アクセス
鉄道:JR・地下鉄東京駅から上越新幹線・上越線で約1時間15分の群馬総社駅下車。タクシーに乗り換え約15分で町中心部。JR高崎駅・前橋駅・渋川駅から路線バスも運行。
車:関越自動車道練馬ICから駒寄スマートICまで約98km。同ICから町中心部まで約2km。
何ゆえ“住みたい町”の上位なのか
「高度な測量技術を必要とする正八角形の三津屋古墳や南下(みなみしも)古墳群の石室内に残る朱線や漆喰跡などから、この地が畿内と関係があったことが強く窺(うかが)われます」
と教えてくれたのは、『吉岡町文化財センター』の学芸員・高橋人夢(とむ)さんだ。
都が置かれていた畿内と吉岡町がなぜ?と首を傾げると、「当時、この界隈は馬の生産が盛んな放牧地で、地域の豪族が重要な交通手段である馬を都に献上した経緯から、畿内との縁が生まれたと推測されます」とのこと。考えてみたら、県名に「馬」が入っているし、町内に乗馬クラブがあるのも何か関連が……と勘繰るのは深読みも甚だしいが、ともあれ町内の古墳の多さには驚くばかりで、町章に配された石の鏃(やじり)も古代文化との結びつきを物語っている。
ところで何ゆえ“住みたい町”の上位なのか。吉岡町産業観光課の森田紗恵(さえ)さんによれば、前橋や高崎から近いわりには静かな環境が保たれている一方、交通網が整備され、大型商業施設の出店もあり日々の買い物にも事欠かないなど、暮らしやすさが評価され、某雑誌の特集では関東で1位に輝いた実績もあるそう。駅がないにもかかわらず人気が高い点も、世帯当たりの自家用乗用車普及台数が多い群馬県らしい結果だ。
往来の多い街道をたどり、さらに町内をさまよう
さて旅人目線で見渡せば、町内を東西に横断し、隣接する渋川市へと抜ける県道15号前橋伊香保線の存在が気になる。まちおこしのために設(しつら)えた屋号看板が掲げられた旧伊香保街道野田宿を過ぎると、榛名山を正面に見据えながら道はグイグイ傾斜を増していく。進むにつれユニークな博物館や地元の味を提供する飲食店、物産店が姿を見せるのは、その先に水沢観音や伊香保温泉といった名高い観光地が控えているからだろう。車の往来が絶えない県道15号を離れた先にある船尾滝で町域は終わりになるが、周りを高い断崖に囲まれ、ここだけ喧騒から隔絶されたかのようだ。
旅行者が行き交うエリアから一歩離れると、地域に溶け込んだパン屋さんやレストランがポツポツ目に留まる。
道端に張られたグランピングテントに目を奪われ、何ごとかと立ち寄った『Three Billboards(スリー ビルボード)』のオーナー清水優斗(ゆうと)さんは吉岡町出身の料理人で、地元への愛着も強い。付け焼き刃のにわか知識で、古墳の多さや畿内とのつながりを吹聴したところ、「へぇそうなんですか。子供の頃は石室に入り、秘密基地とか言って遊んでいましたけどね」と驚きの答えが返ってきた。これぞ地元ならではのこぼれ話で、知ったかぶりのこちらは一本取られた気分だ。
気を取り直し、近くの吉岡町城山みはらし公園へ向かうと、旅の締めくくりにふさわしく、格別の夜景が目の前に広がっていた。
赤城乗馬クラブ
未経験者でも気軽に乗馬を楽しめる
赤城山を望む利根川河川敷に位置し、屋外2面・屋内1面の馬場がある。「体験乗馬+パカパカ散歩」(約40分/平日8800円、土・日・祝9900円)のほか、森や小川を通る「外乗基礎練習+ビジター外乗」(約60分/平日1万2100円、土・日・祝1万3200円)もオススメ。要予約で利用時は長ズボン・運動靴・軍手を持参のこと。
古墳探訪
畿内との関係が色濃い古墳が行く先々に
400~500基もの古墳があるとされる吉岡町。6世紀後半~7世紀末築造の南下古墳群や正八角形墳の三津屋(みつや)古墳(復元)を筆頭に、滝沢古墳、源兵衛山古墳などが点在し、見て回るのも面白い。南下古墳群に隣接する『吉岡町文化財センター』(☎0279-54-9443)で事前に解説に目を通し資料を手にすれば、より理解が深まることだろう。
クランパン
天然発酵のルヴァン種を用いた手づくりパン
大通りから脇道を入った新興住宅地にポツンとある、地域に密着したパン屋さん。もちもち食感の角食パン1斤370円やサクッとしたメロンパン190円をはじめ、サンドイッチ、調理パン、菓子パンなど品揃えは約50種。季節限定パンもあり、どれを選ぶか思わず迷ってしまう。
伊香保 おもちゃと人形自動車博物館
めくるめくコレクションの洪水に思わず舌を巻く
多岐にわたる展示内容と膨大なコレクションの量に心底圧倒される国内屈指の私設ミュージアム。「テディベア博物館」の先にある昭和レトロな町並みの「駄菓子屋横丁」を過ぎると、「プロレスミュージアム」、そして3フロアにわたり全96台もの名車が展示された「自動車博物館」へと続く。屋外展示の「シネマワールド」などを経て再び館内へ戻れば、世界の人形、ワイン&ビール、さらに屋外のミリタリーゾーンが待ち受け、急ぎ足でも軽く1時間は必要。じっくり見て回ったあとは、併設のカフェでしばし余韻に浸るのもいい。
BRAE-BURN(ブレイ バーン)
ほっぺたが緩みっぱなしのアップルパイ
キャラメルシナモン、バタークランブル(各1ピース450円)、クレームダマンドラムレーズン同470円と、味わいや食感の異なるアップルパイが人気の店。生地には群馬県産小麦さとのそらを用いて焼き上げている。ぜいたくな気分になれる直径約12cmのティアラも要チェックだ。
命と性ミュージアム
生命の尊さと性欲をとことんマジメに解説
かけがえのない命の尊厳をテーマに、男女の体の違いから誕生の仕組み、そしてSEXの歓(よろこ)びや重要性を、リアルな石像などを交えつつ詳しく紹介。妊婦体験から緊縛コーナーまで展示内容も幅広く、興味津々なカップルの姿も。どぎつい装飾のトイレも必見!
鹿火屋(かびや)
囲炉裏の火で燻(いぶ)された渋~い店内で一服
炭火で丁寧に焼き上げるいも串300円は、ねっとりとした里芋の食感に味噌だれがよく合う。前年秋の収穫分が切れる夏期の提供はなく、秋になると再びメニューに登場。6月下旬~10月には代わりに焼きとうもろこし350円がお目見えする。
船尾(ふなお)滝
町を代表する落差約72mの名瀑
町域西端の榛名山麓にあり、地元のまんじゅうや地酒などにもその名が付く町の名勝。駐車場から木段のある遊歩道を歩いて約20分で、ベンチの置かれた観瀑ポイントに着く。断崖から流れ落ちる滝の姿は優美だ。かつてこの一帯は神聖な地とされ、入山を許されず「不入(ふにゅう)」と呼ばれたのが転じ、「船尾」になったと伝わる。
●群馬県北群馬郡吉岡町上野田2842-1
Three Billboards
一目瞭然のドーム型グランピングテント!
テイクアウトの利用も多いパスタ料理メインの店で、奇抜なイートイン用テントが目印。食材には地元野菜や県産ブランド肉を積極的に用い、旬のフルーツを使った期間限定パスタも登場。一品料理も充実。
吉岡町城山(しろやま)みはらし公園
昼も夜も眺望を楽しめる憩いの場
14世紀に活躍した武将・桃井直常(もものいただつね)が築いたと伝わる山城跡を整備した小高い公園。頂上部の古墳広場は、桃井城址の物見台部分の段丘がもともとは前方後円墳であったことにちなんだものだ。榛名山や赤城山をはじめ、武尊(ほたか)山や谷川岳など県北部の名峰を一望でき、前橋方面を見通す夜景スポットとしても人気がある
【耳よりTOPIC】江戸期のにぎわいに思いをはせる
町の中心部から伊香保方面へ向かう道すがら、両側に掲げられた約60枚の屋号看板が目に留まる。聞けば伊香保街道「野田宿」が置かれた地で、その中央に残る森田家住宅は、かつての本陣跡とか。個人宅のため内部見学はできないが、『吉岡町文化財センター』の展示室で解説付き動画を視聴できる。
取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2024年6月号より