佐貫頭首工(とうしゅこう)&市堀(いちのほり)用水

鬼怒川の恵みを穀倉地帯に運ぶ、大用水路

亀の子岩の上から俯瞰した鬼怒川と佐貫頭首工。
亀の子岩の上から俯瞰した鬼怒川と佐貫頭首工。
水は風見発電所を経て分配され、一方が江戸時代からの旧用水路に注がれる。
水は風見発電所を経て分配され、一方が江戸時代からの旧用水路に注がれる。

市の堀用水は宇都宮藩が10年をかけて明暦2年(1656)に完成させた農業用水。水不足解消と新田開発のため、旧押上村(現さくら市)の鬼怒川から現在の高根沢付近まで切り開いた。何度か改修を経て現在も栃木の広大な穀倉地帯を潤し続けている。その重要さは、完成の300年後に工事を担った藩士の記念碑を建て「三百年祭」を行ったことからもうかがえる。現在の取り入れ口は1962年完成の佐貫頭首工で真岡まで整備されている。

●見学は外から。栃木県塩谷郡塩谷町佐貫~真岡市

里山あるき

里に近い低山で安心安全ハイキング

富士山は南側からだけ円錐形の山容が望める角度美人な標高364.9 mのご当地富士。亀の子岩がある佐貫観音山から蟹沢山、愛宕山を経て富士山までの縦走もいい。石尊山は、源義家の逸話が伝わる町なかの名峰。相模大山に関わりの深い石尊信仰の山で、東側の中腹には鉱山跡もある。時節柄、坂道歩き+αで安全なハイキングを。

●栃木県塩谷郡塩谷町船生ほか

道の駅から徒歩2時間ほどで山頂に立てる鶏岳(にわとりだけ)。
道の駅から徒歩2時間ほどで山頂に立てる鶏岳(にわとりだけ)。
富士山山頂より。登り口は東側にある。詳しくは道の駅の交流館で。
富士山山頂より。登り口は東側にある。詳しくは道の駅の交流館で。

佐貫観音

如来様なのに観音様と呼ばれる巨大石仏

風化が進んで全体像は分かりづらいが、中央にご尊顔が確認できる。
風化が進んで全体像は分かりづらいが、中央にご尊顔が確認できる。

高さ64mの岩塊に線刻された像高約18.2m、顔面の長さ約3mとかなり大きな磨崖仏。観音様と呼ばれているが、じつは智拳印(ちけんいん)を結ぶ金剛界大日如来坐像。国史跡名が「佐貫石仏」なのはそのせいかも。弘法大師一夜の作と伝えられ、また親鸞ゆかりの霊場でもある。石仏同様に目を凝らすと確認できる岩上部の板扉は奥の院「大悲窟」の入り口。かつては62年に一度開帳されていた。向かって左側にある亀の子岩は、正面からだと隠れて見えない。

●拝観自由。栃木県塩谷郡塩谷町佐貫799

道の駅 湧水の郷しおや

グルメと物産と情報で塩谷町の魅力を発信

塩谷町は県内随一の花の産地なだけに直売所には季節の花々が並ぶ。地元産ソバを石臼で碾き尚仁沢の名水で打つ天盛りそば950円。
塩谷町は県内随一の花の産地なだけに直売所には季節の花々が並ぶ。地元産ソバを石臼で碾き尚仁沢の名水で打つ天盛りそば950円。

交流館は最初に訪れたい場所。穴場スポットを教えてくれる情報発信コーナーがあり、船村徹など郷土ゆかりの著名人の資料なども展示。農産物直売所や農村レストラン『そば処かみざくら』などショップや食事処も充実。

住所:栃木県塩谷郡塩谷町船生3733-1/営業時間:交流館は9:00~17:00、直売所:8:30~17:00、レストランは11:00~15:00、飲食館は10:00~16:00/定休日:交流館と直売所は無。レストランは火。飲食店は各店ごとに異なるため要確認。

尚仁沢(しょうじんざわ)湧水

高原山麓に湧き出る日本屈指の名水

尚仁沢上流の緩傾斜地に群生するイヌブナ自然林は国の天然記念物。
尚仁沢上流の緩傾斜地に群生するイヌブナ自然林は国の天然記念物。
原生林に囲まれ幽玄な雰囲気が漂う尚仁沢。(撮影=福田和由)
原生林に囲まれ幽玄な雰囲気が漂う尚仁沢。(撮影=福田和由)

「日本名水百選」に選ばれた、高原山麓に湧く名水。1 日6万5000t と湧水量が豊富で、水質は軟らかな天然アルカリイオン水。水温は年間を通じて11℃前後を保ち、冬でも凍ることなく広葉樹の自然林を潤している。奈良時代には修験者が身を清めたといわれ、精進沢と呼ばれたとか。

●見学自由(遊歩道は復旧工事中)。栃木県塩谷郡塩谷町上寺島1614-2
☎ 0287-45-2211(町産業振興課)

大滝&東古屋(ひがしごや)湖

清涼感あふれる山奥の穴場的名瀑

水遊びしたくなるほど清流の滝。木々に囲まれ新緑や紅葉が美しい。
水遊びしたくなるほど清流の滝。木々に囲まれ新緑や紅葉が美しい。
東古屋湖は西荒川ダムがせき止める人造湖。ニジマス釣りが人気。
東古屋湖は西荒川ダムがせき止める人造湖。ニジマス釣りが人気。

個人的に尚仁沢湧水の次に推したい景勝。大滝は東古屋湖から未舗装の西荒川林道を約4㎞。林道としては走りやすいが、轍(わだち)が深いため車高に余裕のある車が無難。歩いても片道1 時間強なので、散策がてら訪ねるのもいい。念のためヤマビル対策と熊鈴持参で。太公望が集う東古屋湖にはリーズナブルな料金の町営キャンプ場もある。

●見学自由。栃木県塩谷郡塩谷町上寺島

尚仁沢はーとらんど

名水に触れられるレストスポット

豆腐は4種ありクリーミーで濃厚な味。「よせ」には枝豆風味も。
豆腐は4種ありクリーミーで濃厚な味。「よせ」には枝豆風味も。
隣接する「名水パーク」の水汲み場。県外客も多く、常にこの状態。
隣接する「名水パーク」の水汲み場。県外客も多く、常にこの状態。
地場産サトイモを蒸かし、こねてカラッと揚げた「里芋ふらい」。
地場産サトイモを蒸かし、こねてカラッと揚げた「里芋ふらい」。

地元産の野菜や特産品を豊富に揃える。湧水で仕込んで大豆の風味を引き出した「尚仁沢名水豆腐」木綿・きぬ各130 円、よせ150円。なめらかなサトイモの食感が楽しいご当地グルメの「里芋ふらい」100円、尚仁沢の湧水で淹れたコーヒー300円。地元食材を使ったダムカレー1000円もある。

住所:栃木県塩谷郡塩谷町上寺島1618-4/営業時間:9:00~17:00/定休日:水

塩谷マメ知識

モリアオガエル

山間部のきれいな水辺に生息する。条件の揃った大滝や『尚仁沢はーとらんど』周辺は、彼らの恰好の住まいだ。繁殖期の6・7月になると、水辺につき出た木の葉や枝にメレンゲのような白い泡状の卵塊を産み付ける。巣の中に産んだタマゴは、ふ化すると水中に落ちて水の中で成長。翌年、体長5~9cm に成長すると、再び木の上で巣を作る。

1つのかたまりに300~500個のタマゴを産む。見つけたら大切に。
1つのかたまりに300~500個のタマゴを産む。見つけたら大切に。

ほたるの里の食彩処 思源(しげん)

名水と地場食材でつくる日本料理と自家焙煎コーヒー

店の看板メニュー「日光高原牛の炭火焼ひつまぶし」3000円。
店の看板メニュー「日光高原牛の炭火焼ひつまぶし」3000円。
葛が入る「思源特製牛乳豆富」300円~はモチモチなスイーツ。
葛が入る「思源特製牛乳豆富」300円~はモチモチなスイーツ。
コーヒーマイスターが客の好みや気分に合わせて豆を選んでくれる。
コーヒーマイスターが客の好みや気分に合わせて豆を選んでくれる。

地場の米や野菜、日光高原牛など、こだわりの食材でひとつひとつ丁寧に作られた本物の料理が味わえる。和食の基本となる出汁は尚仁沢湧水で毎日丁寧に仕込み、世界から厳選したコーヒー豆を自家焙煎する徹底ぶり。テイクアウトメニューが豊富に揃う。

住所:栃木県塩谷郡塩谷町船生3148-3/営業時間:11:00~14:00・17:30~20:30LO(金・土・日の14:00~16:30はカフェタイム)/定休日:月(祝の場合は翌火)

名水の里サイクリング

尚仁沢の湧水をボトルに満たして

市町境に近い豊月平放牧場。遠くで牛の群れが草をはむ。
市町境に近い豊月平放牧場。遠くで牛の群れが草をはむ。

高原山麓といえば自転車乗りには矢板の八方ヶ原ヒルクライムレースが有名。隣の塩谷では県道63 号線を反時計回りに走るモデルコースを設定。上級者向けとあるが自転車が趣味なら普通レベル。後半は幹線道路なので、ピーク付近の豊月平放牧場で折り返し、県民の森経由で八方ヶ原に足を延ばすのもいい。

●周回モデルコース約50km・高低差約600 m。

松井酒造店

超軟水の特性を生かした上品で繊細な酒

左から松の寿純米吟醸1540円、同大吟醸3080円、男の友情1210円。
左から松の寿純米吟醸1540円、同大吟醸3080円、男の友情1210円。

慶応元年(1865)の創業より5代にわたり伝統的な手法で酒を造る。仕込水には裏の杉林から湧き出る良質な天然水を使用。全国でも稀まれな超軟水のため、きれいで熟成速度がゆるやかな酒に。当地出身の作曲家、船村徹(1932~ 2017)の作品にちなんだ「男の友情」をみやげに。

住所:栃木県塩谷郡塩谷町船生3683/営業時間:10:00~17:00/定休日:日・祝(在宅時は営業)

塩谷マメ知識

ゲンジボタル

塩谷町総合公園のテニスコート前の沢で50~70匹の乱舞が観られる。
塩谷町総合公園のテニスコート前の沢で50~70匹の乱舞が観られる。

20年ほど前に町の公園でホタルを数匹見かけたことから会を結成。保存活動を続け、多くのホタルが群れ飛ぶまでになった。活動開始から温暖化で1 カ月ほど早まり6月20日までの2週間が旬。急げば観られるかも。会員は県内180名(うち町内30名)、県外100名がおり随時受け付け中。

●栃木県塩谷郡塩谷町飯岡1160 ☎ 090-3046-6425(「塩谷の源氏蛍を守る会」代表 齋藤民雄)

東武矢板線跡

木材や鉱石を積んで走ったのどかな「ポッポ汽車」

廃止された1959年6月30日に船生駅付近で撮影。(写真提供=斎藤順)
廃止された1959年6月30日に船生駅付近で撮影。(写真提供=斎藤順)
ホームが残された芦場駅跡は、数少ない鉄道遺構の一つ。
ホームが残された芦場駅跡は、数少ない鉄道遺構の一つ。
天頂駅至近にあった鉱山の通洞坑。付近は鉱山関係者でにぎやかだった。
天頂駅至近にあった鉱山の通洞坑。付近は鉱山関係者でにぎやかだった。

東武新高徳駅とJR矢板駅を結んでいた23.5km の鉄道路線。沿線で産出された木材や鉱物の運搬のため大正13年(1924)に開通。日光北街道に寄り添う軌道跡の大部分は道路になり、入り口を塞いだトンネルが2つ残る。町西北部で切り出された木材は長峰荷扱所まで林用手押軌道で運ばれた。大滝西方の山中に今もレールの残骸が眠っている。

●栃木県塩谷郡塩谷町芦場(よしば)ほか

名水の里ウォーキング

自然と歴史に触れて歩く「奥の細道」プロローグ

「奥の細道」途上の松尾芭蕉が日光北街道玉生宿で一夜を過ごした記念碑。
「奥の細道」途上の松尾芭蕉が日光北街道玉生宿で一夜を過ごした記念碑。
大宮、玉生、船生3村の道路元標はすぐ見つかる。
大宮、玉生、船生3村の道路元標はすぐ見つかる。
水車や水路もありのんびりした田舎町の風情が楽しめる大宮の集落。
水車や水路もありのんびりした田舎町の風情が楽しめる大宮の集落。

北関東三大100km ウォークの一つ「しおや100 キロウォーク」など、例年イベントが盛んな塩谷はウォーキングが楽しい町。町内にはいくつものコースが設定されているので、マップをもらって静かな旧市街をのんびり歩きたい。町を東西に貫く日光北街道もオススメ。日光から奥州街道に向かう松尾芭蕉が歩いた、江戸時代の旧道を探し訪ねるのも一興だ。

中世の城跡めぐり

市街を望む城山と古墳と同居する山城

伯耆根(ほうきね)神社が鎮座する玉生要害山。土塁も城の遺構か。
伯耆根(ほうきね)神社が鎮座する玉生要害山。土塁も城の遺構か。
日々輝学園高校(大宮2475-1)のグラウンド奥、古墳群の横にある。
日々輝学園高校(大宮2475-1)のグラウンド奥、古墳群の横にある。

分かりやすい2城を紹介。玉たま生にゅう要害山(玉生城跡)は宇都宮氏の流れをくむ塩谷忠景が玉生氏を名乗り建長6 年(1254)築城。支城になるまで150 年あまり玉生氏7代の居城となった。もう一つは千葉一族の大須賀氏を祖とする大宮氏の大宮城跡。ともに慶長2 年(1597)の宇都宮氏改易により廃城。

●見学自由(大宮城跡は学校に声かけを)。栃木県塩谷郡塩谷町玉生1745

星ふる学校くまの木

のびのび自然と遊び、日が落ちたら星空を見上げる

アユなど塩谷の食材でバーベキューも。アユはつかみどり体験可。
アユなど塩谷の食材でバーベキューも。アユはつかみどり体験可。
二宮金次郎像とオリオン座。星空のプログラムはぜひ体験したい。
二宮金次郎像とオリオン座。星空のプログラムはぜひ体験したい。
昭和10年(1935)築と1955年築の木造校舎2棟と、広々とした校庭。
昭和10年(1935)築と1955年築の木造校舎2棟と、広々とした校庭。

歴史ある旧熊ノ木小学校の廃校舎が、そのまま宿泊型の体験学習施設に生まれ変わった。天文レクチャーや植物観察で、自然を感じたり里の暮らしや文化に触れられる多種多様な体験プログラムが用意されている。なかでもうどん打ち体験や天体ドームでの星空観察などが家族やグループに人気。校舎後方を流れる用水を渡り、通学路だった裏山の散策も楽しい。

住所:栃木県塩谷郡塩谷町熊ノ木802

親孝子(おやこうし)神社

親孝行でも養老でもない謎神社

田園にポツンと鎮座。鳥居の脇に二十三夜塔、庚申塔、石仏が並ぶ。
田園にポツンと鎮座。鳥居の脇に二十三夜塔、庚申塔、石仏が並ぶ。

星宮神社と箒根神社が多数を占めるこのエリアで、一風変わった名前が気になった。江戸時代は「親孝子大権現」と呼ばれ、近くの山中に石碑が立つ。郷土史料に記載はなく、養老孝子伝説とも関係なさそうでモヤっとしたまま。10 年前に再建された社殿を守る狛犬は戦時に量産された靖国タイプ。台座に「武運長久」とある。

●境内自由。栃木県塩谷郡塩谷町玉生432

時代劇ロケ地

大河ドラマの完走を祈念して遠望

道路をはさんで左、フェンスで囲まれた河川敷の放牧場内がロケ地。
道路をはさんで左、フェンスで囲まれた河川敷の放牧場内がロケ地。

鬼怒川河川敷に広がる上沢放牧場では、2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』など、時代劇のロケがよく行われる。小林橋から西側をみると、正面に男体山などの日光連山を望む広々とした草地が確認できる。障害物が見えないアングルで眺めると、さながら戦国時代の美濃の合戦場のようだ。

●見学は東側に架かる小林橋から。栃木県塩谷郡塩谷町上沢前河原河川敷地内

取材・文・撮影=飯田則夫