一瞬の逢瀬がトキメキを増幅させる聖徳太子【茨城】
現在、日本でもっとも多くの信者がいる宗派は浄土真宗です。その宗祖である親鸞は、20年にわたって常陸国(現在の茨城県)を拠点にしていました。
そうした背景もあって、茨城県には浄土真宗のお寺が多くあります。水戸市の「善重寺」もそのひとつ。
こちらのお寺に祀られる秘仏「聖徳太子像」は、全国でも稀な仏像です。
秘仏といえば、年に数週間や数日、月に一度などでご開帳されることが多いのですが、この像はなんと「一年に一時間」という究極の限定っぷり!
ご開帳される2月22日の正午にはお寺に大行列ができています。
そんな皆様のお目当ては、聖徳太子の16歳頃の姿を表現したという鎌倉時代の仏像。
心地の良い緊張感漂う表情は、少年から青年に変わっていく絶妙なバランス感覚で作られています。
衣の彩色もよく残っており、よくよく見ると、後れ毛まで描かれているという描写の徹底により、生きている人間のようなリアルさをもって見るものに迫ってくる仏像です。
運慶の弟子による美女の像が祀られるお寺【山梨】
甲府盆地の東側、甲州ワインや「ほったらかし温泉」でも有名な山梨県笛吹市に、素晴らしい仏像を祀るお寺「福光園寺」があります。
こちらで拝観できるのは、美しい「吉祥天像」。
ヒンドゥー教のラクシュミーという女神が仏教に取り込まれたのが吉祥天となりました。
美女の代名詞としても古くから認識されており、美や幸福の御利益があるとされています。
吉祥天像は全国に多く存在しますが、こちらのように座っている像は全国に2体だけ。
さらに、制作したのはあの運慶の弟子である蓮慶です。
そうした希少性や芸術性の高さによって、国の重要文化財に指定されている仏像なのです。
また、おなじ収蔵庫内には武将のように鎧をまとった、持国天(左)と毘沙門天(右)も。
美しい吉祥天と対照的に、厳しく力強い姿が印象的です。
なお、吉祥天と毘沙門天は夫婦という間柄でもあります。そうした背景を知って拝観すると、なんだか、拝観しながら脳内の妄想も楽しくなりますね!
冬至の日は特別! でもいつでも会える山の上の猛者たち【埼玉】
埼玉県飯能市の山の上にある「高山不動尊」。こちらは、冬至の日にだけご開帳される秘仏の「軍荼利(ぐんだり)明王」で知られています。
そちらも平安時代に作られた歴史もあり、228cmの巨像でもあるので必見なのですが、今回は、冬至の日以外にも拝観できる仏像をお勧めします!
軍荼利明王の安置される収蔵庫の手前にあるお堂に祀られる「五大明王」です。
文章を書くものとして失格かもしれませんが、筆者が何を語るよりも、こちらの写真でその圧倒的な迫力が伝わっていると思います。
五大明王とは、不動明王を中心として、周囲に降三世・軍荼利・大威徳・金剛夜叉の各明王を配するチームのこと。
それぞれに背景やいわれはありますが、戦隊モノのファイティングポーズがバシッと揃ったような、このフォトジェニックさは仏教徒でなくともグッとくるものがあるでしょう。
地域で一斉にご開帳されるタイミングを狙え!【茨城】
普段公開されていない仏像は、風通しが悪くなりカビや虫が発生してしまうことも。
それを防ぐために、各地のお寺などでは年に何度か、風通しを良くして仏像を「虫干し」をします。
茨城県の常陸太田市では、この虫干しを兼ねて文化財を多くの人に見てもらおうと、市内の貴重な仏像が一斉に公開されるイベントがあります。
どの仏像も、拝観チャンスの少ない貴重な仏像ですが、中でも筆者のオススメは「菊蓮寺」の「千手観音像」。
鎌倉時代に作られた像で、350cmもの大きさは、お堂に入った瞬間に思わず声が漏れてしまうような存在感があります。
広がるたくさんの手も立体的に彫られ、たっぷりとした量感を生んでいます。
千手観音に目が行きますが、両脇もお見逃しなく!
毘沙門天像と不動明王像が立っています。
こちらは、運慶の長男である湛慶の作です。湛慶は、京都「三十三間堂」の千手観音像を作った名仏師。
都(みやこ)からこんなにも遠い場所で、湛慶の作品に出会えるのは貴重です!
一斉公開は例年10月に行われますので、常陸太田市のホームページなどで日程をご確認ください。
村の人々が守る仏像群と対峙できる場所【群馬】
群馬県沼田市。里山の風景に囲まれた場所にある「追母薬師堂」。
小さなお堂に入ると、そこにはお堂の狭さに見合わないほどたくさんの仏像がギュウギュウに並んでいます。
中尊は、鎌倉時代に作られた高さ約168cmの「薬師如来像」。がっしりした体格と、それにヒラリと流れるように纏われた衣の流麗な表現からは、高い彫刻の技術が伺えます。
仏像の中から「め」と書かれた書物が発見され、眼病平癒を願って作られたものだということがわかっています。
両脇には日光・月光(がっこう)菩薩像。さらに、周囲には武将姿の十二神将像がズラリ。
これらは、薬師如来を本尊とした時のお決まりのチーム。
薬師如来の前に座ると、小さなお堂の中でこれらの仏像たちに囲まれる形になるので、まさに仏世界に飛び込んだような感覚になります。
一人っきりで、貴重な仏像とこんなにも近距離になれる場所は他になかなかないので、とても貴重な場所です。
都から遠い地でも、こうして素晴らしい仏像が数多く残っています。今回の記事以外にも、ご紹介したい仏像がたくさんありますので【後編】の公開をお待ちください!
都内からも日帰り可能な圏内ですので、お出かけの参考に是非!
写真・文=Mr.tsubaking