は、富士信仰に基づいて富士山に模して造営された人工の山や塚のこと。
品川神社は階段で上った先にこの富士塚があるから余計見晴らしがいいぞ。
目黒川沿いにある荏原(えばら)神社も、品川神社に並ぶ有名スポット。
奈良時代初期に建てられ古くは品川大明神・天王社と呼ばれ、品川宿の総鎮守だったそうだ。
北品川駅からも歩ける距離だけど、このふたつをお目当てに訪れるなら新馬場駅が便利だ。
もうひとつおすすめは寄木(よりき)神社。
駅前の地図に描かれた、胸をあらわにした女性のイラストが気になったので寄ってみた神社だ。
漁師町の鎮守として江戸名所図会にも描かれているそう。
実物は見られなかったが、本殿の扉には名工 伊豆長八による漆喰鏝(こて)絵「鏝絵天鈿女命功績図(こてえあめのうずめのみことこうせきず)」がある。
天鈿女命(あめのうずめのみこと)といえば、日本神話で天照大神(あまてらすおおみかみ )が 天(あま)の岩屋に隠れた際、その前で踊って大神を誘い出した女神のことだ。
こんなセクシーな格好の女性が踊っていたら気になって岩屋から出る気持ち、わかる。
巨大クジラスポットと品川浦船だまりの情緒ある景色
さて場所を移しやってきたのはクジラのモニュメントがある品川浦公園。
江戸時代に品川沖に迷い込んできて江戸中を驚かせた「寛政の鯨」にちなんだもののようだ。
なんと長さが約16m、高さが約2mの巨大なクジラだったという。
当時は江戸の町はもちろん、遠くからもクジラを見ようと人々が押し寄せ、クジラの絵の手ぬぐいやクジラにちなんだ食べ物が出て一大ブームを起こしたというからよほどのインパクトだったのだろう。
公園の隣の利田神社には、捕獲されたクジラの頭部が埋められた鯨塚もあった。
なお、江戸時代に動物が人気を集めた三大事件のひとつだそうだ。全然知らなかった!
(江戸の三大事件……「寛政の鯨」「享保の象」「文化のラクダ」)
色褪せた椅子たちは、船を待つ人用だろう。
関係者なのかひとり高齢の女性が座っていて、日常の一瞬間を垣間見た気がした。
50年以上前の古酒が試飲できる! 『いにしえ酒店』
船溜まりの奥には、約90年前の古民家を利用した『SHINAGAWA1930』があった。
人々の交流を目的に2021年にオープンしたばかりで、コワーキングスペースや飲食店などが入っている。
外観は古いが中は近代的。
新しい品川駅と古い景色が残る北品川駅のちょうど間にあるのもまた面白い。
古酒・熟成酒を取り扱う『いにしえ酒店』では1〜50年ものの日本酒が年代ごとにとても美しく並んでいた。
最初はほんの少し黄味がかっていたお酒が、その年のその場所の米の出来具合にもよるが、歳を重ねるごとに徐々に飴色になっていっていくのだ。
値札には商品の値段の下に試飲の際の金額が書かれている。試飲は本体のおよそ1/10の価格。
とても高価なものもあるのでどんな味なのか試すにはもってこいだ。
せっかくなので10年ものと56年ものをそれぞれいただいてみることにした。
まずは10年ものを……ほぅ……紹興酒のように甘みと奥深さがある! 古酒ってこんな感じかあ。
そして私より大先輩の56年ものを……ほほぅ……こっちもやっぱり紹興酒みたいだけど、先ほどのものよりさっぱりめで杏のような酸味がある! どちらかといえば私はこちらが好みかも。
古い=旨い、わけではなく人の好みによるようだが、なかなかできない体験ができた。
しかも店主の説明を聞きながら飲むとさらに旨く、楽しく感じた。
旧東海道沿いにあるおすすめのそば処でそばをすすりながら、店に置かれている案内を読んだ。
そこには品川宿はただの宿場町ではなく、一大レジャーランドだったと書かれていた。
海辺で新鮮な魚がとれるため、江戸時代から24時間営業の飲食店があるほどグルメな街だったり、近くにはお花見・月見・紅葉狩りの名所があったり、「北の吉原、南の品川」と呼ばれるくらいきれいな女性がいるエリアだった、と。すごかったんだなあ。
比べると今は、人のにぎわいは完全に品川駅に寄ってしまった。
けれど、当時の風情を感じられる景色やお店が残っているのは北品川駅なんだろうな。
もし北品川に住んだら、朝はのんびり神社にお参りして、時には富士塚に上ってやる気を出したり、商店街のお店をひとつひとつ丁寧にまわっておしゃべりしたい。
きっと歴史にも興味をもっちゃって、宿場町の頃と今を重ね合わせてみるのだろう。
そんな想像をしながら、今回のお散歩は終了!
さて、次はどの隣町を歩こうか。
取材・文=小堺丸子