はじめてでも親しみを感じる店の空気
店名は『松ちゃん』だが、笑顔で迎えてくれたのは森さん。10数年前に店を引き継ぎ、そのまま店名を変えていないのだそうで、お店には松っちゃんは不在なのだ。今では森さんの営む『松ちゃん』も街になじみ、多くの常連に愛されている。その人気ぶりから有限会社松ちゃんとして、支店の『松ちゃん 東あずま店』やライブダイニング『神楽坂SOCIAL CLUB』も運営しているという。
店の壁には力士の手形や有名人のサインが並ぶ。畳敷きの座敷へ案内されると、ふかふかの座布団に足を崩して一息。あちらこちらに貼られたメニューを眺めながら、周りの賑やかな声を聞いていると実家のような雰囲気に心がほどける。
メニューはもつ焼き居酒屋と名乗る通り、当然もつが美味しい。が、それだけでは終わらず、お刺身は常時10種類以上、揚げ物、炒め物……とメニュー豊富で、大衆酒場の鑑ともいえるラインナップが並ぶ。
中でも人気なのは、特製だれで味付けしたレバニラ炒め、ホルモンの鉄板焼きなどの炒めもの、もつの溶け込んだやさしい味わいの「カレーの頭」。また噂のナポリタンはかなりの確率で注文があるという。
ピリ辛のホルモン鉄板焼きで特製ハイボールをグイッと
ホルモンの鉄板焼き500円、スパゲティナポリタン450円、特製ハイボール230円。合わせて1000円ちょっととは、安すぎる。
「ホルモンの鉄板焼き」はジュウジュウ騒ぎながらやってきて、もっと飲みなよと言っているように聞こえる。にんにくの香りが食欲を促進。前のめりになって頬張ると、甘じょっぱい辛味噌の特製ダレが絡んだプリンプリンのホルモンは噛むほどに旨味が溢れて、琥珀色の特製ハイボールに手が伸びる。あぁ、もう一杯頼もうかな。
正統派を極めたナポリタン
ナポリタンは“居酒屋のナポリタン”と聞くだけでそそられるのに、食通の著名人や有名料理人も唸らせてせてきたというのだから外せない。
「材料もレシピもシンプル。隠し味は何を?と聞かれることもあるんですが、本当に普通のナポリタンですよ」と森さんは笑う。裏ワザがあるんでしょ?と思いたくなるほど、絶品なのだ。
正統派のビジュアルにうなずき、艶やかなオレンジにうっとりする。炒め加減が絶妙で、ケチャップの酸味とバターの旨味が一体化してまろやか。若者でも郷愁を感じる味わいで、〆にはもちろん酒にもぴったりくる。
ゆるゆると飲んでほろ酔いになり酒場と一体化して味わう。これが最高のスパイスで、心の中で美味しいと叫ぶ。こうして私も、わざわざ訪れるお客の仲間入りを果たしたのだった。
※『松ちゃん』は2020年4月現在、店内での飲食営業は自粛し、12時から19時までお弁当販売(500円)を行なっています(『松ちゃん 東あずま店』やライブダイニング『神楽坂SOCIAL CLUB』は自粛休業中)。
お近くの方は、ぜひ行ってみてくださいね。
『松ちゃん』店舗詳細
取材・文=福井晶 撮影=高野尚人