天部とは一体?

目に水晶を嵌めた「玉眼」という技法で生命力アップ。
目に水晶を嵌めた「玉眼」という技法で生命力アップ。

仏教は2500年ほどの歴史の中で、他の宗教と合体したり争ったりしながら、進化を遂げてきました。

その中で、他の宗教の神様が仏教に取り込まれた仏像を「天部」と言います。

【如来編】【菩薩編】【明王編】でご紹介してきた仏が、仏教の教えで人々を救おうとしているのに対し、天部は仏や教えを守護する役割。

主にバラモン教(古代ヒンドゥー教)の神々を仏教に取り込んだため、その姿は様々です。

天部は、甲冑に身を固めた武人像、女性の姿をした天女像、精霊や妖怪などが元になる鬼神像などがあります。厳密な分類はありませんが、猛々しい姿の金剛力士像、美しい弁財天や吉祥天、その他、梵天や帝釈天、韋駄天や鬼子母神も天部の仲間です。

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東西南北を守る四天王

千葉県山武市「四尊天勝覚寺」の四天王。
千葉県山武市「四尊天勝覚寺」の四天王。

ある界隈のTOP4をまとめて「四天王」と呼ぶことがありますが、これは元々、仏教の四天王から来た言葉です。

仏の世界の四方に立ち、中尊とその教えを守護しています。

時に戦いながら守護するため、甲冑を着た猛々しい姿で表現されるのが一般的。

東西南北にそれぞれ、持国天(じこくてん)・広目天(こうもくてん)・増長天(ぞうちょうてん)・多聞天が立っています。

表情豊かな足元の邪鬼にも注目。
表情豊かな足元の邪鬼にも注目。

四天王の多くは足元に「邪鬼(じゃき)」という小鬼を踏みつけています。

これは、教えを守ろうとしない者を表現しているとも、欲や煩悩に流されてしまう私たちの弱い心を表現しているとも言われています。

「ぐきゃー!」「いてぇよぉー!」と声が聞こえて来そうな、姿になっている場合も多いので、足元までお見逃しのないようにしましょう!

四天王のソロ活動

グループとソロ活動では名前が変わります。
グループとソロ活動では名前が変わります。

人気の戦国武将である上杉謙信が信仰したことでも知られる「毘沙門天」。

七福神の一柱(ひとはしら。神様を数える単位は「はしら」です)としても、その名を聞いたことがある方も多いかもしれません。

実は、四天王のメンバーとして活動していた「多聞天」が、ソロ活動をするときの別名なのです!

KinkiKidsでは堂本剛という名前でも、ソロ活動の時はエンドリケリエンドリケリになるような感じかもしれません。

長い杖のような武器である宝棒(ほうぼう)と、仏舎利(釈迦の遺骨)が収められた宝塔(ほうとう)を持った姿が一般的。

勝負運のご利益があるとされ、派生して合格祈願(受験という勝負に勝つ)などの祈願に訪れる人も多くいます。

吉祥(よいこと)をもたらします!吉祥天

福徳の仏として篤い信仰をあつめる。
福徳の仏として篤い信仰をあつめる。

古代インドの女神「ラクシュミー」が仏教に取り入れられたのが、「吉祥天」。

美女の姿で表現され、幸福・美・富を求めて信仰されてきました。

かつては七福神に入っていたのですが、弁財天の人気が高まり、その座を明け渡したという、ちょっとだけ寂しい歴史もあります。

それでも、幸運とともに美や健康を求める根強い信仰があります。

美しい女性の姿で表されるので、京都「浄瑠璃寺」の吉祥天像(重要文化財)にはファンもたくさんいます。

なお、前述の毘沙門天は夫で、台東区入谷や豊島区雑司が谷に祀られる鬼子母神は吉祥天の母です。

そういった関係性を見ると、仏像の拝観にも一層深みが増しますね。

元は暗黒の国の戦いの神!大黒天

愛らしい中にもブラックな怖さが。
愛らしい中にもブラックな怖さが。

七福神の一柱でもあり、福徳をもたらすというイメージの強い大黒天。

2~3頭身のアニメ的なサイズで表現され、独特な笑顔。

俵に乗って、右手には財宝がザクザク出て来るという小槌を持ち、左手には金銀がたっぷり詰まっているという袋を抱えています。

しかし、その顔をよくよく見ると、ひょうきんそうな表情の奥にブラックな怖さを感じませんか?

実は、大黒天は古代ヒンドゥー教では「マハーカーラ」という青黒い姿をした破壊神だったのです。

マハーカーラは古いインドの言葉で「大きな暗黒」という意味で、日本ではそのまま「大黒」という名前になりました。

また、出雲大社に御祭神である「大国主命(おおくにぬしのみこと)」は訓読みにすると「大国=ダイコク」となることから、同一の神様では?と考える説もあるようです。

しかし、大黒天が元々、インドの神様だったことを考えると(大国主命は古事記に登場する、日本古来の神様)、別の存在であることがわかりますね。

七福神の紅一点!弁財天

琵琶を弾く姿で知られる弁財天。
琵琶を弾く姿で知られる弁財天。

七福神の紅一点「弁財天」は金運アップの神様としても知られています。

琵琶を持った女性の姿が一般的。

元々はインドの「サラスバティー」という神様で、インドの弦楽器「ヴィーナ」を持つ姿を、弁財天が引き継いで琵琶を持っているのです。

日本の土着信仰と合体。
日本の土着信仰と合体。

しかし、それとは全く違う姿をしている弁財天を見かけることがあります。

剣と宝珠を持ち、頭の上に、とぐろをまいた蛇を載せています。しかも、その蛇の顔は老爺という異形。

中には、八臂(手が8本)もある像も存在します!

これは、日本の土着信仰であった「宇賀神」という、五穀豊穣を司る神様と、弁財天が合体した「宇賀弁天」という姿です。

長い歴史の中で、様々な宗教や信仰と戦ったり合体して来た仏教には、こうしたハイブリッドな仏像もたくさんあるのです。

如来編から今回の天部編まで4回にわたってご紹介してきた「超簡単!仏像のミカタ」。

次回以降は、さらに詳しいお話も!

お寺や博物館に出かけた際の一助になれば幸いです!

文・写真=Mr.tsubaking