店名や紋章が刻印されたまんじゅう

街の和菓子店には、さまざまな焼き印を施したまんじゅうが売られている。何もしなくてもつるっと美しい薯蕷まんじゅうの白い表面に、わざわざ焼き印を押すというからには、製作者の側に何か訴えかけたいことがあるに違いない。こうしたまんじゅうの表面に押されたメッセージを読み解いていきたいと思う。

まずわかりやすいのは、店名や紋章が押されたもの。卒業式でよくもらう、校章の焼き印が入った紅白まんじゅうなどもその一例だ。

『塩瀬総本家』の主力商品である「志ほせ饅頭」には「志ほせ」という焼き印が押され、30個入りの箱は一面に「志ほせ」の文字が並んで壮観である。店名や商品名を刻印することにより、たとえまんじゅうを一個もらった場合でも名前はしっかりと記憶に残る。広告効果は絶大である。

塩瀬総本家の「志ほせ饅頭」(2020年撮影)

埼玉の『十万石ふくさや』の「うまい、うますぎる!」で知られる「十万石まんじゅう」も、米の形を模した細長いまんじゅうに「十万石」という焼き印が押されている。

十万石ふくさやの「浦和レッズコラボまんじゅう」(2020年撮影)

しかし『陸王』や『翔んで埼玉』など埼玉ゆかりのドラマや映画とコラボしたり、父の日に「お父さん」「ありがとう」というメッセージを刻印したまんじゅうを販売したりと、店名にとどまらない焼き印メッセージを発しているのである。私は「浦和」「レッズ」の文字と、キャラクター「レディア」が刻印された浦和レッズコラボまんじゅうを買い求めた。

レッズのマスコットキャラクター「レディア」(2020年撮影)

人物や出来事が刻印されたまんじゅう

まんじゅうがその土地の名物となる場合、ゆかりのある人物や出来事が刻印されることもある。

幸神堂の「ロンヤス饅頭」(2018年撮影)

日の出町の『幸神堂』が販売する「ロンヤス饅頭」は、1983年に日の出町にある中曽根山荘で行われた、中曽根康弘首相とロナルド・レーガン大統領(ともに当時)との日米首脳会談を記念して作られたまんじゅうだ。まんじゅうの表面には両首脳の愛称「ロン」「ヤス」が刻印され、2人が亡くなった現在でも販売が続けられている。

恐らく今の若い人たちは「ロン」も「ヤス」も知らないだろうが、「ロンヤス饅頭」があることによって歴史に触れることができるわけだ。

志村けんのギャグが刻印されたまんじゅう

東村山の『餅萬』では、「だいじょぶだァー」(小倉餡)「だっふんだァー」(うぐいす餡)という焼き印が押されたまんじゅうが販売されている。

餅萬の「だいじょぶだァー饅頭」(2020年撮影)
餅萬の「だっふんだァー饅頭」(2020年撮影)

言わずと知れた、志村けんのギャグにちなんだものである。東村山が生んだスター・志村けんが亡くなったことはいまだに信じられないが、「だいじょぶだァー饅頭」「だっふんだァー饅頭」があることで、われわれはいつでも志村けんのギャグに触れることができる。

増えてます! アマビエが刻印がされたまんじゅう

ところで最近、まんじゅうの焼き印にある変化が生じている。たとえば上に挙げた『十万石ふくさや』では、「がんばろう」「日本」と刻印されたまんじゅうが販売され始めた。新型ウイルスに打ち勝とうという意図であろう。さらに、あるキャラクターの焼き印が急速に増えている。アマビエである。

さくらやの「アマビエ上用饅頭」(2020年撮影)

江戸時代に疫病に関する予言をしたとされる妖怪、アマビエ。その姿は新型ウイルス感染拡大による社会不安と呼応するように、SNSであっという間に拡散した。何ともユーモラスな姿が造形意欲をかきたてるのか、さまざまなグッズが作られるようになった。

和菓子店でも練り切りのアマビエに加え、まんじゅうやどら焼きの表面にアマビエの焼き印を押す店が増えている。広島・西条にある『さくらや』でも、薯蕷まんじゅうの表面にアマビエの焼き印を押した「アマビエ上用饅頭」が新たに発売された。

何も書かれていない真っ白いまんじゅうは美しいものだ。しかし焼き印を押すことにより、まんじゅうというキャンバスは無限の可能性を秘めることとなる。それは一つの完結した小宇宙である。今後も私は、街の和菓子店のショーケースに広がる小宇宙を探しに行きたいと思う。

十万石ふくさやの「がんばろう日本まんじゅう」(2020年撮影)

絵・写真・文=オギリマサホ

想像してみて欲しい。あなたが道を歩いていて、道端にトラ猫が丸くなっているのを発見した時のことを。あなたは恐らく「猫ちゃ~ん」と声をかけながらその猫に近づいていくだろう。ところがその猫はよくできた置物であった。あなたはキョロキョロと辺りを見回しながら、今の醜態が誰にも見られていなかったことを確認し、足早にその場を立ち去るに違いない。これは先日私の身に起きた実話である。
子どものころから「本物そっくりのニセモノ」が好きだった。ままごとで使うお金は葉っぱやおはじきでは納得できず、本物そっくりに作られた「子ども銀行券」をねだった。家族でドライブに出かける際は、高速道路の工事現場で旗を振る「安全太郎」人形に出会うことを何よりの楽しみとしていた。中でも私の心を惹きつけてやまなかったのが、レストランや喫茶店の店頭に飾られている食品サンプルであった。