およそ199m。2026年、もんじゃストリート西側に完成予定のタワーマンションの高さである。三谷葬儀社の2代目・三谷久夫さんがケヅメリクガメのボンちゃんと散歩するのは、その周辺だ。
「この子と散歩を始めたのは2006年。甲羅に乗ってた街の子たちも、もう大人だ。そのころと比べ、月島はずいぶん変わったね」
確かに昔ながらの風情は薄れつつある。けれど、温故知新を大切にする魅惑の新店も続々。大正時代の建具などを内装に用い、2019年に長屋の一画で開業したのが『BAR新井建具店』だ。
「その頃から小さなバーや飲み屋さんが増えています。うちの長屋もそうですが、フロア面積の小さな貸し物件が多い街だからだと思います」と店主・新井健太さん。
ガラパゴス化した島のやっぱり愛おしい風景
『日替わりCafé&Barモンデンキント』はより新しく、2020年の開業。代表の小駒眞人(こごま まこと)さんいわく「古くからの地元民もタワマン住まいのパワーカップルも楽しめる、質の高い店がどんどんできています。いい意味で新旧のカオスがすごい!」
古民家などでお店を始めたい人と、家主のマッチングの手助けをしているのが『佃島学校』を運営する一級建築士の志村秀明さん。
「380年前の地割を残している佃は、都内において非常に希少な街。既存の路地や長屋など人間的スケールと、タワマンが両立できるような街になってほしいです」
とりわけ、正保元年(1644)に初めて埋め立てられた場所に住む佃1丁目の人々は、地元愛が深い。1丁目のことを指す“島内(しまうち)”という言葉にも、そのプライドがチラリ。昔ながらの銭湯や佃煮屋、駄菓子を売る酒屋も、ぜんぶ佃小橋を渡った島内に残っているのだ。
歴史の層の重なりを見てとれる佃と違って、勝どきは風景が上書き保存されている印象。そのなかで新旧の共存を感じられるのが、看板建築の駄菓子屋と鮮魚店の間に立つ『Clos wine days』だ。1階のカウンターでワイングラスを傾けていると、水色の窓枠の向こうには原色の遊具彩る公園が。ベンチにはガチャガチャのカプセルを開ける子供、その奥では52階建ての勝どきビュータワーが盛夏の空を映していた。
BAR新井建具店
和をもってバーとなす
一部内装は店主の叔父が営む建具店に依頼し、屋号も継承。昔ながらの二十四節季をテーマとしたカクテル、店主がサントリー在籍時に開発に携わった『碧Ao』のハイボール1100円が名物。
・18:00~翌1:00(土は17:00~、日・祝は16:00~24:00)、不定休。
・☎090-6349-7337
フィッシャリーズテラス
島の端っこに東京湾の海の家
元マグロの卸が営んでおり、マグロの鮮度に自信あり。「レインボーブリッジや対岸の元選手村などの絶景とぜひ!」と店長の浜中祥平さん(左)。
・10:30~20:30(月は~16:30、金は~22:00、土は7:30~22:00、日・祝は7:30~20:30)、無休。
・☎03-3533-0111
日替わりCafé&Barモンデンキント
渋色(しぶいろ)建築に彩りを加える日替わり店長
代表・小駒さん(中央)が父親の地元月島で、築約80年の天ぷら屋だった古民家を改装。昭和の雰囲気を残したまま、元建築士のhano coffeeさん(左)や、米農家の孫のKOME・COFFEEさん(右)など個性派店主が集まる日替わりの間貸しカフェバーに。
・10:00~23:00ごろ(日によって変動)、不定休。
DOWNTOWN
思わず「眼」に付くつげ義春的路地風景
店長の中山勇佑さんいわく「眼鏡のセレクトショップがなかった月島から、眼鏡の楽しさを伝えようと発信しています」。フレームの彫金が目を引くMATSUDAや10㎜の肉厚生地が魅力のJACQUES MARIE MAGEなど、コンセプチュアルなブランドをセレクト。
・11:00~18:00、木休。
・☎03-4361-4988
佃島学校
長屋学校の障子や天井を再利用!
芝浦工大教授の志村さんが、3代に渡り住んでいた長屋を改修し、月島長屋学校を開校。有志の人々が月に1度ほど集まり、地域雑誌『佃・月島』の発行や、長屋ツアーを行うなど地元の情報を発信してきた。その後、再開発で立ち退きが決まり、2023年春新たに佃島学校(写真)を佃1丁目に開校した。
・内部見学不可。☎なし
つくだ煮処 つくしん
甘辛い香りに惹かれ路地をたどると……
佃煮製造・卸の老舗が、2012年から小売も開始。
「豊洲仕入れで刺し身でもいけるマグロや国産キクラゲを使うなど、理想の佃煮を追求しました」と3代目。まぐろの角煮・きくらげ各594円ほか、土産にしやすい小パックで販売(竹かご別途99円)。
・8:00~18:00、月休。
・☎03-3531-7578
日の出湯
佃のアツ湯好きが憩う門前銭湯
住吉神社の南側で昭和20年代に創業。1983年頃に今のマンション銭湯に。真ん中にそびえる煙突は、重油で沸かしていたときの名残だ。風呂は約45℃の「あつゆ」、ジェットバス付きの「中かん」、電気風呂の「ぬるい」と3つの温度帯を用意。
・15:00~24:00、木休。入浴料520円。
・☎03-3532-1629
Clos wine days(クロ ワイン デイズ)
お隣は子供が集い、こちらはワイン党集う
勝どきでワインバルを営む手島さん夫婦が、ワイン販売と立ち飲み、レンタルキッチンを兼ねたお店を2023年1月にオープン。「街の新しいコミュニティースペースを作りたかったんです」。各国のワイン約400本が揃い、グラスは700円~。
・15:00~22:00(月は18:00~、土は11:00~21:00、日は11:00~18:00)、火休。
・☎03-3520-9818
取材・文=鈴木健太 撮影=山出高士
『散歩の達人』2023年9月号より