大きさも形もさまざまな本棚が林立する店内。その間を縫うように、そろそろと中に入っていった。店主の長嶋健太郎さんは「一生、レイアウトが完成しない気がします」と笑って、積み上げた本と向き合い試行錯誤。だけど、これがいい。カウンター席の丸椅子を引き出し、腰掛けると、本の山に埋もれているようでなんだか落ち着く。

接客は、主に渡邉好道さんの担当。コーヒーを淹れてくれる手元をぼんやり見ながら、とりとめのない話を始めるのがいい。70歳を過ぎてDJを始めたそうで、得意ジャンルは昭和歌謡と洋邦問わず1960〜70年代ロック。そのバイタリティは若者からも支持され、悩みを相談しにくる千葉大生も少なくない。

店主の長嶋健太郎さん(左)と、コーヒー担当の渡邉好道さん。コーヒー500円は渡邉さんがハンドドリップしてくれる。
店主の長嶋健太郎さん(左)と、コーヒー担当の渡邉好道さん。コーヒー500円は渡邉さんがハンドドリップしてくれる。

老若男女、多種多様な人生が交わる場所

店内では中古レコードも販売。
店内では中古レコードも販売。

常連客は、大学生から80歳を越えるベテランまでと、幅広い。

「毎週来てくれて、いつも本を20冊以上買っていくおじいちゃんは、うちのアルバイトの大学生とよく話をしています」

好きなものについて語り合う時、熱くなればなるほど、世代の違いなんて気にならない。長嶋さんもかつては千葉大学の文学部に通いながらここに足を運ぶ一人で、「先代の店主や年上の常連さんたちと話すのが楽しかったんです」。

雑誌や人文、哲学の本が充実するなか、珍しい古本も。
雑誌や人文、哲学の本が充実するなか、珍しい古本も。

「そういえばこないだ、恋愛の話をしている子に『口説きの言葉辞典』を渡したら、こういうことじゃないんだなって言われちゃいましたよね」と笑い合う、長嶋さんと渡邉さん。ページを開いてみると、そこには古い映画のロマンチックなセリフが、しかも自然に使いこなすのがやや難しそうな色っぽいフレーズがたくさん並んでいた。

でも、そんなふうに親身になってくれた二人のおかげで、その子もきっと緊張が解れたんじゃないかな。どうか若者の恋が成就しますように。気づけば私も一緒になってそう願っていた。

住所:千葉県千葉市中央区松波2-19-11/営業時間:11:00~18:00(土は13:00~)/定休日:水/アクセス:JR総武線西千葉駅から徒歩5分

取材・文=信藤舞子 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2024年8月号より

夕暮れ時、不忍通りの一角に飴色の灯りが点った。窓から見えるのはぎっしり詰まった本棚、看板には「古本と珈琲」の文字。『books&café BOUSINGOT(ブーザンゴ)』で一杯と一冊を味わうべく、足を踏み入れた。
西荻窪の駅前に店を構える『今野書店』の今野英治さん。青梅街道沿いに店を構える『本屋Title』の辻山良雄さん。ふたりの新刊書店店主に互いの店をじっくり見てもらい、お話を聞いた。
渡英した元・月刊『散歩の達人』編集部員が綴る、散達的(?)イギリス散歩案内。第4回は本の街編!