アクセス

鉄道:JR・地下鉄東京駅から上越新幹線・上信電鉄で約1時間40分の上州福島駅下車。

車:関越自動車道練馬ICから同自動車道・上信越自動車道で甘楽スマートICまで約94km。同ICから甘楽町中心部まで約4km。練馬ICから約99kmの富岡ICも利用可。

織田氏統治時代からの名残

上信電鉄上州福島駅から南へ向かってまもなく、国道254号との交差点名に思わず目が釘付けになった。「城下町小幡入口」。見慣れた「城下町」の文字だが、交差点名で見かけたのは初めてかも。「入口」の文言に誘(いざな)われるまま南下すると、やがて道路は石畳風の舗装に変わり、かたわらの用水路には清冽な水が流れ下っている。どうやらこの近辺が「城下町小幡」で、先ほど見かけた用水路は「雄川堰」と呼ばれる遺構らしい。

白壁に目を奪われる勘定奉行・高橋家の屋敷。
白壁に目を奪われる勘定奉行・高橋家の屋敷。

案内板に従い武家屋敷前を通り過ぎ、足を運んだのが『楽山園』である。かの織田信長の次男がこの地を与えられ、以後150年余にわたり代々統治していたのも初耳で、ましてやこれほどの名園が復元されていることすら知らなかった。

周辺を散策しながら気づいたのが公衆トイレの充実ぶりで、訪れる者へのさりげない気遣いがありがたい。その大半が瓦屋根を戴(いただ)いているので不思議に思っていると、「トイレだけでなく、公共施設の多くに瓦屋根が使われていますよ」と近所の方が教えてくれた。注意深く観察すると、たしかに瓦屋根だらけで、どれも重厚かつ壮観である。

さらに聞き込みを続けると、1世紀以上にわたる瓦製造の歴史は幕を閉じたが、今なお甘楽福島瓦協同組合が施工を請け負い、『甘楽ふるさと館』脇に復活しただるま窯で、伝統のいぶし瓦を逐次補充しているのだとか。とりわけ甘楽ふれあいの丘にある文化会館や中学校体育館は圧巻で、町内の瓦屋根を見て回るだけでも興味が尽きない。

地域ぐるみで推進。未来へつなぐ有機農業

「地粉(じごな)うどんならではの食べ応えが評判の店ですが、代表自らPRの先頭に立ち、斬新なアイデアを次々打ち出す姿勢もさすがですね」

との噂を聞き、『富田製麺』へ足を運んでみた。従来の卸しに加え、新たに飲食店を立ち上げた代表の菊池崇寛さんに地元での声を伝えると、「いやぁ、新しいことに取り組まないと、商売を続けていけませんから」と照れくさそうだ。2022年オープンの気さくなコッペパン屋さん『はるのぱん』や、小・中学校の同級生だった女性二人が2023年夏に始めた『おにぎりカフェ Bon Brun』といった新規開店組の評判もじわじわ浸透中で、食べ歩きの興味もますます尽きない。

そろそろ旅を終えようとしたところ、「そういえば甘楽町は2023年10月に『オーガニックビレッジ宣言』をしたんですよ」と耳にした。町では1980年代から有機農業を促進してきた経緯があり、県内の市町村で初の宣言に至ったとか。地域が一体となって有機農業による生産・消費を推し進め、次代へ継承する取り組みは今後活発になる見込みだ。「食」への関心も高まりそうで、この先の展開から目が離せない。

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楽山(らくさん)園

国の名勝に指定される優美な大名庭園

昆明池の先に築山や茶屋を配した池泉回遊式庭園は、園内屈指の撮影スポットでもある。
昆明池の先に築山や茶屋を配した池泉回遊式庭園は、園内屈指の撮影スポットでもある。

江戸時代初期、この地を治めた織田氏により築庭された池泉(ちせん)回遊式庭園。園内には御殿跡や使用人が暮らした拾九間長屋(じゅうきゅうけんながや・復元)のほか、気軽に一服できる「凌雲亭」もある。手入れの行き届いた庭園と周囲の低山が一体となり、ゆったりとした空間を生み出す構成も見事だ。

住所:群馬県甘楽町小幡648-2/営業時間:9:00~16:00(3~10月は~17:00)/定休日:無

城下町小幡(おばた)

歴史的景観に往時の様子がよみがえる

「松浦氏屋敷」は室内の様子も見学可能だ。
「松浦氏屋敷」は室内の様子も見学可能だ。

古くは豪族小幡氏一族の所領であったが、元和元年(1615)、織田信長の次男信雄(のぶかつ)が徳川家康より小幡二万石を授かり、寛永19年(1642)には、のちに「小幡城」と呼ばれる小幡陣屋を三代信昌が構築。以降、織田氏および松平氏による統治が明治維新に至るまで続くなか、生活用水路の雄川堰(おがわぜき)が巡り、家々が立ち並ぶ城下町が形成されていったという。『楽山園』周辺では「松浦氏屋敷」(県指定史跡)をはじめとする旧小幡藩の武家屋敷や「喰い違い郭(くるわ)」など、随所で城下町の面影に触れられる。

●「松浦氏屋敷」は入館無料。9:00~16:00(3~10月は~17:00)、無休。群馬県甘楽町小幡734-1 ☎なし

古民家かふぇ 信州屋

城下町散策の休憩に立ち寄りたい

元から置かれていた食器棚や看板が郷愁を誘う。
元から置かれていた食器棚や看板が郷愁を誘う。

明治後期築の商店を活用したカフェで、中庭の見える小上がりやカウンター席もある。城下町小幡のメインストリートに面し、観光案内所の機能も担う。甘楽のりんごジュース400円、焼きおにぎりと味噌汁のおこじはんセット700円など。

ホットコーヒーと地元和菓子のセット700円。
ホットコーヒーと地元和菓子のセット700円。
住所:群馬県甘楽町小幡7/営業時間:10:00~16:00/定休日:月(祝の場合は原則翌火休)

雄川堰(おがわぜき)

地域の変遷を見守り続ける象徴的遺構

一〜三番口取水口の様子を見られる雄川堰遊歩道。
一〜三番口取水口の様子を見られる雄川堰遊歩道。

町内を南北に貫く雄川の流れを取水口で取り込み、生活用水・灌漑(かんがい)用水として利用してきた石積み用水路。由来は定かではないが400年以上の歴史を有するとされ、小幡藩主の織田・松平両氏とも御用水奉行(ぶぎょう)を置き、管理に努めたという。貴重な遺構として日本名水百選はじめ、日本疎水(そすい)百選、世界かんがい施設遺産、水の郷百選などに選定。

富田製麺

1945年創業の製麺所が営む自慢のうどん店

サービス精神旺盛な4代目・菊池崇寛さん。手にしているのはmenmen各400円。
サービス精神旺盛な4代目・菊池崇寛さん。手にしているのはmenmen各400円。

群馬県産小麦の全粒粉にこだわった茶褐色の生うどんは、風味豊かで香りと食感が際立つ。トマトモッツァレラMサイズ900円など斬新なメニューもある。無添加うどんを揚げたmenmen各400円はお菓子感覚でポリポリ。

味変も楽しめる明太釜玉はSサイズ800円。
味変も楽しめる明太釜玉はSサイズ800円。
住所:群馬県甘楽町小幡143-1/営業時間:11:00~14:00(土・日・祝は~15:00)/定休日:祝を除く木・第3水

ギャラリー瓦窯(かわらがま)

地元で育まれた瓦文化の歩みを伝える

手描きの解説パネルや年季の入った道具類も必見。
手描きの解説パネルや年季の入った道具類も必見。

明治初期、官営富岡製糸場建設にあたり、福島地区では多くの瓦やレンガを製造。その福島瓦が歩んだ歴史の一端を今に伝える貴重な私設ギャラリーで、先人の熱い思いが垣間見える。台車に乗り、かつて使用されたトンネル窯内部も見学可能。

住所:群馬県甘楽町福島1457/営業時間:8:00~17:00/定休日:平日のみ開館(要事前連絡)

織田宗家七代の墓

墓参がてら眺めのよい公園でくつろげる

御霊屋からは紅葉山や連石山などの山々を望める。
御霊屋からは紅葉山や連石山などの山々を望める。

町内を一望する高台(崇福〈そうふく〉寺旧境内)にあり、小幡織田家初代信雄から七代信富(のぶよし)までの墓が並ぶ様子は壮観(八代信邦は移封先の出羽高畠〈たかはた〉で死去)。墓石はいずれも五輪塔で、2020年には墓石ごとに御霊屋(みたまや)が設けられた。一帯は四阿(あずまや)を備えたゆったりとした織田公公園として整備され、散策途中の休憩場所にもよい。

●入園自由。群馬県甘楽町小幡1416

連石山(れんせきざん)三十三観音

極楽往生を願う僧が厳しい修行を積んだ聖域

急斜面のところどころに石仏が祀られている。
急斜面のところどころに石仏が祀られている。

小幡七福神の一つ・長厳(ちょうごん)寺の背後に迫る連石山。現在はトレイルコースとして整備されているが、かつては修験の場であり、急な登山道脇には如意輪(にょいりん)観音や千手観音など三十三もの観音様が祀られている。明治初期の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)運動で多くが失われたが、その後補充され、聖域ならではの厳かな雰囲気が今なお漂う。

●散策自由。群馬県甘楽町小幡1926ほか

はるのぱん

ボリュームたっぷり! コッペパン専門店

あんマーガリン302円(左)、たまご378円。
あんマーガリン302円(左)、たまご378円。

甘さ控えめな自家製あんこが詰まったあんマーガリンをはじめ、デザート系・調理系合わせて常時10種以上のコッペパンが店頭に並ぶ。テイクアウト専門で、コッペパンのお供に合う日替わりサラダ162円やデザート(日替わり2種)もある。

具だくさんの日替わりスープ324円もぜひ♪
具だくさんの日替わりスープ324円もぜひ♪
住所:群馬県甘楽町金井438-5/営業時間:7:30~17:00/定休日:月(臨時休あり)

おにぎりカフェ Bon Brun(ボン ブラン)

幼なじみで切り盛りするほんわか空間

地元野菜中心の副菜と汁物が付くBonセット。
地元野菜中心の副菜と汁物が付くBonセット。

握りたておにぎり(単品150~350円)を味わえ、喫茶のみの利用もOK。ランチなら、おにぎり2個に副菜3品と汁物が付くBonセット1000円などセットメニューが狙い目だ(11:00~売り切れ次第終了)。

店長の佐々木渓都さん(左)と志村愛美さん。
店長の佐々木渓都さん(左)と志村愛美さん。
住所:群馬県甘楽町福島713/営業時間:6:30~19:30(月は~9:30)/定休日:火(祝の場合振り替え休あり)

【耳よりTOPIC】城下町小幡七福神めぐり

満願印は『甘楽ふるさと館』で押してもらえる。
満願印は『甘楽ふるさと館』で押してもらえる。

小幡地区近隣の宝泉寺、宝積(ほうしゃく)寺、長厳(ちょうごん)寺、興巖(こうがん)寺、天徳寺、龍門寺、福厳(ふくごん)寺に祀られた七福神を訪ね、スタンプを押して回る企画。全寺を回ると20km以上になるので、車や自転車などで移動するのがおすすめだ。台紙700円は『甘楽ふるさと館』『道の駅甘楽』『古民家かふぇ 信州屋』で販売。

●☎0274-74-2946(興巖寺)

取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2024年1月号より