およそ199m。2026年、もんじゃストリート西側に完成予定のタワーマンションの高さである。三谷葬儀社の2代目・三谷久夫さんがケヅメリクガメのボンちゃんと散歩するのは、その周辺だ。

「この子と散歩を始めたのは2006年。甲羅に乗ってた街の子たちも、もう大人だ。そのころと比べ、月島はずいぶん変わったね」

三谷葬儀社の三谷さんと愛亀のボンちゃん(27歳)は、ほぼ毎日お散歩。同社→新井建具店前→もんじゃストリートが定番コースだ。暑い日は17時ごろ、涼しくなると16時30分ごろが散歩タイム。
三谷葬儀社の三谷さんと愛亀のボンちゃん(27歳)は、ほぼ毎日お散歩。同社→新井建具店前→もんじゃストリートが定番コースだ。暑い日は17時ごろ、涼しくなると16時30分ごろが散歩タイム。

確かに昔ながらの風情は薄れつつある。けれど、温故知新を大切にする魅惑の新店も続々。大正時代の建具などを内装に用い、2019年に長屋の一画で開業したのが『BAR新井建具店』だ。

「その頃から小さなバーや飲み屋さんが増えています。うちの長屋もそうですが、フロア面積の小さな貸し物件が多い街だからだと思います」と店主・新井健太さん。

名酒場『岸田屋』の北側など、路地にある鉢植えが美しい。もんじゃストリートから伸びる路地には、かつての地割りが1間から9尺(1.8~2.7m)という路地幅に名残を留めている。
名酒場『岸田屋』の北側など、路地にある鉢植えが美しい。もんじゃストリートから伸びる路地には、かつての地割りが1間から9尺(1.8~2.7m)という路地幅に名残を留めている。

ガラパゴス化した島のやっぱり愛おしい風景

『日替わりCafé&Barモンデンキント』はより新しく、2020年の開業。代表の小駒眞人(こごま まこと)さんいわく「古くからの地元民もタワマン住まいのパワーカップルも楽しめる、質の高い店がどんどんできています。いい意味で新旧のカオスがすごい!」

古民家などでお店を始めたい人と、家主のマッチングの手助けをしているのが『佃島学校』を運営する一級建築士の志村秀明さん。
「380年前の地割を残している佃は、都内において非常に希少な街。既存の路地や長屋など人間的スケールと、タワマンが両立できるような街になってほしいです」

とりわけ、正保元年(1644)に初めて埋め立てられた場所に住む佃1丁目の人々は、地元愛が深い。1丁目のことを指す“島内(しまうち)”という言葉にも、そのプライドがチラリ。昔ながらの銭湯や佃煮屋、駄菓子を売る酒屋も、ぜんぶ佃小橋を渡った島内に残っているのだ。

歴史の層の重なりを見てとれる佃と違って、勝どきは風景が上書き保存されている印象。そのなかで新旧の共存を感じられるのが、看板建築の駄菓子屋と鮮魚店の間に立つ『Clos wine days』だ。1階のカウンターでワイングラスを傾けていると、水色の窓枠の向こうには原色の遊具彩る公園が。ベンチにはガチャガチャのカプセルを開ける子供、その奥では52階建ての勝どきビュータワーが盛夏の空を映していた。

ビルの通路奥には1951年建立の月島観音が。観音様の清掃をされている精肉店男性によると「昔は近所の洋品店で御朱印をもらえたけど、店主がご高齢でやめちゃったんだ」。
ビルの通路奥には1951年建立の月島観音が。観音様の清掃をされている精肉店男性によると「昔は近所の洋品店で御朱印をもらえたけど、店主がご高齢でやめちゃったんだ」。
1988年の月島駅開業年に、もんじゃストリートの現アーケードが完成。もんじゃ目当ての観光客でにぎわう目抜き通りの脇道や、一本横の道にも地元民御用達の名店が。
1988年の月島駅開業年に、もんじゃストリートの現アーケードが完成。もんじゃ目当ての観光客でにぎわう目抜き通りの脇道や、一本横の道にも地元民御用達の名店が。

BAR新井建具店

和をもってバーとなす

1年を24の季節で分ける二十四節季のカクテル1600円~。この日は七夕がテーマ。
1年を24の季節で分ける二十四節季のカクテル1600円~。この日は七夕がテーマ。

一部内装は店主の叔父が営む建具店に依頼し、屋号も継承。昔ながらの二十四節季をテーマとしたカクテル、店主がサントリー在籍時に開発に携わった『碧Ao』のハイボール1100円が名物。

・18:00~翌1:00(土は17:00~、日・祝は16:00~24:00)、不定休。
・☎090-6349-7337

フィッシャリーズテラス

島の端っこに東京湾の海の家

元マグロの卸が営んでおり、マグロの鮮度に自信あり。「レインボーブリッジや対岸の元選手村などの絶景とぜひ!」と店長の浜中祥平さん(左)。

・10:30~20:30(月は~16:30、金は~22:00、土は7:30~22:00、日・祝は7:30~20:30)、無休。
・☎03-3533-0111

日替わりCafé&Barモンデンキント

渋色(しぶいろ)建築に彩りを加える日替わり店長

代表・小駒さん(中央)が父親の地元月島で、築約80年の天ぷら屋だった古民家を改装。昭和の雰囲気を残したまま、元建築士のhano coffeeさん(左)や、米農家の孫のKOME・COFFEEさん(右)など個性派店主が集まる日替わりの間貸しカフェバーに。

・10:00~23:00ごろ(日によって変動)、不定休。

DOWNTOWN

思わず「眼」に付くつげ義春的路地風景

店長の中山勇佑さんいわく「眼鏡のセレクトショップがなかった月島から、眼鏡の楽しさを伝えようと発信しています」。フレームの彫金が目を引くMATSUDAや10㎜の肉厚生地が魅力のJACQUES MARIE MAGEなど、コンセプチュアルなブランドをセレクト。

・11:00~18:00、木休。
・☎03-4361-4988

佃島学校

長屋学校の障子や天井を再利用!

芝浦工大教授の志村さんが、3代に渡り住んでいた長屋を改修し、月島長屋学校を開校。有志の人々が月に1度ほど集まり、地域雑誌『佃・月島』の発行や、長屋ツアーを行うなど地元の情報を発信してきた。その後、再開発で立ち退きが決まり、2023年春新たに佃島学校(写真)を佃1丁目に開校した。

・内部見学不可。☎なし

つくだ煮処 つくしん

甘辛い香りに惹かれ路地をたどると……

佃煮製造・卸の老舗が、2012年から小売も開始。
「豊洲仕入れで刺し身でもいけるマグロや国産キクラゲを使うなど、理想の佃煮を追求しました」と3代目。まぐろの角煮・きくらげ各594円ほか、土産にしやすい小パックで販売(竹かご別途99円)。

・8:00~18:00、月休。
・☎03-3531-7578

日の出湯

佃のアツ湯好きが憩う門前銭湯

住吉神社の南側で昭和20年代に創業。1983年頃に今のマンション銭湯に。真ん中にそびえる煙突は、重油で沸かしていたときの名残だ。風呂は約45℃の「あつゆ」、ジェットバス付きの「中かん」、電気風呂の「ぬるい」と3つの温度帯を用意。

・15:00~24:00、木休。入浴料520円。
・☎03-3532-1629

Clos wine days(クロ ワイン デイズ)

お隣は子供が集い、こちらはワイン党集う

勝どきでワインバルを営む手島さん夫婦が、ワイン販売と立ち飲み、レンタルキッチンを兼ねたお店を2023年1月にオープン。「街の新しいコミュニティースペースを作りたかったんです」。各国のワイン約400本が揃い、グラスは700円~。

・15:00~22:00(月は18:00~、土は11:00~21:00、日は11:00~18:00)、火休。
・☎03-3520-9818

取材・文=鈴木健太 撮影=山出高士
『散歩の達人』2023年9月号より

木造家屋の向こうにそびえる高層ビル群。新旧の街が対比する佃島から、ギャラリーの街・コーヒーの街として注目される清澄白河へ。ここでも新旧の店が点在する。最後に訪れる門前仲町は、富岡八幡宮と深川不動尊の門前町。参道は縁日のようなにぎわいがある。
さんたつ公式サポーターのみなさんから募集した「散歩コース」の実踏企画、第2弾!とっておきの散歩コースをお寄せくださったさんサポのみなさん、ありがとうございました!今回は、サポーターネーム・柳谷ナオさん考案の「ローカル民イチオシ!ちょっとニッチな中央区」実踏の模様をお届けします。文=阿部修作(さんたつ編集部)