何と言っても観光地化していない、普段着の郊外の街の風情が魅力。いい感じのリノベ・カフェなども登場してきている。ショッピングはさておき、1日のんびり過ごすならおすすめの穴場エリアなのだ。まだ日本では街の情報が圧倒的に少ないので地元友人の情報なども参考に、一泊して探ってみた。参考になればウレシイ。
ちなみに彰化駅は台湾新幹線にも同名の駅がある(現地語表記だと台湾新幹線は彰化站、在来線は彰化車站)。今回紹介する在来線の彰化駅とはまったく別の場所になり、とんでもなく離れている。間違えるとシャレにならないのでご注意を。
【彰化さんぽ:お昼過ぎ~】
『北門口肉圓』地元名物料理のナンバーワン、肉圓(バーワン)をここで
甘塩っぱいたタレをかけた、巨大くず餅みたいな軽食が肉圓(バーワン)。生まれも育ちも台湾の郷土食である。半透明の皮は米やサツマイモの粉、片栗粉などで組み合わせたもの。具はあんこではなくて、豚挽肉をベースとし、椎茸、椎茸、貝柱、蝦(エビ)などを加える。これを蒸したり揚げたりして完成。独特なモチモチしこしこ感が持ち味でハマるとくせになる。各地にさまざまなバリエーションがあるそうな。ことに発祥の地である彰化を訪れたら食べぬわけにはいかない。駅周辺には専門店があちこちにあってしのぎを削り合っている。食べ比べてみたくなること必至。
ひとつあげるなら、利便性と独自性という点から、駅周辺で3店舗を有し、駅前店もあって使い勝手のいい『北門口肉圓(ベイメンコウバーワン)』を推しておきたい。1968年創業、蒸し上げたあと高温の油でしっかり揚げるのが特長。外側サックリ、中もちもちの肉圓の種類の中でも独特な口触りは、表面をしっかり焼いた餅が好きならハマることだろう。タレもさっぱりめでぺろりといける。湯類=スープも美味。写真のは豬肚=豚モツのスープ。
駅前店……11:00~17:20、火・水休。彰化市三民路34號
総本店(写真)……11:00~19:00、無休。彰化市民生路315號
肉圓大100元 小50元 湯類各50元
「彰化扇子車庫」1922年から現役! 鉄道好きじゃなくても惹かれる光景
在来線彰化駅から徒歩10分ほど。線路際の丸い敷地に建つ車庫が「彰化扇形車庫(チャンファシャンシンチャークー)」である。ガイドブックに彰化の項目があれば、まず登場する屈指の名所。敷地の線路が廻り舞台のように回転し、電車を扇状に並ぶ12の車庫のいずれかへ運ぶコンパクトな仕様。1922年開設、現役で100年を越えたことになる。車庫には蒸気機関車も保存され、独特な容姿の古い車庫と周辺の様子は鉄道マニアでなくても心躍るものがある。
地味な正面入り口を入り右手の窓口で代表者の氏名、入場時間等を記載すれば、あとは無料で見学できる。車庫は奥に続く小道を進んで行った先、右手にどでんと現れる。
しずしずとやって来た電車が、線路上で回転して、車庫に収まっていく姿は一見の価値はある。ただし現役の整備施設で、時刻表なんてものもないので、電車はいつやってくるか分からない。見晴らしのいいちょっとした展望台、日よけ付きの休憩コーナー、あるいは入り口近くの殺風景な休憩室あたりで、やって来るのをノンビリ構えて待つしかない。それもまた楽しだ。
「南天宮十八層地獄」50年余の歴史を持つ地獄巡りスポット
彰化駅東側の市街地は、八卦山の台地が間近に迫っていて、先端の頂きには巨大な大仏像が鎮座ましましている。彰化を訪れる際にはご挨拶しておくべきスポットだし、ここから望む市街地は絶景である。駅から徒歩20〜30分。麓の彰化県立美術館の脇から始まる坂道「卦山路」を登っていくのが王道ルートだが、あえて1本南隣りの坂道「公園路」を登りたい。5分ほどで右手に「八卦南天宮」という看板がかかる脇道にさしかかる。その道の突き当たりにあるのが「南天宮十八層地獄(ナンテンゴンシーバーツォンディユー)」である。字面から何となく分かるように、地獄巡りがテーマのスポット。「南天宮」は寺の名前、「十八層地獄」というのは中国文化圏において地獄は18層に分かれているとの伝承があり(日本は8つですね)、十八層地獄=その地獄の最下層または地獄界全体、を指す言葉。ここはさまざまな地獄を観て回り、心を悔い改められるありがたい場所なのである。
寺院は4階建て。50年余の歴史があるという。2階から上が展示場で、亡者が生前の罰を受け、悶え苦しむさまざまな姿が等身大のパノラマで延々と示されている。1階入って左手で拝観料50元(大人)を支払い、階段で2階へ。鬼の口を象(かたど)ったゆるい雰囲気の入り口をくぐり抜け、暗い通路をたどって地獄巡りのはじまりだ。電動仕掛けで拙く動き回る人形たちや、突然ガタガタ揺れて驚かされる足元などなど、一昔前のベタなお化け屋敷の風情である。ぎこちない様がむしろ怖さを煽る(笑)。子供時代に観たという地元友人は少しトラウマになったとのこと。納得できる。シーンごとに現地語の説明がされているが。分からなくても地獄感満載だ。しかも後半はほぼ地獄から離れて恐怖の館状態。おおらかな適当さは台湾ならではの持ち味のひとつ。
堪能したら1階に戻り、建物の向かって右脇の階段を登る。山頂への参道につながっていて、大仏さまが鎮座まします八卦山大佛風景区(バーグァシャンダーフォフォンジンチュ)へたどり着く。ここ、実は台湾の八大名勝地の一つに数えられている。
「八卦山大佛風景区」鎌倉大仏がモデルの大仏と、市街地が見渡せる展望デッキ
立派な石段の先にそびえる大佛像は1961年完成、鎌倉大仏をモデルにしているそうで、言われてみると確かに似ている。鉄筋コンクリート製で高さ21.6m。内部も拝観可能。仏像を振り返ると少し下った階段の先が展望台デッキになっていて、駅を含む市街地を見渡せる。「南天宮十八層地獄」を巡ったあとで見る風景は、まさに地獄から極楽の心境で格別だ。
一方大仏の背後には、回廊をはさんで大仏寺が建っている。1972年建立、4階建の大きな建物。
広々とした内部に釈迦牟尼仏に加えて孔子像、関聖帝君像も祀られ、儒教、仏教、道教が融合しているあたりが台湾である。こちらも拝観可能(8時30分~17時30分)。上階に登り、バルコニー越しに外を望むと正面に大仏像の後ろ姿。背中に換気用窓がタテ2列に設けられているのだが、大仏様が湿布を張っていらっしゃるように見えて仕方がない。
何かともめごとの多い下界を見守り続けることに、さぞやお疲れなのであろうなんて余計な感慨にふけることもできる。
・彰化市溫泉路31號
『Stable Fly 穩定飛行模式(ウェンディンフェイシンムォシー)』カフェでは60種類以上の飲み物が揃う
曇花佛堂というお寺の小さな山門を入ってすぐ左手に隠れている。三階建ての古ビルをまるごとリノベーション。車道に面していないから、建物の前にも席が置かれ、のんびりいい具合である。
アンティーク調の雑貨類で飾りたてた1階がカフェ、2階はケーキの食べられるスイーツコーナー、3階と屋上4階はアンティーク小物や家具、衣類の販売ゾーンとなっている。 昭和レトロっぽい品から、エキゾチックな中華風の小物、珍品まで、余裕のある空間に、工夫を凝らして並べられている様子が楽しい。彰化のサブカルの殿堂なり。
1階のカフェのメニューは、軽食もあるが飲み物のバリエーションがハンパなく、クラフトビールにコーヒーや紅茶、台湾茶、さらにオリジナルのハーブティが各種合わせて60種類以上。写真の緑色の飲み物は「就是香菜」と、文字通り香菜のジュース(120元)。こんな攻めているヤツもある。お味のほどは行って確かめてください。
【彰化さんぽ:夕方~】
『立軒閣文化廚苑』供される中華+台湾料理は別格の味わい
彰化駅前は、肉圓をはじめ軽食に関して豊富なのだけど、しっかりめのディナーを食うぞとなるとハードルが上がる。舌に信用の置ける地元友人から、普段使いしているおすすめを紹介してもらった。駅前の奥まったあたり、素通りしそうな地味な通り沿いにさりげなく建っている『立軒閣文化廚苑(リーシュェングェアウェインファチュユェン)』がそれ。ガラス窓越しに見える店内は平日なのにけっこうなにぎわい。きりっとしたおいしそうなオーラが漂っている。
店の建物は築60年余の洋館をリノベーションしたものだという。1階が店内で、広いスペースは白を基調とし、屋上まで抜ける吹き抜けや、コンクリをむき出しにした壁の一部などに往年の面影を残している。それに呼応するように、随所に大胆に飾られた花のオブジェ。そんな空間にシンプルなテーブル席がゆったり並び、居心地のいい雰囲気を生み出している。2023年、台湾で商業空間の分野で賞も受賞したとか(Taiwan Interior Design Award)。店の造りからしてタダ者じゃないっす。
供される料理は中華+台湾料理。菜單=メニューは現地語のみながら、おすすめ品は写真付きなので、予約さえできればなんとかなるはず。現地の料理を少し食べ慣れていれば、おなじみの品々が大半なので、アタリはつきやすい。ただし味は別格。見た目も味も洗練されていて、まことに品がいい。食材の吟味のほどが窺われるし、さっぱりめの味付けは日本人の口にもなじみやすいはず。古早味豆腐(昔ながらの揚げ出し豆腐)、閣香酥肉(サクサクの豚唐揚げ)、芋頭地瓜絲(タロ芋と里芋の細切りフライ)、青苦瓜排骨湯(苦瓜とスペアリブのスープ)などなど。
ことに野菜がおいしいし、招牌炒飯=看板商品のチャーハンにはうなってしまった。数種ある中でこれはカラスミ入りのやつ。絶妙にぱらけたメシの食感と塩加減がツボで、これのためだけに彰化を再訪してもいいやくらいに思うほどだった。お値段ひと品ざっくり200元前後。ランチタイムも営業。品数を抑えればそこそこの値段で楽しめるはず。
一方、まさに食事のための店で酒類はなし。このあたりのセンスがまた台湾だ。呑みたければ近所の酒場にでかけるべし。
『酒號工作室(ジョウハオゴンズォシー) NO.9 WorkShop』雰囲気のいい店で、フルーツや台湾茶を使ったカクテルを堪能
商店街のはずれ、オーセンティックな地元仕様のバー。1階にあってふらりと入りやすい。夜9時過ぎに訪れたときには、若い女性がひとり店を切り盛りしていた。これから混み出すという雰囲気で、実際若い地元客がグループで入ってきた。照明を抑えた落ち着く店構え。メニューには台湾らしく、フルーツや台湾茶を使ったカクテルが並ぶ。たとえば「美人物語」なるカクテルは、代表的な台湾茶のひとつ東方美人でこさえた酒にブドウとキウイをミックスさせたもの。新鮮なフルーツの甘味を茶がまとめあげ、いい出来である。
【彰化さんぽ:宿と朝食】
『H.1967』1967年築の民家をリノベした、隠れ家風の宿
商店街の小道の先に隠れている1967年築の民家をリノベした宿。玄関脇に記された手描きの看板が目印だ。何とも隠れ家っぽい。
彰化駅周辺の街歩きには最適のロケーション、街中で暮らす感覚で宿泊できる。磨石子と呼ばれる人工大理石の床、ひとクセある鉄製の窓枠や階段の手すりやなど、随所に古民家ならではのレトロ・アイテムが見て取れる。
部屋は清潔でそこそこ広さもある。食事ナシだが、食事のできる店は周囲にいくらでもあるし、表通りに出て左向かいに『草莓肉鬆手作早午餐(ツァオメイロウソンショウズォザオウーツァン)』という朝食向きの店もあるから困ることはない。オーナー氏のこざっぱりした対応もいい。日本語は通じないが、宿泊のルールを書いた日本文が用意されているし、サイトから英文等で予約できればなんとかなるでしょう。
・彰化市太平街22號
『草莓肉鬆手作早午餐』台湾朝ご飯の定番も、珍しい一品も
「草莓(ツァオメイ)」はイチゴ、「肉鬆(ロウソン)」は台湾風の甘塩っぱい田麩(でんぶ)のこと。「手作早午餐」は手作りの朝食・ブランチの店を意味する。この手の専門店は台湾の定番で、街角には必ずある。営業時間も早朝から昼過ぎくらいまで。でもってこの店、名前の由来は「草莓肉鬆吐司」なる品を看板商品とするから。イチゴジャムに田麩をまぶしたサンドイッチである。こんなの見たことないよ。
めくって中身を改めるとビミョウな感じ。しかし食べてみるとこれがイケる。庶民的イチゴジャムを分散した田麩の塊が吸い込み、イチゴ果実のような食感になっておいしさアップ、ほんのり塩味ただよう台湾食パンともマッチしている。
若い夫婦が営む掃除の行き届いた明るい店で、風の抜けるテーブル席で朝食を頬張るのは心地よい。「吃好吃我第一次吃這個(おいしいおいしい始めて食べたよ)!」と拙い現地語で話しかけたら、イチゴジャム大好きな奥さんが考案したんだとか。その後台南で同じ趣向の品があるのを確認したそうだが、まったくの偶然。こういうのはオリジナルの発想であることが要で、真摯な姿勢が味ににじみ出る。店にはほかにも台湾玉子巻の蛋餅や、豆乳の豆漿などなど台湾朝ご飯の定番もしっかり揃っている。さっぱりめの味で朝食にはもってこい。
取材・文・撮影=奥谷道草